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your charm - 05



知らない人ばかりの教室に顔を出すなんて、小心者の私からすれば結構ハードル高い。しかも1-Aとでかでか書いてあるこの扉の向こうには、もしかすると、彼がいるかもしれないのだから更に。

しかしここまで来たからには目的を遂行するまで帰れない。当然だ。今日は土曜日、午前中のみの授業も終えてしまった。
来週から職場体験だというヒーロー科の彼女に会うためには、これがラストチャンスなのだ。はあ、と深く息を吐いて、よしっと覚悟を決めた。

がら、と開くと中には結構人が集まっていた。普通科とは違い、ヒーロー科は土曜日もきちんと午後の授業がある。もう十分もすれば開始時間だ。扉の近くにいた何人かが私を見て、不思議そうな表情を浮かべた。

「御守さん!」

そんなうちの一人、目的の相手はすぐに私に気がついてくれた。おかげで声を出す必要がなくて済んだ。

八百万さんは席を立って、慌てた様子で教室から出てきてくれた。わざわざお越し頂いてすみません、と丁重な言葉を受け取る。

「気にしないで。遅くなってごめんね」
「いいえ、そんな!むしろありがとうございます。確か、制作期間が長いほど効果が強いのでしょう?」
「うん、そのはず。いっぱいお願いしておいたから、きっと上手くいくよ!」

そう言いながら、小さな巾着袋型のお守りを差し出した。八百万さんはまあ!と声をあげて、両手で大事そうに受け取った。
彼女自身が作ってくれた白いちりめんの布に、薄いピンク色の糸で流線の模様を少しだけ縫いこんでみた。紐も白を使って、紐の先に小さな赤いビーズをはめている。純粋な彼女の性格を思いながら作ったお守り袋は、真っ白でコロンとした可愛らしいものに出来上がった。

思った通り、ほんのり頬を染めて目を輝かせる八百万さんにはぴったり。ヒーロー科所属の実力者なのに、こういうところは普通の女の子だなぁ。こう喜んでもらえると、一週間以上をかけて作成した甲斐があったというものだ。
以前の気落ちした様子とは違って、本当に嬉しそうにお守り袋を握る八百万さん。少しは気分が上向いたのなら、よかった。

私もにこにこしてそんな彼女のことを見ていたのだけれど、不意に廊下の向こうからやってくる男子生徒の姿を見てハッとした。

「あっ、八百万さん!私もう帰るね、予鈴鳴っちゃう」
「本当に、ありがとうございました。大切にしますわ」
「うん!職場体験、頑張ってね」

慌てて彼女と別れの挨拶を交わし、鞄に荷物を突っ込んだ。軽く手を振って、1-Aの教室から離れる。
手を振り返してくれる八百万さんの向こうを見て、またどきりとする。

赤と白の髪をもつ彼の色違いの目が、不思議そうに私を見ているのに気がついてしまった。かあっと熱くなった顔を背け、急いで玄関に向かう。

*  *

もうすぐ午後の授業が始まる時間なので、図書室から教室に戻ってきた。
教室の扉の前に見覚えのあるポニーテールの後ろ姿があって、誰かと話しているらしい。別に八百万の交友関係に興味はなかったが、その肩の向こうに見えたのは知らない顔だった。クラスのやつじゃないのか、珍しい。

その見かけない女子生徒と、一瞬目が合った。ような。
ほんのり頬を染めたそいつはすぐに顔を背けて、慌てた様子でどこかへ行ってしまった。……俺なんかしたか?

八百万は教室に戻るでもなく、後ろから見ていてもわかるくらいそわそわした風で立ち尽くしていた。
なにしてんだと思いながら近づくと、足音でも聞こえたのか不意に八百万が振り向いた。

「あら、轟さん」
「……さっきの、別クラスの奴だよな?」
「はい。お友達ですわっ」

やっぱりいつもより嬉しそうに見える。どうしてそんなに上機嫌なのかと不思議に思っていたら、八百万が両手に載せていた白い袋を見せてくれた。

「これを作って頂いたんです!」

なるほど、上機嫌の理由はこれらしい。女子の手のひらに載せても小さく見えるような、丸い形のそれを見て、俺はつい呟いた。

「また、お守り……」
「はい?」
「いや何でもない」

八百万は不思議そうに首を傾げたが、すぐ首を振ってみせると特に詮索もしてこなかった。
それよりも作ってもらったというお守りが相当気に入ったらしく、手のひらの上でころころと遊ばせては目を輝かせている。

「そんくらい、お前自分で創れるだろ」
「なっ、轟さん!そういうことじゃありませんわ!」

思わず口を挟むと、信じられない!というような顔で非難された。『創造』なんて半ばチートな個性を持っているくせに、物をもらって喜ぶというのはよくわからん。

そうだ、八百万に聞こうと思っていたのを忘れるところだった。図書室に行ったが、さすがに高校生が調べる情報じゃないらしく、収穫は期待外れだったのだ。

「そんなことより、聞きたいことがある」
「そんなこと……まあ、いいですわ……」

八百万は少し呆れた顔をして、なんでしょうか?と問い返した。

「オールマイトって、折り紙で折れるのか?」

そして俺の質問に対し、きょとんと目を丸くした。

「折り紙でオールマイト、ですか?」
「ああ」
「……ええと、できますわよ」

おそらく俺の真意がわからないからだろう、困惑した様子を浮かべつつ、八百万は左の手のひらをこちらに差し出した。その上にじわじわと黄色の耳から現れる。

「子どもの頃よく作りましたわ、懐かしいです。どうぞ」
「……ああ」

ものの二秒で、黄色と薄橙色の折り紙で作られたオールマイトの顔が出来上がった。
なんの感慨もなくどうぞと差し出されたそれを、複雑な感情を抱いて受け取る。ご丁寧にリアルな顔まで描き込まれているのがなんとも言えない。
さすがの八百万クオリティってやつではある。ピシッと綺麗に折り込まれていて、皺ひとつなく、ある種完璧な折り紙オールマイト。

――そういうことじゃねえんだよな……。

ちょうどその時、予鈴のチャイムが鳴った。八百万はあっと声を漏らして、授業ですわ轟さん、と俺にも声をかけて教室に入っていった。白くて丸いお守り袋を大事そうに握りしめて。
そういうことじゃありませんわ!と怒られたのを思い出して、なるほど少し納得だ。

午後の授業の準備、と思って教室に入ろうとして――その時、足元に“それ”が落ちているのを見つけた。



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