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your charm - 03



あの子はおとなしい子だった。
あまりおしゃべりをするのが得意じゃない、みんなが遊んでいるのを遠巻きにしているような子だった。時々様子を伺えば、楽しそうに笑っているみんなを羨ましそうに見ているような子だった。

ある日、幼稚園の庭で何人かの友達と一緒にボール遊びをしていた。ふと思い出してあたりを見渡した時に、あの子がいないことに気がついた。
いつもなら園舎の影になっている場所で一人ポツンと座り込んでいるのに、どこにも見当たらない。
なんとなく気になってしまって、私は友達の輪から抜け出した。

教室に戻ってみてももぬけの殻、他の子達と遊んでもいない。職員室で何か仕事をする先生の側にもいない。
ううーんと庭に戻ろうとした時、草むらの向こうに赤と白の小さな頭がちらりと見えた。慌てて草むらに分け入り、探していた相手が座り込んでいるのを見つけてしまった。

赤と白の色違いの髪。黒と青の色違いの瞳。何もかもが不思議な雰囲気の男の子。
そんな彼が、誰にも見つからないような場所で、大きな目からぽろぽろ涙を流して私を見上げた。

*  *

控えめな音を立てて扉が開かれた。不思議に思って目を向けると、予想していなかった相手がおずおずと顔を出していた。

「八百万さん!」
「あ、御守さん。よかったです、いらっしゃって……」

そう言った彼女はホッとした様子で小さく笑った。
天下のヒーロー科の推薦入学者だと聞いたけど、彼女はとても礼儀正しくて気取ったところのない素敵な女の子だ。

八百万さんは私に用事があったらしく、お時間よろしいですか?と尋ねられた。二度三度と首を縦に振ると、失礼致します、と丁寧な言葉でもって足を踏み入れる。
突然現れた美人で強くて有名な彼女を、室内にいた部員が興味ありげにちらちらと見やる。

「どうしたの?私に用事ってことは、まあ、予想はつくんだけど……」
「ええ……大変恐縮なのですが、お願いがありますの」

丸い椅子に座って、眉を下げて言う八百万さん。少し違和感というか、らしくないな、という気がしてしまう。
もっと自信に満ちた、なんでもできる子っていうイメージだったのだけれど……なんだか、少しだけ、頼りない空気に埋もれているように思えてしまった。

そんな失礼なことを言うのは気がひけるし、何より私と八百万さんの間に、そんなことを相談し合うような関係性はない。
何と言っても、彼女とちゃんと顔を合わせたのはまだ二度目なのだ。

「お守りでいいのかな?」
「はい……」

彼女と初めて会ったのは入学してすぐの放課後だった。個性の関係で興味を持ったのだと言う彼女と、この家庭科室で、手芸部体験入部のタイミングが一致したのだ。

正直、『創造』なんてすごい個性を持っている彼女は、手芸なんてしなくても生きていけるのではと私なんかは思う。
その辺りは、八百万さんの好みなのかこだわりなのか、何かしらの理由はあるんだろう。

しかし結局、ヒーロー科にもなると部活動に参加するのは難しいのではないか、というのが先輩の意見だった。
そう言われて残念そうに肩を落とす八百万さんが気の毒に思え、私はその日ちまちまと作っていたミサンガをプレゼントした。その際個性についても紹介したので、思い出してここまで来てくれたんだろう。

「作るのは構わないけど……大丈夫?」
「大丈夫とは?」
「ええと……なんか、元気ないんじゃないかなぁって気がして……」

私が素直に言うと、八百万さんは困ったように視線を落としてしまった。罪悪感が半端じゃない。私悪いこと言っちゃったかな。

「ご、ごめんね、なんか適当なこと言っちゃったかも」
「い、いいえ!ありがとうございます……大丈夫です」

そう言って笑った八百万さんは、やっぱり少し、大丈夫じゃなさそうな感じ。

だけど何も言わないということは、少なくとも私に言うようなことじゃないんだろう。深入りすることでもない。私はもう一度小さくごめんね、と呟いた。

「最近少し、調子が出ないだけなんです……なので、御守さんのお力を貸して頂けないかと思いまして」
「そっか……うん、頑張って作るね。いつまでに、とかある?」
「再来週は職場体験に行きますので、できればそれまでに」
「わかった!十分だと思う」

そう請け負うと、八百万さんは安心したように柔らかく笑った。その表情は相変わらず素敵な美人さんで、女の私でもきゅんとしてしまう。

「お礼には足りないかもしれませんが、何か材料になるものをお出ししますわ」
「え、ほんと!?」

思わず目を輝かせると、八百万さんは一瞬驚いたように目を丸くした。それから嬉しそうに頬を染め、もちろん!と少し得意げな声で言う。

「ええと、じゃあ……ちりめんの白い布と、赤い布が欲しいなって思ってたんだけど……」
「お安い御用ですわ!」

私利私欲のための勝手な個性使用とか、よくないとはわかっているのだけれど……正直、お小遣いだけで暮らしている高校生には、手芸屋さんの可愛い布地やら紐やらの材料費は結構ばかにならないのだ。

最近暑くなってきた季節にぴったりの、少し薄めのちりめん生地。赤色は思っていたのより随分鮮やかで可愛らしい色合いになっていたが、これはこれでとても素敵。細かい模様なんかはないが、無地の布は汎用性が高くてありがたい。

「わあ〜、ありがとう八百万さん!」

お礼を言うと、彼女はニコニコ笑って頷いてくれた。さっきまでの落ち込んだ様子が少し和らいで、よかったなと思う。

「この布使って、八百万さんのお守り作るね」
「まあ、素敵ですわ……ありがとうございます。よろしくお願いします」

ちりめんの白い布。きっと、素直に嬉しそうに笑う八百万さんに似合うはず!デザイン決めて、材料揃えて……早速今夜から取り掛かろうっと。



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