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your charm - 02



「なあ御守」
「心操くん、おはよ。なに?」

朝学校に着いて鞄を置いたばかりだった。いつも早くに登校しているらしい心操くんが、珍しくすぐに私の机までやってきた。

「これ、千切れちゃったんだけど……」
「あ、そっかぁ」

彼の手の上には、数日前作ってあげた紫色のおまもりがあった。輪っかにした紐の端がぶちんと切れていた。

体育祭の前に、私の個性を聞きつけたらしい彼からお守りを作って欲しいと依頼されたのは一週間ほど前のことだ。そろそろかなぁとは思っていたので、驚きもしない。

「ごめん、なんか」
「ううん!そういうものだからね」

自然なことなのに申し訳なさそうにしてくれる心操くんはいい人だ。ヒーロー科に編入してもきっと通用すると思うのに、やっぱり決勝戦初戦敗退だと届かないのかな。そのあたりは私もよくわからないけど。

「これって返した方がいいの?神社のとかは、一年経ったら返納したりするじゃん」
「そんな厳密なものはないよー。でも壊れたの持ってても意味無いってことなら、預かるよ」

たかがちっちゃなお守り袋だが、手作りのものを捨てるのは気が引けるという人は多い。それなら私が預かって捨ててしまう方が早い。自作のものだし、効力の消えたものを放置しても意味は無いし。

しかし心操くんは少し考えてから、手のひらのお守り袋を軽く握りこんだ。

「いや、もらっとくよ。記念に」
「あはは、なんの記念?」
「それはまあ、体育祭のこととか……手作りのお守りもらったのも初めてだし」

少し照れたようにする心操くん。
おまもりに込めた星の刺繍は、十分効果を発揮してくれたのかもしれない。雄英体育祭において唯一、二回戦決勝戦と勝ち進んだ普通科の星。しかしこんなおまもりに喜んでくれるところは、普通の男の子だ。

「そっか。まあ、悪いことが起きたりはしないから、気が済むまで持っててあげて!」
「うん。ありがとう」

中身は彼が好きだっていう猫の折り紙だ。内側には『目指せ優勝!』なんて恥ずかしくも書き込んでみた。私のおまもりにそこまでの効果が無いのはわかっているけど、その気持ちが大事なのである。

心操くんが席に戻ったのと入れ替わりに、いつも一緒の友人がやってきた。

「心操くんと何話してたの?」
「おまもり千切れちゃったんだって。報告に来てくれた」
「新しいの作ってあげたら?」
「別に、心操くんそこまで言ってなかったし」

そう言うと友人は少し呆れ顔を浮かべた。

「もー、これだから小幸は。恋の芽生えるチャンスってやつかもしれないのに」
「そんなのないよ」
「わかんないじゃーん。できることはしとかなきゃ」

友人はこの手の話が大好きだ。そして予想によれば。

「――ってことで、恋愛成就のおまもり作って!」
「だから、そういうのはないから!」

何度目かのやりとりをして、友人はちぇーっとわざとらしく拗ねてみせる。それでも出ないものは出ない。

私の個性『おまもり』は、持った人を“少しだけ”幸せにするおまもりを作る個性だ。
相手を思って手作りしたものならなんでもおまもりになる。実際に効果があるかは私もよくわからないけど、昔から友達の間では人気があった。目の前の彼女も、私が作ったミサンガを毎日手首に付けてくれている。
多少元気になるとか、怪我が軽く済むとか、そんな程度のことなんだろうけど。

ピンポイントで恋愛運を上げるとか、財運を上げるとか、そういうものではない。友人もそれをわかっていて、冗談で私にこの絡みをする。それをわかっているから、ちゃんと乗ってあげるのだけど。

「あれ、また新しいの作った?」
「あ、うん」

机の上の通学鞄を見て、友人は目ざとく気づいた。
赤と白のお守り袋。へえー、と軽く指先に載せて観察される。

「この布の色いいね。かわいい」
「でしょ!?」

一番気に入っているところを指摘されて、思わず笑顔になるが。梅の花かな?と呟く彼女に頷いて返す。

「小幸って、赤いおまもり好きだよね」
「あー……そうかも?」
「かもって。だって全部赤いじゃん。紅白か」

鞄に付いている四つのことだ。色味や柄は少しずつ違うけれど、赤と白がメインなのは共通している。

「いいよねぇ。私、小幸の鞄に付いてるやつ好きだー」
「そう?」
「うん。なんか、一番効果ありそう」

それって、人に作ってあげる分よりも自分用の方に力入れて見えてるってことかな。嫌な奴じゃん。
そう思ったけど、友人はそんなつもりも無い様子で赤い梅の刺繍を指先でなぞった。

「あげたらいいのに」

誰にとは言わない。というか、友人はこれが誰のためのおまもりか知らない。
しかし一目見て、これは誰かに向けたものだと見抜いてしまう。見抜かれてしまう。

それが少し恥ずかしい。私は少し頬を赤くしながら、苦笑するしかなかった。



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