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your charm - your charm



――しょーとくん笑った!
――え?
――えへへ、どういたしまして!

それまで笑ったことがなかったのだろうか。あまり記憶にはない。でもとても驚いた顔をして、それから興奮気味に声を上げた彼女にとっては、そんな認識だったんだろう。

――しょーとくん笑ってた方がいいよ!わたしもたのしくなっちゃう。
――そうなの?
――うん!ふしぎだね!

不思議なのはそっちの方だと、俺はぼんやり思った気がする。だってそう言って確かに楽しそうに笑って、頬を赤くするのを見ているだけで、ふわふわして嬉しい気分になる。

不思議だ。その時俺達は幼稚園の教室にいて、まだ何も形作られていない紙の束を前にしていた。その時俺には、少女の作った”おまもり”がなくて、新しいのを作ってあげる!と引っ張って来られたところなのに。
彼女のくれる”幸せ”は、まだ俺の手元にないはずなのに。

――しょーとくん、あたらしいおまもり、何がいいかな!またオールマイト?
――うん、オールマイトすき……でも、小幸ちゃんのほうが、今はすきだな。

彼女がにこにこ笑っているから、俺もつられて笑っていたから、そんな言葉が口をついた。少女は大きな瞳をぱちくりさせて、一層輝くような笑顔を見せてくれた。

――わたしも、しょーとくんのことすき!

じゃあねー!わたしの折り紙はないからね、わたしのすきな物いっぱい作ってあげる!そう言って少女はたくさんの色の紙を折り始める。

オレンジや赤、黄緑や水色。犬や猫、星や花、鶴。色とりどりの小さな折り紙を、色んな形に折り込んで作った“おまもり”。それは一つ一つがこの世界で唯一の、俺のための幸せ――大好きな女の子が、俺のために閉じ込めた”想い”の一つ一つが、この世界で唯一の、俺にとっての幸せ。

*  *

「小幸」
「ん……!?!?」

そう大きな声でもないのに、昼休みの喧騒に紛れることもなく通って届いた声。途端に友人達がぎょっとしたのが見えた。嫌な予感しかしない。

「ちょ、え、名前……」
「ご、ごめん行ってくるね!」
「ええーっ?」

半ば逃げるように席を立ち、慌てて教室を飛び出した。当然逃げ場はないのだが、少しくらいの時間稼ぎにはなる。し、待たせようものなら彼のことだ、私が出てくるまでに二、三回は名前を呼んでくれそうな気がする。

「ちょっと、だから、そうやって安易に呼ばないでほしいな……!」
「悪ぃ……?」

イマイチ理解していない顔をしてる。相変わらずだね、もういいよ……。

「で、どうしたの?またおまもり壊れた?」
「ああ、試験中に燃えちまった」
「……そうなんだ」

それは寿命で壊れたんじゃないと思うけど。まあ、ヒーローになるために最も重要な試験の一つだから、私のおまもりのことなんか意識して失敗するより、よっぽどいいけどね。おまもりくらいいくらでも作れる。

「俺、壊しすぎか?」
「んん……まあ、うん……」

一学期の頃、あれは私が勝手に彼のこと想って作って、渡す気もなかったお守り袋。無残な姿で返ってきた時は心臓が止まるかと思った。たった一週間でここまでボロボロになるなんて、一体彼に何が起きたのかって。
つくづく彼は、今でもあの頃と同じように、私にはわからない大変なことと戦ってる。

「でもいいよ。それだけ、とど――焦凍くん、の、役に立ってるなら」

気づいて言い直せば、満足そうに口元が緩む。やめて、だから、反則って何回言えばいいかなっ?

「本当、お前って良い奴だな」
「そんな、ことは……で、ええと、新しいおまもりね、どうしようかな。何か希望とかある?」

聞いてみるものの、彼はやっぱり見た目にうるさく口出しするタイプじゃなくて、いつも任せるって言うだけだ。
けど、この日は珍しく黙り込んで何か考えている様子だった。少し驚きつつ答えを待つと、突拍子もなく。

「――ピンクとか、黄色?」
「はっ?」

ピンクとか黄色?え?なんで?全然イメージと違う。なんでそんな可愛らしい色を突然言い出すのか。正直、クールな轟くんには似合わないと思う。

「可愛い感じの」
「いやいやいや……轟くんが持つんだよね?」
「焦凍」
「ぐっ……」

今それどころじゃない。というか、違う、未だに私の中では『ヒーロー科の将来有望なかっこいい男の子』は轟くんのイメージだから、『幼馴染の天然ぽくて放っておけない男の子』である焦凍くんとはまた別っていうか。

「別の色でも良くない……?青とか似合うよ……?」
「青じゃないな。もっと明るい色だと思う」
「じゃ、じゃあ水色とか……まだ暑いから季節的にもいいと思う……」

紅白飽きたってことはあるだろうなと思うよ。私のイメージで作ったらそうなっちゃうんだから仕方ない。彼の白色と赤色が好きだし、紅白ってやっぱりお守りの定番だから。でもそりゃ、偶には男の子っぽい青色とかも全然いいと思う。でもそうじゃないって。

「水色も違うな……」
「ううーん……!」

ことごとく否定される。そんなに頑ななのも珍しい。元々これと決めたら一直線な人だとは思ってたけど、こんなところで発揮しなくていいんじゃないかな。

どうやって宥めすかそうかと考え始めた時、彼は少し困ったような顔でこう言った。

「――小幸の色がいいんだけど、違ったか?」

突然の言葉に一瞬固まってしまった。私の返事がないのをいいことに、さらに彼は言い募る。

「いつも俺に似合うの作ってくれるけど、偶には俺の好きな物作ってくれないかと思って……昔は、オールマイトよく作ってくれただろ。俺が好きって言ったから」

確かにオールマイトはたくさん作った。というか今でも作ってる。好きな物がなかなか出てこなかった男の子が唯一口に出したから――や、唯一ではなかったかも?

――でも、小幸ちゃんのほうが、今はすきだな。

なんて、この前思い出してしまったのがぶり返して、また熱くなってきた。

「ええっと……!それは……つまり……」
「俺は小幸が好きなんだから、それに合わせてくれてもいいだろ」

さらに熱い。ダメだ、絶対顔真っ赤になってる。彼の前だといつもこうだ、ずるい、ずるすぎる!

幼稚園児の頃ならいいよ、そんなの子どものよくある仲良しだもんね。でもさ、それをさ、高校生になっても許されるのはよくないと思うんだよね!

「あの、だから……もうちょっと刺激の弱い言い方をするべきだよ……!?」
「また言い方キツかったか?」
「そ、そうじゃなくて……!」

わからないならいいよ、って前は受け流したけども。そうしたらまた拗ねちゃうかな。話したらわかってくれるかもしれない、だからたくさん話してくれって、彼も言ってたし……ええい、これは幼馴染として矯正してあげるべき案件である!

「そういう言い方は、誤解を招くから……こ、告白、みたいに聞こえるから、やめた方がいいよ!って意味!」

これ以上ないくらい顔が熱い。自意識過剰とか思われたらどうしよう、そんな受け取り方するの私が悪いのかなって気が今更してきた。でもでも、彼はすごい人だし素敵な人だし、きっと私みたいに想ってる人はいると思うし、そういう人達に向かって同じようなことを言っていたらそれは大問題だ。
ここは一応これでも仲良しの私が、幼馴染の私が、そういう風に受け取ってしまう私が、注意してあげないと――

「――じゃあ、それで、いい」

ぽつりと呟かれた言葉は一瞬意味が理解できず。なんだか珍しい反応だな、と思い当たっただけで視線を上げた。
私より幾分背の高い彼を見上げれば、ぱちりと視線が合ってしまって、彼が少し眉を寄せた。

目元が少し赤く見えるのは、私の気のせいだったかもしれない。


「……告白、でいい。お前が好きなのは事実だから」


これ以上の熱はないと思ったのに、その言葉を聞いた瞬間、完全にキャパオーバーというやつだ。
私が完全に固まってしまって、彼がそれに気づいて慌てた頃、昼休みの終了を告げるチャイムが鳴り始めた。


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