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your charm - 23



受付には顔見知りの看護師が座っていて、俺を見てこんにちは、と声をかけるのは毎度のことだった。どうも、と会釈して返す俺と、慌ててそれに倣う御守はどこか肩身が狭そうだ。

「焦凍くん、そちらは?」
「俺の友人です」
「す、すみません、なんか……急に来てしまって……」
「いいえ、構いませんよ。轟さん、最近はいつも楽しそうなの。会える人が増えるのは、いいことよ」

看護師の言葉に、御守はホッと息をつく。よかったです、と小さく呟く声がした。
どうやら御守との面会は許可されたらしい。もっとも、最近では面会できないのは多分親父くらいのもので、お母さんは至って健康である。

受付を抜けて病室に向かう間、御守はそわそわしながら、気を紛らすように口を開いた。

「轟くん、お手紙送ってるんだね」
「ああ。寮に入ってからは忙しくて、あまり来れてないから」
「そっか……そりゃあ、嬉しいだろうね」

看護師の『焦凍くんのお手紙、嬉しそうにしてたよ』という言葉を聞いたからだろう。実家にいる時は姉の代わりに荷物を届けるって名目もあって、定期的に顔を出せていたが、今は仮免試験もあるから控えていた。

「病室、四階な」
「うん……」

エレベーターに乗り込んでボタンを押しながら言えば、小さな返事しか返ってこなかった。目を向けると、肩身が狭そうな感じ――と、多分、まだ、少し気後れしてる。四階に到着して、迷いなく病室に向かう俺の半歩後ろをついてくる。

「……なあ御守」
「ん、何?」
「嫌なら、言ってくれ。前にも言ったと思うけど」

もう数歩。最後に振り返って目を合わせると、御守はそれを受け止めてから、ゆっくり目を閉じて、深く息を吸って、吐いた。
そしてゆっくり開いた時には、俺をしっかり見返して。

「ありがとう。大丈夫だよ――轟くん」

にっこり笑ってみせるのは、むしろいつもより気丈な様子に見えた。おどおど俺を見上げる少女というよりむしろ、明るく笑って俺の手を引いてくれた少女に似ている。

それを見て俺も少し笑うことができた。ああ、大丈夫そうだな――それを確かめて、病室の扉を開いた。

*  *

なんだかとても不思議な気分。高揚しているってわけじゃない、白い病室は思っていたよりずっと穏やかで心地いい空気に満たされた。
疲れたわけでもない、嬉しかったわけでも、泣きそうになったわけでもない。

ただ、安心した――私が彼女にしたことを許されたこと、彼女が私にしたことを許せたこと、そして彼女が笑ってくれたことに。
――『ありがとう。大事にするわ』
私が差し出した、白いお守りを受け取って、嬉しそうにそう言ってくれたことも。

病院を出た時には日の光は橙に近く、彼の赤色の髪が鮮やかに見えた。自然と並んで歩くのは、初夏の帰り道を思い出させる。
歩幅は随分違うはずなのに、当然のように歩調が合うのは、これも彼の魅力。

「お守り、作ってくれてたんだな」
「うん。ごめんね、あの時は、断っちゃって」

白色のお守り、八百万さんに作ったのよりも大人しい、真っ白なお守り袋。
中身に何を入れたのか、二人には秘密。もし袋の口を開けられてもわからないように、慎重に作ったから多分大丈夫。あのヒーローが彼女を救ってくれるかなんて、私の希望にしか過ぎないけれど。

「気にしてねぇよ。むしろ良かった」
「良かったって?」

面識ない人にはおまもり作らない、なんてちょっと心が狭いと私なら思うけど。そう思いながら聞き返せば、彼は私の方を見て、色の違う瞳を細めて微笑んだ。

「俺のためって言って、小幸に無理させる方が、嫌だ」

――だから!そういうの不意打ちって言うから!

思わず顔が熱くなる。当たり前だ。
だって彼の笑顔は反則だし、鮮やかな赤色も暖かい色をした白色も反則だし、何より聞き慣れない呼び名が心臓に悪すぎる。

「なん、その、呼び方……!」
「さっきまでもそう呼んでただろ」
「そ、そうだけど……!」

確かに病室で、三人で話している間はずっとそうだった。それはあまり気にならなかった。
だって彼のお母さんが懐かしそうに『小幸ちゃん』って呼んでくれるんだもん。私だって烏滸がましくも『焦凍くん』なんて言ってたけど、それは彼女を落胆させないためであって、あの空間を出てまで口に出すのはちょっと……やっぱり身の程を知るべきというか。

「あんまり良くないと思う、轟くん、一度自分のこと客観的に見た方がいいよきっと――」
「焦凍」

私の言葉を遮って、ぴしゃりと言われても困る。珍しく少し拗ねたような顔をされても、ちょっとその顔は可愛いと思っちゃうけどやっぱり困る。
だいたい寮に彼が切り込んできた時も1-Cは大変騒然としたし、あろうことか日曜日に外出するって白状させられた時も――お見舞い云々はプレイベートなところなので隠していたのもあって――大分騒がれたし、寮を出る私を見た友人が気合い入ってるね!とか余計なこと言ってきた時も大層注目されてしまったし。万が一名前で呼び合ってるなんて噂が立ったら、何が起こるか想像に難くない。きっと彼にも迷惑かかるし。

「呼ばないよ、もう」
「なんでだ」
「だから……なんでも」

きっとわからないだろうなと思って、結局何も言わないでおいた。
昔からそうだ。彼は私が誰か他の子におまもりを作るのを、どこか羨ましげにしていたけど――私と彼が釣り合ってないなんて、そんな誰にでもわかることを、なんで彼はわからないかな。

「それじゃあわかんねぇ」
「きっと言ってもよくわからないと思うよ」
「……そんなに――」

並んで歩いていた彼が足を止めて、何か小さく呟いた声が聞き取れなかった。一歩先で私も止まって、振り返る。

「え、なに?」
「……」

彼が思ったよりも不機嫌そうに見えたので驚いた。問いかけてもじっと黙っていた彼が、不意に私の手を掴んだのも心臓が跳ねる。とっさに手を引こうとしたのに、それを許すまいと強く握り込まれる。
やっと引きそうだった顔の熱がまたぶり返す。繋がれた手が彼の左手だからというのは、言い訳になりそうもない。

「――そんなに、俺はお前といちゃだめか?」



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