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your charm - 22



「ちょっと!ちょっと小幸いるでしょ!?」
「ひえっ」

突然ガンガン扉を叩かれて、変な声が出た。びっくりした!

「も、もう!なに!?」
「なにってこっちが聞きたいわ!」

扉を開けると一番仲良しの友人が、やたら慌てた様子できゃんきゃん騒いでいた。一体何事かと思ったが、続く言葉で私までフリーズしてしまった。

「A組の轟くんが来てるよ!?なんかあんたに用事って……ちょっと、固まってないでさっさと行きなよ!!」

*  *

寮まで押しかけるのはさすがに迷惑だったか?引かれるかもしれない、と少し思った。しかし残念ながら知り合い以上友人未満の俺は、八百万でさえ知らない御守の連絡先などわからないので、直接会いに行くしか仕様がなかった。

正面突破でエントランスに切り込んだら案の定無駄に注目を集めてしまった。よく仲介してくれた男子生徒――心操というらしい、この前緑谷に聞いた――はいないが、こういう場合は男子より女子に頼む方がいいんだろうな。
ちょうど一人の女子生徒が俺の名前を呼んだ。遠巻きにされるのは少し気まずいけど。

「轟くん、もしかして小幸に用事?」
「……ああ、いるか?」
「部屋にいるよ、すぐ呼んでくる!」

共有スペースのソファから飛び上がって、女子寮の方に急いで向かってくれた。とりあえず視線があるのはやりづらいので、失礼しました、と外に戻ることにした。親切な女子がいて助かった。

小幸、か。御守小幸。わかってしまえば、随分あっさりしたものだ。
つい、小さくため息が漏れる。

やがてバタバタと足音が響いてきて、その勢いのまま玄関扉が開いた。顔を出した御守は、玄関ポーチの階段に座る俺を見つけて目を瞬いた。俺はこの日も仮免試験に向けた訓練があったので制服のままだが、普通科の生徒はまだ夏休み中、御守も薄手のパーカーにジーンズの私服姿だった。

「ご、ごめん轟くん、お待たせしました……」
「いや、こっちこそ急に押しかけてごめん」

大丈夫だよ、とへらりと笑って、御守は俺の隣に腰を下ろした。間に人一人座れるかどうか、微妙な距離を空けられる。

「夏休みなのに制服?」
「ヒーロー科は訓練で、一応登校扱いになるから」
「え、わあ……大変だね」

御守はパチリと瞬きして、それからじっと俺の姿を確かめるように視線を動かした。さすがに居心地悪く感じて、なんだ、と問うてしまう。すると彼女はハッと肩を震わせて、ごめんジロジロ見て!と頬を染めた。

「あの……なんか、ヒーロー科、大変なことになってたから……ちょっと、気になってたの」
「まあそうだな。色々あって」

歯切れの悪い言葉。ここで追及するものでもないと、俺も曖昧に返すだけに留めた。

「えっと、他のヒーロー科の人達も、もう大丈夫なの?」
「とっくに全員退院してる。もう次の試験のことで頭いっぱいだな」
「そうなんだ……すごいなぁ、ヒーロー科の人達は、本当」

どいつもこいつも、俺も含めて、過ぎた失敗に立ち止まっているわけにはいかない。あの神野の夜のことは、褒められるもんじゃないとわかっている――だからこそ、今度はちゃんと、その資格を持って誰かを助けられるように。その一歩に向けて、それぞれが前に進んでいる。俺も遅れないようにしねぇと。
一歩、踏み込まないと。

「で、ええと……私に用事って?」
「御守」

彼女の促す声に、名前を呼んで目を合わせる。それに驚いたのか、少女の瞳が丸く開かれる。つられるようにまた顔を赤くして、でも目は逸らされなかった。

「次の日曜、空いてるか?」
「え……?」
「もし、お前が嫌じゃなかったら――」

喉の奥が詰まるような感覚がある。息の止まるような焦りがある。
でも言えるような気がする、彼女のきらきらと潤む目を見ている限り、俺の心は不思議に凪いでくれるから。


「――一緒に、お見舞いに行って欲しい」


どこに、とか、誰の、とか、そんな意味のない質問はなかった。
御守は一瞬息を呑んで、しかし目をそらすことも何か取り繕うこともしないで、あくまでいつも通りに、少し目を細めて答えた。

「……うん、大丈夫、行けるよ」

ありがとう、誘ってくれて――俺もあくまでいつも通りに、冷静ぶって頷いた。



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