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your charm - 21



「小幸ちゃん、心配して来てくれたよ」

と、姉に言われた時は心底驚いた。緑谷達がまだ入院して治療を受けている病院から帰宅した、夕方のこと。

今更何事かと思ったが、メディアを見て気になって来たんだろう。体育祭もあったし、俺が雄英の1-A所属だってのは知ることが出来る。
小学校を出る頃にはすっかり疎遠になってしまって、中学は別だったから何年言葉も交わしていないだろう。俺からすれば、小幸ちゃんなんてとてもじゃないが呼ぶことができない。しかし姉は俺に伝えながら、なんだか嬉しそうに笑っていた。

「で、これ」

と、小さな紙袋を差し出されて首を傾げる。咄嗟に受け取り、その軽さに驚いて――中身を覗いて、目をみはる。

「焦凍にってくれたよ。本当に心配してくれたんだから、また会ったらお礼言いなね」
「これ……本当に、小幸ちゃんが?」

呼べないなんて思っていた名前が口をついて出るほど、にわかに信じ難いことだった。姉は何をそんなにという風に目を丸くし、そうだけど、と頷いた。

紙袋には赤と白のお守り袋が、四つも入っていた。赤地に白の刺繍をしたもの――白地に赤の組紐を通したもの――白地に水色の糸で氷の刺繍と、裏面に赤の糸で流線の刺繍がされたものもあった。

そして、梅花柄の赤の布と、白と薄水色で作った組紐のお守り袋は――俺が彼女を泣かせてしまった、あの時破れたそれと全く同じ。

「小幸ちゃんに、お母さんのお見舞い行ってあげてってお願いしたの。多分困らせちゃったけど――そのうち必ず伺いますって、言ってくれたわ」

――『多分、轟くんのお母さんも……私のおまもりとか、いらないと思うな。持って行ったらきっと、びっくりしちゃうよ』
自嘲するような笑い方が思い出される。

もしそうなのであれば、どうして今、彼女は俺にこの”おまもり”達を渡すのだろう。どうして姉の誘いに頷いたのだろう。
俺とのことと、お母さんとのこと……隠していたということは、彼女はそれらを忘れようとしていたんじゃないのか。今更それを引っ張り出すのはどうしてだろう。

――『ありがとう、持っててくれて』
――『轟くん、が、無事なら、よかった』

あの時俺は彼女を泣かせたのに、そう言って何のてらいもなく、笑ってくれたのはどうしてだろう。

自室に戻って、どうにも我慢ができなかった。不可解なことに惑わされて、変な気分で、不思議な気分。
明日はきっと、長い夜になる――今日、偶然顔を合わせた切島と、偶然聞いてしまった八百万とオールマイトのやりとりから、俺達が出した結論。
明日は絶対助ける。もう少しだったんだ、あの場の全員が必死になったものを、俺の目の前で掠め取られた。次は必ず助ける、俺達の出来る最大限で最善のことを。

だから、こんな風に乱されている場合ではなくて……けれど、彼女は不思議なやつで。

とても罰当たりなことだ。今までもそんなことはしたことがなかったし、しようとも思わなかった。自然と壊れたお守りでさえ、今でも鞄の中に忍んでいる。
しかし俺はもらったばかりのお守りを手に取り、しっかり結ばれた組紐を解き始めた。

せめて出来るだけ丁寧に口を開いた。中には案の定、黄色のつのが特徴的な顔折り紙。書き込まれた顔は、本物を知っている俺達からすればポップで可愛らしく、まるで幼い子どもが無邪気に描いたような明るい笑い顔。真ん中で二つに折られているのは、こういうところは結構強引なんだな、と少し笑えた。

オールマイトの顔を少しずつ解いていく。一度広げてしまえば、この顔折り紙に挑戦しては挫折した俺に、復元することはできないだろうな。
黄色と薄橙色の二枚に分かれて、顔の描かれた薄橙の方には、何も書かれていなかった。そして黄色の折り紙には。

――『焦凍くんが悲しくありませんように』
――『焦凍くんが痛くありませんように』
――『焦凍くんが無理していませんように』

最後のひとつ、梅の刺繍のお守りだけは解くのをやめた。これで十分だった、彼女が差し出してくれる”想い”は。

――やっぱり不思議なやつ。

俺の心をかき乱すのも、俺の心が静かに凪ぐのも、どちらも彼女の態度であり言葉であり瞳であり想いである。

悲しくない、痛くない。多少の無理は許してほしい、俺は――ヒーローに。

それを守ってくれる、救けてくれる、”おまもり”であり”想い”であり”幸せ”である。俺はよく知っていた。本当はずっと欲しかったんだ、好きだった。

『だいじょうぶだよ。しょーとくんが痛くありませんようにって、たくさんお願いしたから、もうだいじょうぶだよ――』
――『焦凍くんが、無事でありますように』



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