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your charm - 17



「と、轟くん、うちのクラスに用事あった?」
「いや、御守に用があった」
「あ、へえ、そっか!」

当然のように言わないでほしい、やっぱり変な期待しちゃうから。ますます顔が熱くなったものの、見上げた轟くんは不思議そうにしているばかりなので、とにかく息をついて落ち着くことにした。

「ええと、なにかな?」
「お前、最近暇か?」
「……暇とは」

期末テストも終わってもう夏休みに入るし、しがない学生である私は、これからが一年の中で最も暇と言っても過言ではないけど。
あっさり暇だよ!と宣言するお気楽な人間と思われるのは気が進まないので、一旦保留。

「こないだは、忙しい時に頼んじまったみてぇで、悪かったなと」
「そんなの!気にしないでいいよ、この前言ったでしょう」
「ああ、そうだったな」

まだ気にしてたなんて、そんなに気を遣わなくていいのに。私だって別に自己犠牲でやってるわけじゃないし、嫌なことは嫌と言えるはずだし……まあ、彼に言われたのであれば、多少は無理してでも叶えてあげたいけど。

「でも、御守に無理してほしくないから。嫌なら言ってくれ」
「そんなことは全然……!でも、ありがとう」

真剣な表情で言われるとドギマギしてしまう。ああー、轟くんってば本当、無自覚な人!

「そういう意味では暇だよ!部活も今学期のは終わったし、むしろ何か作れるなら作りたいって感じ」
「そうか、よかった」

元々人のためにおまもりを作るのは好きなのだ。しかし夏休み中は相手がいない。自分用とか家族用とかもう作ってもありがたみが薄いし、もし轟くんに何か喜んでもらえるのならば、願ったり叶ったりだ。
って、いやいやまだ轟くんにとは決まってない、前回の上げて落とされた経験を思い出すべき。

と、ちょうどそこで予鈴が鳴った。お互い早く教室に戻った方が良さそうだ。轟くんもそう思ったようで、手短に話すよ、と言われる。あーあ、日直でさえなければ……。

「お守りを、作って欲しいんだ……白色のイメージ、だけど、八百万にやってたのはちょっと可愛すぎるか……」
「白色のお守り?良いよ、大丈夫、もうちょっと大人しめに作るね」

八百万さんにあげたのは、可愛らしく可愛らしくと思って作ったものなので、ダメという希望ならどうとでもなる。
けど意外、轟くんがデザインにも要望出すなんて。比較的見た目に頓着しない人だと思ってたけど、意外とお洒落さんだったのかな……私が前に押し付けたお守りは大丈夫だっただろうか、ダサいとか思われてたらどうしよう。

「でも、相手は誰?八百万さんじゃない、んだよね?」

言い方からしてそう判断すれば、頷いて返された。

「ああ。御守の知らない相手だから、ちょっとやりづらいかもしれないけど」
「知らない人?」

ちょっと待って、私の個性、知っている相手にしか効果がないのだけど……相手のことを思い浮かべて作るのでなければ、作品は本当にただのお守り袋になってしまう。私におまもりを強請ってくる人は大体それを理解しているので、その言葉には少し驚いた。

その点指摘した方がいいのだろうか――と思案しかけて、その前に轟くんが続けた。

「――俺のお母さん。入院してるんだ」

――『こんなもの、私を守れるはずないじゃないッ!!』
悲痛な叫び声が耳の奥に蘇って、瞬間、身体の芯が凍りつくような寒気がした。

――ああ、私が目を背けようとしていたことだ。

「……御守?」

怪訝そうな声がした。はぁと彼に悟られない程度に息をつくと、少し震えていた。ああまずい、なんて思ってしまうのも自己嫌悪。
この期に及んで、まだ彼に気づかれないようにと願ってしまうなんて、醜い。

「ごめん、なんでもない……そうなんだ、お母さんが……」
「飯田が折り紙折ってたの見てて、ちょっと考えてたんだが。この前見舞いに行って――」
「――あー、えっと、あのね轟くん」

多分、このお願いに至った理由を教えてくれるつもりだったのだろう。彼の言葉を遮れば、色の違う両目が瞬いた。いつもなら、私は彼の話を遮ったりしない。
いつもなら、彼のお願いは無理してでも叶えてあげたいけれど。

「申し訳ないんだけど……私、面識ない人にはあんまり、おまもり作らないっていうか……」

たどたどしい口調でそう言うと、轟くんはさらに驚いた様子を見せた。きっと断らないと思ってたんだろうな。彼は私に、良い奴だとかお人好しだとか、そんな印象を抱いていたらしいから。
それも少し罪悪感。


「多分、轟くんのお母さんも……私のおまもりとか、いらないと思うな。持って行ったらきっと、びっくりしちゃうよ」


びっくり、ならまだ良い。私が怖いのは、彼女がまた“あの時”のように取り乱してしまうこと。
……いや、違うのかも。それを見た彼に、私の犯してしまったことを、知られてしまうのが一番怖いのかも。

「御守、それは――」
「あ、ねえ、もう授業始まっちゃうよ!」

また無理に会話を途切れさせれば、轟くんは少し眉を寄せて黙り込んだ。
冷えた心臓がキリキリ痛むような心地がする。きっとこれは罰だ。何も知らない顔をして、彼の穏やかな表情を享受していたことへの。

「……わかった。時間とらせたな」
「ううん、ごめん……ごめんなさい」
「別に怒ってねえって」

思わず二度も謝ってしまったから、轟くんの方が苦笑してそんなことを言ってくれた。

やめてやめて、今の私にそんな優しくされる権利、無いの。本当は、ずっと、そんな権利なかったんだよ。

今すぐ逃げ出してしまいたかったけれど、そんなことをしたらまた彼を困らせてしまう。なんとか曖昧な笑みを浮かべて見せれば、彼は何か言いたげに目を細めたが、それだけだった。



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