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your charm - 15



――『俺、お前の作ったおまもり、結構好きなんだ』

なんて、あの頃の私に聞かせてあげたいような言葉だった。
思い出しただけでむず痒い感じがして、ううーっと変な唸り声をあげつつ枕に顔を埋める。両足をばたつかせても消えないくらい、甘い。

彼はすごい子だから、私なんかとは違うから、きっとおまもりなんかなくたって、前に進んでいける。それを理解したのは随分昔の話で、それに気づいた瞬間、彼がとても遠い人に思えてしまった。
幼稚園の影で、人知れず泣いていた幼い男の子じゃない。そんな子は多分、もういなくなった。

だって彼はとても強くて、素敵な友達もいて、きっと私には手の届かない素晴らしいヒーローになる。

焦凍に、余計なことを教えるのはやめてくれ――低い声が思い出されて、ぱたりと足が落ちる。

余計なこと――本当は薄々気づいていて、混同していて、多分エンデヴァーさんが悪いわけじゃない。私が彼から離れたのは、私が怖くなったからだ。
私に出来ることなんてないって、私のお節介なんかいらないって、彼に心から思われるのを怖がってしまった。私の気持ちが弱かったから、逃げ出してしまった。

私が“彼女”を救えなかったことと、私が彼を救えないだろうことを混同した。私は彼を傷つけて、もう泣き虫の男の子じゃなかったことに甘えて、それに見ないフリをしてしまった。

*  *

ちらりと何かを見つけたらしく、そして目を丸く開いた反応は珍しい。何か変なものでも持ち込んだだろうか、一応気をつけてはいるはずだけれど。

「焦凍、それ……」
「なんだ?」
「その、お守り」

お母さんが指摘したのは、やっぱり変哲もないお守り袋だ。朱に近い赤色と、白と薄水色で組まれた紐。
特別なものではあるが、変なものではないはず。病院の受付でも何も言われなかったし。

週末は出来る限り病院に顔を出すようにしていて、期末試験も終わった今日は何のしがらみもない。いつも通り、ちょっとした見舞いの品と、姉に託された荷物だけ引っさげてやってきた。
さっきまでは学校のこと、期末試験のこととかを話していたので、その流れでの返事になる。

「これか。期末試験がんばってね、ってもらった」
「そう……手作りなのね、とても上手」

言いながらお守りを見つめる瞳が、どこか懐かしげに見えたのは疑問に感じる。少し、悲しげですらあった。

さらに手を伸ばすような仕草をするものだから、慌てて鞄からお守りを外して手渡した。
なんとかクリアした期末試験中、保須の時のようにコスチュームに忍ばせていたせいか、もらってから一週間も経っていないのに綻びはじめていた。しっかり作ってあったというのにそれは少し申し訳なく、かといって大事に仕舞っておくのも違うような気がして、せめて落としたりはしないようにと身につけているところだ。

お守りを受け取ったお母さんは目を細めて、指先でそっと撫でるように触れる。やっぱりそれも珍しく、つい黙り込んで様子を伺ってしまった。
しばらくそんな時間が続いたが、お母さんが小さく息をつき、俺にお守りを返して終わった。

「ごめんね、話の途中だったのに」
「別に、いいけど。なにか気になることでもあったか?」
「いえ、懐かしく感じただけ……大きくなったのね、二人とも」
「二人とも……?」

しみじみと言われても、この場には俺しかいないのに。首を傾げた俺を見て、むしろお母さんの方がきょとんとした顔をした。

「焦凍も小幸ちゃんも、もう高校生なのよね。あの頃はおまもりといっても、折り紙くらいしか出来なかったのに……と思ったのよ」
「…………ああ、小幸ちゃん」

その名前を思い出すのに、本気で数秒かかった。あまりに懐かしい名前だったのだ。

そうか、俺にとってはもう随分昔に思えるのに、お母さんにとってはそうでもないのか。唐突に俺とお母さんの間で止まっていた時間を自覚したのもあって、苦い思いが広がった。

小幸ちゃん、なんて可愛らしい名前を呼んでいたのは、いつまでだっただろう。たしか小学校の、二年だか三年だかの頃だ。
多分珍しくもない話で、男女間の幼稚園時代の友達関係はそう容易には続かないってこと。人付き合いの苦手な俺はどうも孤立して、穏やかで優しい少女は俺以外のたくさんの友達に囲まれていた、そういうこと。

幼稚園の頃、俺に折り紙のおまもりを差し出してくれた、あの幼い少女の名前だ。その存在自体も、先日夢に見る機会でもなければ、多分このまま――忘れていたかったんだと思う。

「これは違うよ。高校の……知り合い?にもらった」
「知り合い?友達でしょう?」
「……まあ、そうとも言う」

お母さんは、俺が友達――というか緑谷とか飯田とかクラスの奴――の話をすると嬉しそうにする。なので、そういうことにしておいた。
実際のところ、御守との関係を『友達』と言う程かというのは、未だに判断しかねる。結局、あの日の帰り道以来、期末試験を挟んだこともあって、特に御守と話したわけでもない。

「どんな子なの?」
「別に……お人好し」
「ふふ、そう」

なんと表現するべきかわからず、一言しか伝わらなかった。それでもお母さんは楽しそうに笑うので、まあ、いいか。俺自身も、御守について自分がどう評価しているのか、測りかねるところがあった。
特別に仲良いわけではないが、それを是とするつもりもない、そんな相手。なんて言うのはなんだか気恥ずかしかったので、やめておく。

お母さんはもう一度お守りを撫でてから、やっぱり懐かしそうに目を細めた。

「素敵なおまもりね――大事にするのよ」
「……うん」

その言葉の端に、やっぱりどこか悲しげな色が滲んだ気がした。それを追及することはできず、俺は戸惑い気味に頷くくらいしかできなかった。



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