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your charm - 13



御守が最寄り駅のすぐ近くの手芸屋から出てきたことには驚いた。そのまま並んで歩く方向からして、どうやら彼女の家は思っている以上に近所らしい。
毎朝早めに家を出て、遅くに帰宅するのが俺のサイクルだから、知る機会がなかったのだろう。そう考えると、運はよかったということになろうか。ほんのちょっとしたことでも、知れてよかった……なんて思ってしまうのも、やっぱり『不思議』だ。

他愛のない会話だ。トレーニングのことも、御守のお人好しのことも。俺は御守を泣かせたことさえあるのに、こうして穏やかに会話できるのは素直にすごいと思う。どこか緑谷達に似ているような気もした。
御守がぼんやりと呟いた声が届く。

「轟くんと八百万さん、仲良しだね」
「……そうなのか?」

このやりとりはほんの少し既視感を感じた。八百万は不可解そうに、違うのですか?と問い返してきたが、御守は一瞬間を置いてから苦笑した。

「私にはそう見えるよ」

なるほど。そうか、と返しつつ頷く。つまりあの時、八百万から見て俺と御守も仲良さそうに見えたのか。

「一応、クラスメイトだしな」
「それに同じ推薦入学だよね。二人ともすごいなぁ」
「……ありがとう」

自然にあっさり褒められて少しまごつく。他人の羨望の目は好きじゃないし、褒められるのも得意じゃない。特に、俺のことをよく知らない人間から送られる賛辞は。

なのに御守の言葉には素直に返せた。変な奴……こいつも、俺のことなんて――知るわけがないのに、どうしてだろう。

「もちろん、二人だけじゃなくて、他の人達もすごいよね。体育祭見てたの……ちょっと怖そうな人もいたけど」

どうせ表彰台で縛り付けられていた男のことだろう。すぐ思い当たったので何も言わないでおいた。御守は関わらない方がいいに決まってる。
あっそういえば、と何か思い出したように御守が話題を変えてきた。

「飯田くん、インゲニウム折れたかな」

その名前が出て、少しぎくりとした。さっきトレーニングの話をしていた途中で出てきた時も、思ったより不機嫌な声が出て驚いたところだ。

「ああ。御守に礼を言っておいてくれって、言われた」

今度は念の為気をつけて、なんでもないような声色で答えられた。忘れてた、と言うと、そっかそっか、と笑顔が返ってきた。問題なかったようだ、よかった。

先日、オールマイトとインゲニウムの折り方を教わって、飯田はそれをマスターして早速見舞いに持って行ったそうだ。御守とついでに俺に礼を言う顔は満足げだった。

「大したことしてないけど、どういたしましてって言っておいて」
「……わかった」

嬉しそうな御守を見ていて、なんとなくバツが悪い。一瞬、これも忘れたことにしようかなんて、頭をよぎったことに対してだ。
御守の前で飯田の名前を出すのも、飯田の前で御守の名前を出すのも、なんとなく、気が進まない。

俺の気分がバレでもしたか、それともついに話題が尽きただけか、その場に沈黙が降りた。
同じクラスでもなければ授業の話題も、共通の知り合いがいなければそういった話題も、やはり思い浮かぶことがない。こんなに離れた相手なのに、どうして今、俺と御守は並んで歩いているんだろう――不意にそんなことを思って、やっぱり不思議な感覚に陥った。

次の十字路も同じ方面に曲がって、そこでようやく引っ掛かりを覚えて口を開いた。

「……なあ、御守の家ってどのあたりだ?」
「え?」
「こんなところまで一緒って、結構俺の家からも近いな」

特に他意はなかった。そんな偶然もあるんだな、と言う程度の意味だったのに。
ちらりと見下ろした彼女の顔が、途端に引きつったような表情に見えた。

「どうした?」
「あ、あ、ううん!なんでもない……!」

御守は焦ったように首を振って、なぜか半歩、俺から離れた。その反応の方に少し、もやっとした何かが胸の内に生まれた。
なんだ?今の俺の発言の、なにが御守を遠ざけた。

「近い、のかな。ああでも、次の十字路は別方向!だから、ええと、そんなでもないかも……」
「……そうか」

次の十字路を曲がったら、俺の家はすぐそこだ。それが別方向であろうが、近いことに変わりはない気がする。どうしてそう答えないのだろう。

まるでそう思われるのが嫌そうに思えて、結局なにも言えなかった。

また沈黙。今度は明らかに気まずいやつ。御守は俺から半歩離れたところを、俯きがちに歩く。
もうすぐ最後の十字路にさしかかる。そうしたら、このまま気まずい挨拶をして、別れるのだろうか。折角こうして、二人で並んで歩けたのに。

――その焦燥感を、俺は知っている気がする。

「……と、轟くん?」

控えめに呼ばれてハッとした。いつの間にか思考に耽ってしまっていたらしい。件の十字路の真ん中、御守は眉を下げてこちらを見上げていた。

「じゃあ、私こっちだから、ね」

困った表情のまま、確かに俺の家の方向とは別の道を指す。

「えっと……期末テスト、頑張ってね」
「……御守もな」
「あはは。そうだね、私の方が危ないかも」

俺の返答に声を立てて笑うが、それもどことなく態とらしく感じるようなものだった。
やっぱり身に覚えのある、焦燥感。

そういう笑顔を見たかったわけじゃ、なかったんだ。



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