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your charm - 12



「御守?」
「へ!?」

下校途中で全然予想していなかった声がかけられて、つい声が裏返った。振り返ると当然、制服姿の彼がそこにいた。

「と、轟くん、偶然だね……!」
「ああ」

足を止めているとすぐに距離が詰まった。自然と横に並ぶような状態になってしまい、そのまま一緒に帰路を辿る。夢かと思うような状況に、耳の奥の心音がばくばくと音を立てて止まらない。

――違う、本当、狙ってたわけじゃないの……!
――そりゃ、偶然会えればラッキーだな〜〜くらいは思ってたけど……!

心の中で誰にともなく言い訳をしていたら、轟くんの方から話し始めてくれた。

「時間、遅いよな。普通科なのに」
「う、うん、ちょっと手芸屋さん寄ってた……」

午後六時を回っていた。もうすぐ夏休みという今の時期だから、辺りは別に暗くもないので、少々帰宅が遅れようがあまり問題がない。フラフラと手芸屋さんに入ると、ついつい時間をかけてしまう。

「轟くんこそ、ヒーロー科ってこんな時間まで授業だっけ?」
「授業は7限までだ。今日は座学の授業しかなかったから、放課後にトレーニングルーム借りてた」

演習がなくて体力が余ってたから、トレーニングしてたってことか。すごいなぁ、ヒーロー科生って。

「お友達と一緒?こないだの、飯田くん達とか」
「……トレーニングは基本一人だけど、なんでだ」
「え、別に……」

深い意図もなく聞いただけなのに、轟くんが無表情のまま目を細めたので、なんだか責められたような気分になってしまった。一般人が適当なこと言ってすみませんでした、だって私なんかは基本友達と一緒に行動するもん……。

「そういうものなんだね。私トレーニングとかしたことないから、わかんなくて」
「……いや、悪い、気にするな」
「う、うん……?」

とはいえ、特別苛立ったというわけでもないらしい。轟くんはそう言って、顔を背けて軽く息を吐いた。どうしたんだろう。少し不思議には思ったが、彼は自己完結しがちな人だから、気にするなと言うのなら構わないのかな。トレーニングで疲れたということにしておこう。

「トレーニングルームで他人と鉢合わせることくらいはあるが、今の時期は誰もいなかった」
「あ、期末テストだもんね」

よく考えれば。私でも一週間前から部活停止になっていたのだし、ヒーロー科の人達も勉強しないといけないもんね。そもそも誘うわけにはいかないか。

「轟くんは、テスト大丈夫?」
「問題ないだろ。授業は聞いてるし」

授業は聞いてるし、ってその発言はちょっと私の心にもクるものがあるけど……まあ、心配するなんて野暮だよね。なんたってヒーロー科の推薦枠を取っちゃうくらいだから。

――そうだよね〜……私、何やってんだろ……。

通学鞄の中で潜んでいる袋を思い出して、少し落ち込む。

「さすがだなぁ……私もちゃんと勉強しなきゃ」
「してないのか?もう明後日だぞ」
「し、してないとは言ってないよ……!」

そんな情けないことを、他でもない彼に言えるわけがない。慌てて取り繕うのは、説得力がないかもしれないけど。

「何かイベントごとの前って、よく頼まれ事するから、ちょっと間に合ってないだけ……」
「お守りか」

体育祭前もそうだったけど、今回も二、三人の友達からおまもりをねだられた。個性に頼ってる暇があれば勉強しなよ、と思わないでもない――実際に言いもした――けど、気休め程度に作ってあげた。ヤマ勘が当たるくらいのご利益は、もしかしたらあるかもしれない。

「まあ、学業成就とかじゃないから、効くかわからないけど」

へらりと笑っておいた。轟くんはそんな私をじっと見て、一度瞬きをしてから。

「御守のだったら、よく効きそうだな」

真面目な顔のまま言うものだから、つい心音が跳ねてしまった。

「そんな時に、俺まで負担かけてごめんな」
「えっ?あ、ううん!全然、負担とかなかったよ!」

それから申し訳なさそうに少し眉を下げる彼に、慌ててフォローする。うわー、轟くんは素直に謝罪してくれてるのに、なにときめいてんの私!

「おまもり作るの楽しいもん、みんな喜んでくれたら嬉しいし……!」
「……なるほど」

私の言葉に、一瞬驚いたように目をみはったように見えたが、すぐにほんのり笑うのでまた心音がうるさい。え、笑顔は反則なんですよね、彼の場合……!
私の内心が大分とっ散らかってることに轟くんは気づくはずもなく、いつも通りの調子で会話を続けようとする。

「お人好しだな、お前も」
「いや、まあ趣味だから、別に……」
「他人の気休めのために時間を割くのは、十分お人好しだろう」

轟くん、そんな風に思ってくれてるんだ。どうしよう、嬉しいのと恥ずかしいので視線が落ちる。

「信用されてるんだな、きっと」
「そ、そうかな?だったらいいけど」
「ああ。八百万も嬉しそうだったぞ、御守からお守りもらうの」


なんだか轟くんまでどこか嬉しそうに、柔らかい声で呟くものだから――嬉しさと恥ずかしさと、ほんの少しだけ息の詰まるような感じがした。


「そっか、八百万さん。喜んでくれたならよかった」

そう言いながら笑っておく。ちらりと彼を見上げてみると、なんとなく穏やかな横顔に見えてまた喉の奥がぎゅっとなる。

視線が合うこともなく、前を向いて歩を進めるだけの轟くんだ。そういえば、自然と私の左隣、車道側についているのは偶然なのかな。偶然じゃなかったら……でもやっぱり、轟くんからすれば大したことじゃないんだろうな。

綺麗な白色の下は綺麗な横顔。綺麗な赤色の下は、今は見えない。

……結局、八百万さんと彼って、やっぱり仲良しなんだなぁ。



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