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your charm - 11



ここ二日ほど考えていたのだが、やっぱりそうするのが一番だと結論が出た。
そこで私は、またもやA組の教室を訪れていた。これでここに来るのは三度目になるが、未だにヒーロー科の敷地へ足を踏み入れるのは抵抗がある。

教室前でため息をつきかけた時、明るい声が救世主のように聞こえた。

「あれ、御守さんだ。どうしたの?」
「麗日さん!」

数日前に自己紹介しあっただけの仲だが、ちょうどいいタイミングで現れてくれて助かった。

「轟くんに用事?」
「えっ!?いや、轟くんにじゃないよ……!」

当然のように言われたが、麗日さんの中ではそんな感覚だったのかと恥ずかしくなる。彼が何故かさくさく近づいてくれるだけで、本来そんな仲ではないのである……って言ってるとちょっと落ち込むけど。

「八百万さんに用があるの。呼んでもらえないかな?」
「八百万さん?わかった!」

二つ返事で了承してくれた麗日さんは、すぐに扉を開いて八百万さーん!と声を上げた。とても効率的なことだとは思うけど、おかげで何人かが不思議そうにこちらを見やっているのは居たたまれない。
件の轟くんも――しかも八百万さんと何か話していたようで――思いきり目が合ってしまった。

じゃあね、とにこにこな麗日さんに苦笑混じりにありがとうと返した。彼女が教室に入って行くのと入れ替わりに、轟くんとの会話を打ち切った八百万さんが教室の外に出てきてくれた。

「御守さん、お久しぶりです。どうかなさいましたか?」
「急にごめんね。これ作ったの、八百万さんに」

不思議そうに首を傾げる八百万さんは相変わらず可愛い女の子だ。白い巾着のお守り袋を見せれば、ぱちぱちと瞬きをしてから輝く笑顔を見せてくれるところも。

「お守りですかっ?でも、どうして私に……」
「前のお守り、効果切れちゃったでしょう?代わりのものを作ってあげてくれって――」

この様子からして、隠していたのだろうか。一瞬思ったが、教室の中から未だこちらの様子を伺っている彼に焦りなどは無さそう。知られて困ることじゃないのだろう。

「――轟くんが、私のところに来てくれたよ」

そう言うと、黒い瞳が丸くなった。一瞬教室を振り返って、また私に向き直った時には白い頬がほんのりと赤く染まっていた。はにかむような笑顔は、とっても嬉しそう。

「そうだったのですね……ありがとうございます」

可愛いなぁ、と素直に思った。素敵な女の子。そんなに喜んで貰えたら、作り手としても気持ちがいい。つられてにっこり笑って、要件を続ける。

「で、ね。この中まだ空なの」

白色の巾着を開く。前回八百万さんにあげたのと似ているが、大きさは前のものより一回り大きくしてあった。いつもは何か祈りごとを書いて入れるのだけれど、開いた中には何も無い。

「よかったらなんだけど、八百万さん、好きなものを作って入れてみない?」
「好きなもの……」
「思い出のものとか」

『創造』というすごい個性の八百万さん。私が何か適当な折り紙だかを作って入れてもよかったけど、色々考えた末、彼女が個性で作った何かを入れてあげたいという結論に至った。
そうすれば、それこそ八百万さんのためだけのお守りだろう。

私の提案に八百万さんはしばし考える様子を見せた。それでは……と手のひらからコロンと作り出されたのは、とても小さな木製の人形。

「わぁ、かわいい」
「マトリョーシカですわ。といっても、このサイズの中には何も入りませんが……幼い頃、ずっとこれを作って個性の練習をしていたのです」

懐かしそうに小さなマトリョーシカを見つめている。彼女の個性を伸ばした思い出の品。素敵だね、と私は笑って受け取った。
巾着の中にマトリョーシカを入れて、きゅっと口を絞る。そして完成したお守りを差し出すと、八百万さんは大事そうに受け取ってくれた。

「期末テスト、頑張ってね」
「本当にありがとうございます!私……頑張りますわ!」

頬をほんのり紅潮させて、ぐっと拳を握ってみせる。ヒーローのたまごらしく、自信に満ちた勤勉な女の子らしく――いつもの八百万さんらしく見えた。

「うん!八百万さんならきっと大丈夫だよ」

そう、こういう顔の手伝いが出来ることが、私の個性の良いところだと自負してる。
真似して拳を握って笑うと、八百万さんも嬉しそうに微笑んだ。

*  *

教室の外で八百万と別れて、御守はすぐに去っていったらしい。
しばしそれを見送った後、八百万はそわそわと手元に目を落としていた。なんかデジャヴを感じる。以前、御守と八百万がやりとりしていた時と同じだ。あの時は『創造』なんて個性がありながらそんなに喜ぶか、と不思議に思ったものだが。

すぐに教室に戻ってきた八百万が、そのまま俺の席まで戻ってきた。

「轟さんも、ありがとうございました」
「いや」

御守は俺に言われてお守りを作ったのだということを、八百万に伝えたらしい。そんなこと大した話でもないのだから、伝わろうが伝らなかろうがどっちでもよかった。

「ですが、意外ですわ。お二人、仲がよろしかったんですね」
「そうなのか?」
「……違うのですか?」

予想外の表現をされたので思わず聞き返してしまったが、当然八百万の方が不思議そうな顔をした。
いや……と、とりあえず言葉を濁してから改めて考えてみる。仲良しと言われるほどの付き合いがあったかと思い返せば、顔を合わせたの自体が四、五回程度と気づき、まだそんなものかと驚いた。そんなものなのに、この間オールマイトの折り紙と聞いて、すぐ御守の顔が浮かんだのか。

「……御守って変な奴だな」
「変?」
「変、つーか……不思議な?」

仲良しといえば今のところ、強いて挙げれば緑谷や飯田の名前が出てくる。あいつらとは、まあ色々あったから、仲良しと言われても比較的すんなり納得できそうな気がする。
対して、御守と特別にあったことといえば、お守り壊して泣かせた一件くらい。むしろ目の前の八百万の方が、クラスメイトでもあるし同じ推薦組でもあるし、客観的に見て仲良しに近いだろうに――すでにそれと同じくらいには、信頼を置いてしまっているような気がする。

そういう意図で『不思議』と評してみた。八百万は少し首を傾げたが、特に言及することもなく答えた。

「不思議ということでしたら、少しわかる気がしますわ……先ほど、御守さんに『大丈夫だよ』って言って頂けました。それが本当に大丈夫だと思えるような、そんな方ですものね」
「……良かったな」
「ふふ、はい。ありがとうございます」

どうも調子が悪いようだったので気にかかっていたが、八百万は嬉しそうに笑う。御守に相談した意味は十分にあったらしい。
俺の言った『不思議』の正体ではない回答だったが、まあ、いいか。



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