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your charm - 09



私の個性は母親譲り。ヒーローにはどう転んだって向かないような、力のない個性だけれど私は自分の個性が結構好きだ。

かっこいいヒーローのようにたくさんの人を守ることは出来ないけど、近くの人達を大切にできる人になりたい。泣いている子のすぐ側に駆け寄って、いつでも隣にいて守れるような人になりたい。

大切な人に降りかかる『こわいこと』を代わりに吸い取ってあげられれば、とても嬉しい。おまもりが傷つくのは、誰かの傷を救えた証。あの子が泣くのを、守れた証。
けれど一度、あの子の大切な人を、守れなかったことがある。

*  *

二度目の呼び出しである。相変わらずおどおどした様子で出てきた彼女には申し訳ない。しかし前回よりは多少マシになったようで、俺が話しだすより先にどうしたの?と要件を確認してきた。やはり目は合いにくいが。

「ちょっと、頼みたいことがある」
「頼みたいこと?轟くんが、私に……?」

随分驚いた風に顔を上げ、きょとんと目を丸くする。目が合うかと思ったけどすぐ逸らされた。

「お守り、作るの好きなんだよな?」
「う、うん」

御守は戸惑いがちに頷いた。以前俺がボロボロにしてしまった赤いお守りの出来栄えもよかったし、おそらくだがあの紫色のお守りを男子生徒に作ってやったのも彼女だろう。現に、八百万に白い可愛らしいお守りを作ってやっていたのを俺は知っている。

で、今回の呼び出しというわけだ。

「一つ、作ってほしいんだが」
「え……ええ!?」

一瞬言葉を詰まらせてから、素っ頓狂に裏返った声をあげる。途端に彼女の顔が真っ赤に染まったのを見て、俺の方は首を傾げた。
何をそんなに驚くんだ。八百万曰く、御守にとっては日常茶飯事だという話なのに。

「頼まれること多いんだろ?」
「そ、それは、そう、だけど……!」
「手間かけさせて悪いとは思うんだが」
「そ、そんなことない!大丈夫!全然!」

御守は今度は強く言い切って、首を横に振ったり縦に振ったり……忙しないな、こいつ意外と。

「じゃあ頼めるか?」
「う、うん!もちろんだよ……!」

よかった。いい奴だ。なんせ前回は教室の前で盛大に泣かせたものだから、良い印象はないんじゃねえかと心配していた。
それでも快く承諾してくれ、しかも――俺の勘違いかもしれないが――少し嬉しそうですらある。

「ええと、あの、いつまでに作ればいいかなっ」
「そうだな……できれば、期末始まる前には」
「わかった!ヒーロー科は、実技試験もあるんだってね。大変だもんね」
「ああ。それがどうも不安らしくてな」

彼女はそっかぁ、と目を細める。本当にやたら嬉しそうだな。そんなに人のためにお守りを作るのが好きなんだろうか……そう思ったらなんとなく可笑しくて、つい少しだけ笑ってしまった。
それが恥ずかしかったのか、御守はまたさらに顔を染め上げた。

「じゃ、じゃあ、おまもり……完成したら持ってくね」
「ああ。悪いな、お前もテスト勉強とかあるのに」
「そ、そんなこと――と、轟くんの、ためなら、頑張る……!」

いっぱいいっぱいな表情で、真っ赤な顔を俯きがちにしながらもはっきりと口にした。視線だけ少し上げて、俺の様子を伺っている。

――まじで、いい奴だな、こいつ。まだほとんど話したこともないような相手の頼みを、こんな風に受け入れるなんて。

「そうか。ありがとな」
「う、ううん、そんな……」
「八百万も喜ぶよ」
「……へ?八百万さん?」

俺の言葉に、御守は一瞬の後に目を丸くした。ああ、言い忘れてたか。

「前のお守りが壊れたらしいし、どうも期末の実技試験にあんま自信ねえらしいんだ。せめて新しいの作ってもらえたら、調子戻るかと思って。八百万のお守り」

「……あ、あ〜〜な、なるほど」
「……なんか、変なこと言ったか?俺」
「や、違う!大丈夫!わかった、納得した!」

事情を説明していると次第に赤かった顔が蒼白になっていったので少し不安に思ったが。御守は慌てて受け答えただけだった。
そっかそっかそりゃそうだよね……何か口の中でぼそぼそ呟いて、再度顔を上げた御守は幾分落ち着いた様子でへらりと笑った。

「八百万さんの、新しいお守りね。うん……期末までにはちゃんと渡しておくから」
「ああ、よろしく」

任せて、と言う声はさっきに比べてどこか勢いが弱かった。笑顔も少し疲れ気味だ。

*  *

教室に戻ってあからさまに落ち込む私のそばに寄ってきた友人は、妙に楽しげな顔をしていた。

「なになに〜?どういうお話だったの〜?」
「べ、別に……」
「別にってことはないでしょー」

友人は私が落ち込んでいる理由を何か思い違いしてるに違いない。だってニヤニヤしてるもん。他人事だと思って、からかう気満々だもん。

「お守り作ってって、お願いされただけ……」
「へえ!いいじゃん、前の気に入ってくれたんでしょ?」

友人は目を輝かせた。

私も初めはそうだと思ったよ。それで柄にもなくテンション上げちゃったよ。すごく嬉しい顔しちゃったよ。
『轟くんのためなら』とか思い上がったこと言っちゃいましたよ。

「わざわざうちのクラスまで来たってことは、絶対脈アリだよ!」
「……八百万さんのだよ」
「あ」

普段関わりのない普通科の教室。しかも前に直接対面した時は最終的にぼろぼろ泣いてしまったような、面倒くさすぎる女に声をかけにくるなんて。
あまり人と積極的に関わるようなタイプでもないはずだから、確かに珍しいことだと判断できる。友人が『脈アリ』なんて言葉を使うのも――ありえるわけないって話はともかくとして――当然かもしれない。

しかし、その理由は断じて私なんかじゃなかったとなれば話は一転する。当然だ。友人は楽しそうだった表情をぱっと消して、少し間を置いてこう言った。

「ドンマイ」
「う、うるさい……!」

まさか彼が私のお守りを欲しがってくれるなんて、希望的観測に他ならなかったのだ。ちゃんと話も聞かず、勝手に一人で盛り上がるからドンマイなんて言われる羽目になる。

なんということはない。珍しく別のクラスを訪ねてきたのは、単にクラスメイトの仲良い――のだろう、こんな頼みごとをするくらいだから――女の子を思いやってのことだ。それ以上でも以下でもないのだ。

――……仲良いのかぁ、八百万さんと。可愛くて賢くて強いもん、彼の隣にいても、様になるんだろうな。

なんて思ったらさらに落ち込んできた。はあ。ダメだダメだ、八百万さんのために、最高のお守りをプレゼントしなくちゃいけないんだから、こんな気分じゃダメだ!

――頑張ろう!大事な友達のためなんだから。
――それに、あの子に頼まれたんだもん。頑張るしかないじゃない。



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