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慈愛に満ちたエゴイスト - 01



国立雄英高校ヒーロー科の入試当日。勉強よりは身体を動かす方が性に合っている。この大量の受験生の中で、三百人のうち一人になるには、まず実技試験できっちり得点を稼がねば。

切島鋭児郎は、本日何度目かのガッツポーズで気合いを入れた。

プレゼント・マイクの説明も終わり、いよいよ試験会場に移動する。
ロボットを倒して、得点を集める。単純な切島には相性のいい、シンプルな試験だ。十分間、それが終わればあとはなるようになる。
よしっ、とまた心の中で呟いた時、プレゼント・マイクの声がカウントもなしにスタートと叫んだ。

*  *

今のでやっと30ポイント――何点取れば安心ということもない。残り時間はおそらくもうあと半分ほど。

仮想敵はあとどれくらい残っているのだろうか――切島が周囲を見回した時、少し向こうに座り込んでいる二つの影に気がついた。
気分でも悪いのだろうか、と一瞬心配に思ったが、すぐに一方は違うとわかった。その少年はもう一人の少女の前に膝をついて、彼女の右足に手をかざしている。
そしてその手の中で、みるみるうちに包帯が綺麗に巻かれていった。少女は彼に対して申し訳なさそうに、ありがとう、と何度も繰り返している。それに受け答える少年の笑顔は、怪我人を安心させようという慈愛に満ちているように切島には思えた。

――まじかアイツ、すっげえ!

周りなど気にする余裕もなかった、切島や他の受験者とは全然違う。怪我人にいち早く気付き、迅速な手当を施し、安心させる――それこそまさに、ヒーローだ。
なるほど、そうだこれは雄英高校ヒーロー科の入学試験。得点なんかのために傷病者が見えなくなるなんて、未来のトップヒーローを目指すに相応しくない。大事なことを、いつの間にか忘れていたようだ。
切島は視界がぱっと開けた気がして、すげーすげー!と名も知らぬ少年を心の中で賞賛した。試験が終わったら、絶対声かけよう!
『お前、男だな!』と。

*  *

しかしその少年との再会は意外と早かった。それから三分程度が経った後のことだ。
少年に触発された切島はその時、個性のキャパオーバーで腰の抜けた女子の助けに入って、3点のポイントを得たところだった。

「――なんだあれ!」

周囲が突然騒ぎ出し、切島もそれを見上げた。周りに薄暗い影を落とし、青空を背にしたその巨体――すっかり忘れかけていた、ゼロポイントのお邪魔虫。あんなの、相手しろって言われても出来るかってくらいのサイズじゃないか。
全員がそう判断して、受験生達は一目散に巨大ロボットから離れる方向に駆け出した。切島も助けた女子の手を引いて逃げようとしたが――彼を見つけてしまった。

あの時の少年だ。また、怪我人だか病人だかを連れている。力の抜けた様子で少年にもたれかかっているのは、個性の関係か少年より二回りも大きな体躯をした男子生徒。相手の腕を首に回して、半分引きずるような形で0点仮想敵から遠ざかろうと足を動かしている。しかしもちろんそれは容易なことではなく、どう考えてもあのままでは。
すぐに思い至った切島は、キャパオーバーの女子の手を離した。

「すまねぇ!アンタ一人で逃げれるか!?」
「う、うん……!大丈夫、ありがとう……助けてあげて!」

彼女は切島の問いかけに気丈に頷き、少年達の方を心配そうに見やった。おう!と応えた切島は彼女と別れ、仮想敵に、少年達に向かって駆け出した。
少年はそんな切島に目を丸くして声を上げる。

「――何してんだ!逃げろよ!」

その声に反応した大柄な男子も、切島を見て目を見開く。しかし身じろぎ一つしないのだから、相当体力を消耗しているのだろう。きっとこの細身の少年は、その大きな身体のほぼ全体重を受け止めているに違いないのだ。
それなのに、まだ切島の心配まで。

――お前、やっぱすげーかっこいい奴だな!

声を出す余裕はなかったが、すれ違いざま、少年に向けてグッと親指を立てて見せた。それを見た彼は――なんでか、眉を寄せて切島を睨むようにした。



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