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二人のイメージ設計 - 1



高校を卒業して五年、つまりヒーローとして活動し始めてからもう六年目に入る。甲斐性というやつはそこそこあるつもりなのだが、未だこんな下町の居酒屋の座敷席で、互いにビールジョッキ片手に向かい合っているとは、進展しない。

「おい、女が当然のように胡座かくな」
「見てくださいよ轟先輩!『ショートイケメン!』『助けられたいヒーローナンバーワン!』『ってか抱かれたい!』」
「……大声でそういうこと言うな」

さっきからスマホいじって何してるのかと思ったら、相変わらずSNSでエゴサをかけていたらしい。もう趣味の域だな。

唐揚げやら揚げ出し豆腐やらサラダやら、居酒屋定番のメニューを並べたテーブル。その向かいには机に肘をついて片手にビール、もう片手のスマホ画面を俺に見せつけてくる胡座をかいた女。相変わらず色気のない奴である。

「いいですねぇ、いいですよ!いい傾向です!やっぱりイケメンは得ですね!」

うんうんと一人で何事か納得して、満足げにしながらまたスマホをいじりだす。そんなことより胡座やめろ、今日はパンツスーツだからって、女として許されないぞ。
先ほど無視されたことを再度忠告すると、今度は大人しく――はいはーい、と上の空な返事を返して――適当に足を崩した姿勢に直る。一体こいつは俺を敬ってるのかなんなのか……先輩と呼ばれるようになって七年、未だになめた態度ばかりとってくる。

「この間の救助活動の反応、なかなかのもんですよ。上手いこと動画撮ってくれた人がいたようで、リツイートすっごいんですよ」
「ふーん」

こいつはそういう情報収集が大好きである。雄英高校の経営科を五年前に主席で卒業し、現在は新興ヒーロー事務所の事務方を一手に担っている。事務所立ち上げの際に方々から集めてきたサイドキックや他事務員は口々に、夢野さんの経営手腕はホンモノだと絶賛する。仕事の出来るキャリアウーマン、情報収集のスペシャリスト。そして俺からの評価は、昔から変わらず『スマホばっか見てるネット依存者』。

そりゃあ、自分の事務所の裏方を全て任せるほどの信頼は持ち合わせているが。

「轟先輩、お友達さん方と比較してもかなり良イメージで通ってますよ。緑谷さんは素晴らしいヒーローですが、私としては親しみやすすぎるんですよねぇ。みんなの憧れ正統派ヒーローポジションはショートで決まりです、このままイメージ戦略取っていきましょう」

新人ヒーローの第一歩は知名度である、と夢子は言っていた。それこそ俺達の卒業前からだ。知名度を上げることで行う活動すべてに対して市民の目を向けさせ、効率的に注目を集める。そして確立したイメージとそれを示すヒーローネームを武器に、安定したヒーロー活動が成り立つのだと。

そういう発想はやはり経営科出身者には敵わない。しかも夢子は主席卒業者、それも入学前から『新人ヒーローをトップまで押し上げるためには』を考え続け、突き詰め続けた努力の天才である。

「――今のところ、私の計画通りです!」

最後に確信したように強い声で言い、重度のネット依存者はやっとスマホを伏せて机の上に置いた。片手に握っていたビールを煽り、ふうと満足げに息をつく。……やっぱり色気はない。



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