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二人のイメージ設計 - 3



「いいですか。ヒーローとは慈善者であると同時に、知名度が上がれば芸能人です!自分が思う正義を行えば自然と人気が出ると思っている、爆豪さんなんか悪い例です。現代社会はそう簡単ではありません。大衆に好かれるヒーロー像……遠くなくとも近くなく、強くとも弱きを助け、ファンに誠実にサービスを忘れない!そう、まさにショート!轟先輩はそれに一番近いところにいると、私は考えています」

――それはお前がそうなるよう仕向けてるからだろうが。
商売屋の考え方はわからん。そもそもヒーローは人気商売か?その点からして俺と夢子の目指す方向はどうも上手く噛み合わない。そりゃ人気があれば仕事は増えるし、ヒーローとして市民を救える。トップヒーローというのは長年の目標であって、必ずその座を親父から奪ってやるつもりだ。そのために人気が必要というのは理解しているが――。

「……つまり、なんだ。俺も結婚すればいいわけか」
「ええええいいわけないでしょ!?轟先輩ったら、本当に世間知らずなんですから!」

よくわからないから質問したら、本気で意味がわからないという顔で否定された。

「結婚してイメージアップするのは、あなた達の中じゃ爆豪さんくらいですよ!緑谷さんは、まあ、現状維持ですかね……轟先輩は絶対だめですよ!?まさかそういう相手でもいるんですか!?」
「いねーよ」

いるわけねーだろ。そう言うと夢子はホッと息をついた。その様も期待させられるのに、やっぱりこいつはそんなこと微塵も思っちゃいないわけで。

「いてもいいですけど、絶対バレないようにしてくださいよ。ショート熱愛発覚なんて、女性ファンが離れていく未来しか有り得ません。そんなことになったら、来年のトップはありませんよ」
「……あっそ」

だから、いるわけねーっつの。目の前でお前がそんなに力説している間は。

――『轟先輩!私の一番であるあなたを、トップヒーローにしたいんです!』
もう七年も前、ひたむきな目で俺を見上げた少女が、居酒屋のテーブルを挟んで向かい合い、俺にありえもしない女性関係のトラブルについて延々と講釈を垂れている。予想もしていない状況だ。

彼女が本気で俺をトップヒーローに押し上げようと毎日身を粉にして働いていることも、それを当然に享受する俺も、そんな二人の関係をもどかしく思っている俺も、彼女の計画を潰さないようにと想いを隠し続ける俺も。

「そうですね……ショートが結婚を許されるとすれば、適齢期に入る三十代後半とかになってきますね。それまではガンガンヒーロー活動して貰いますから!若さが命なんですよ、力仕事なんて!」

適齢期とか若さが命とか言うな、おっさんかよ。

「三十代後半……遠いな」
「十年なんてあっという間ですよ。ヒーローの一番華のある時期ですから。大丈夫です!私に任せて頂ければ、ちゃんと十年後も人気ヒーロー出来てますから!」

自分の経営手腕には覚えがあるらしい。自信ありげにハッキリ言われた台詞に、ふーん、と頬杖をつく。

「ヒーロー・ショートが本気になれば、結婚の一つや二つ楽勝ですよ!楽勝!」
「お前、十年後もちゃんといるんだろうな」
「はい?もちろんですよ!きっちりサポートします!」
「ならいい。お前もそれまでちゃんと独り身してろよ」
「はい!……はい?」

一度いつもの元気な返事をしてみせてから、きょとんと首を傾げる。先に言っとかないとな、勝手に相手なんか見つけて来られちゃたまったもんじゃねえし。

「ざるそば遅ぇな」
「そ……そうですね!私の枝豆も!」

みるみる顔を赤くしながら、慌てて俺に同意する。暑さを誤魔化すようにパタパタ手のひらで風を送り、俺と目が合うのを避けてあらぬ方を見ている。変な奴、もう酔ったか?――なんて白々しすぎるか。

「ち、ちなみに轟先輩。三十代後半って、あの、私の方の適齢期は過ぎてる気が……」
「別に俺は気にしねーけど」
「お、俺は……!?」
「気になるなら予定早めろ。スケジュール管理、得意だろ」

すると夢子はさらに真っ赤になってしばし黙った後、らしくもない小さな声で、ぜ、善処します……と答えた。
そうだ善処しろ。早くお前にちゃんとしたこと言ってやりてーんだから。

二人のイメージ設計



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