焦凍くん、私達、別れよっか。ううん、違うの、嫌いになんてなれないと思う。私、焦凍くんのこと大好き、誰よりも好き。ありがとう、私も……うん、愛してる。でも別れよっか。一緒にいちゃダメだと思う。焦凍くんは一番ヒーローらしいんだもの、私みたいなのと一緒じゃダメだよ。ああ、ごめんね、違う、ごめんね。ありがとう、私のために怒ってくれるんだね、焦凍くん優しいね。私も別れたくないよ、本当だよ。でも仕方ないの。……うん、ごめんね、本当にごめんなさい。わかった、焦凍くんの言いたいことわかったよ、ありがとう。
……ごめんなさい、別れてください。私と、別れてください。
……それじゃあ、一つだけ、約束しよ。きっと焦凍くんはこんな約束、嫌になっちゃうと思うけど。
ごめん、違う、ごめんね。怒らないで。
『焦凍くんが私に勝てるようになったら、そうしたら、迎えに来て』
私の個性が嫌い。誰にも好かれない、誰も好きになれない。私の個性が嫌いで仕方ない。
私の周りの人間、全員嫌い。大嫌い。私を蹴るお父さんも、私を閉じ込めるお母さんも、私を嘲笑う同級生も、全員嫌いだった。
私を遠ざけようとする人達、全員嫌い。私に愛されるのを恐怖する人達、全員嫌い。
けど、高校の時の知り合いは結構嫌いじゃなかったりする。
今はヒーローとして活躍してる子ばっかりで、私なんかにも優しくて、かっこよくて、憧れてた。だからヒーローを好きになった。ヒーローって素敵、かっこよくて強くて。
私にも優しくて……まあ、それは『嘘をついてる私』だけなんだと思う。でも優しくなくても、ヒーローが好き。
そう思った時、私はもう手遅れだなって思ったの。
あなたを愛したの。
一番ヒーローらしいあなたを。辛いな、って私を見つめる目は初めてだった。
あの時も私は本当のことを言えなかったけど、結局好きになればなるほど、あなたに本当のことなんて言えなかった。だから別れなきゃって思ったの。
だって、私に勝てないことを良しとされたら、私はいつか――きっと、あなたを殺しちゃう。
だって、私の個性は。
* *
「『加虐趣味』――相手を好きであるほど、残虐性と暴力性を発揮する個性」
「好意によって効果が左右される個性はいくつかあるが、それに単純な『肉体強化』の個性が複合したらしい。雄英入学時、校長には事情を話している」
「そんな個性を持っていると知って、どうして雄英は彼女を育てたんだ?対敵として運用するには、敵に好意を持つ必要があるなんて、どうも交錯している。ヒーロー向きじゃない」
「敵になっちまうってのも、ない話じゃないな」
わからねえよ。なんで――夢子が、敵なんかに。
『焦凍くんが私に勝てるようになったら、そうしたら、迎えに来て』
ああ、俺のせいか。
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