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好きよ好き、だから - 02



爆豪には僅差で敗れて、それでも一般入試の実技成績は二番だったらしい。
そう聞いても正直、その女がそんなに強いようには見えなかった。おとなしい性格に見えた、ただし穏やかというよりは、おどおどした感じ。

雄英高校ヒーロー科の演習科目でも、やっぱり抜きん出た何かは見当たらなかった。爆豪なんかは一年の最初、『テメェ舐め腐ってんじゃねーよクソモブ女!!』と激怒するくらい、拍子抜けしたらしい。そりゃそうだ、一対一の模擬戦はモニターから見ていたが、爆豪の初動の一撃で、軽々と場外に吹っ飛ばされていた。

舐めてないよ、爆豪くん。そう反論する声はやっぱり弱々しい。そして続けて、私きっとあなたには勝てないと思う。
やっぱり爆豪はそれにもムカついたらしく、『ふっざけんな、死ね!負け犬女!!』となり、夢野夢子の“負け犬女”という呼び名はかなり長く続いた。実際、高校三年間、夢子は爆豪に一度も勝てなかったのだ。


対して俺はといえば、どういうわけか高校三年間、一対一の夢子に勝てた試しがない。


「――結局、最後までお前に勝てなかったな」
「大丈夫?焦凍くん、痛くない?腰打った?保健室行く?」
「……問題ない」

確かに負けたのは俺の方だが、だからといって心配されるのは気に食わない。苦い顔で答えると、そっか、そっか、と呟いて立ち上がる。
伸ばされた手をとると、存外強い力で勢いよく引き起こされた。問題ないとは言ったが、思い切り地面に叩きつけられた背中の痛みはまだ収まっていない。思わず顔をしかめると、夢子がハッとして慌てて手を放した。

「ご、ごめん、痛かった?保健室行く?」
「だから、行かねぇ」

なんでそう何度も保健室を勧めるんだ。以前尋ねたこともあったが、『だって保健室行ったら、その、包帯とか貰えるし』という不思議な回答しか出てこなかった。授業外の怪我については、老齢のリカバリーガールはあまり治癒に積極的ではない。

明日は雄英高校の卒業式。昨日行われた最後の演習授業は、同学年ヒーロー科生の、一対一のトーナメント。なお、脱落者は脱落者同士でトーナメントを続け、最終的に同級生の完全なランキングが決定した。
結果に関して各々思うところはあるだろうが、俺自身の順位は、まあ、予想通りの感じだった。爆豪のようにブチ切れたりしないし、緑谷のように感激して泣くこともない。そんな感じ。

しかし夢子の順位については、俺としては不満しかない。どうして夢子が、半分より下の順位に落ち着いたのかわからない。こんなに強いのに。一対一の肉弾戦で夢子に勝てるというのなら、その方法を教えて欲しいくらいだ。

『惚れた弱みってやつじゃねーの?』

と、無責任に言い放ったのは誰だったか。上鳴あたりが妥当だろう。

「悪い、付き合わせて」
「ううん、全然」

卒業式の前日、本当なら完全な休日である。他の生徒は寮を引き払う準備をしたり、就職先に出向いたりしているのに、そんな中俺のワガママに付き合わせてしまった。
決定したランキングに納得がいかず、夢子に最後の一戦を挑んだ。学年で弱い方の夢子と、学年で強い方の俺と、本気でやり合ってどちらが勝つのか。

結果は、案の定、これまでと同じだった。

「……なあ、お前、他の奴らに手加減とかしてないよな?」
「してないよ、するわけないよ。そんなことしたらみんな怒ると思う」
「だよな」

見ている限りでも、そんな様子はなかった。負けた時はちゃんと悔しそうだし、勝った時はとても楽しそうに笑う。そんな顔は三年間で何度も見てきたし、その笑顔は結構好きだった。
なんせ夢子はあまり笑わない。いつもどこか申し訳なさそうにしている。まあ、相手が自分であれば、珍しい笑顔を見ても苦々しいものだが。

「なんでお前には勝てねぇんだろう」
「……きっと、私が焦凍くんのこと好きだからだよ」

そう言って、笑えば可愛らしいのに、さらに申し訳なさそうな顔をするから辛くなる。
笑って、くれればいいのに。

「……俺も夢子のことが好きなのに、勝てないのか?」
「そうだね、私と焦凍くんは違うからね。私は焦凍くんのこと好きだから、焦凍くんに勝ちたいって思う」
「……なるほど」

その理論で言えば、俺が夢子を好きだから、勝ちたいって思えないってのも、あり得るのかもしれない。勝った時の夢子の笑顔を見たいと思うのかもしれない。
戦ってる時にそんな甘い感情は捨てているつもりだが、無意識に残っているのだとすれば弱点だ。プロヒーローになるにあたって、改善するべきところだ。

とはいえ、もうどうしようもない。俺が笑顔になって欲しいと、笑顔にしてやりたいと、思う相手はお前しかいないんだから。

ずっとそうだった。お前に笑って欲しかった。

「俺が勝てないのはお前だけで充分だ」
「そっか……そっか」

俺がそう言って少し笑ったからなのか、夢子はパチリと瞬きをして、それから何か含むような声をポツリポツリと零した。
その含まれた“何か”が気になって、夢子?と名前を呼んだ。

すると彼女は、ふと一つ息をついて、こんなことを言った。

「焦凍くん、私達、別れよっか」



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