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らしくないぜヒーロー! - 02



夢野夢子という同級生。
中二の時、一度だけ同じクラスになったことがある。派手な顔立ちに明るい色にされた長髪。校則では違反であるはずの化粧の臭いが常にしている。いわゆる『リア充』タイプの女で、同じような男女の友人がたくさん。毎日ケラケラ馬鹿みたいに笑い合い、放課後はカラオケやらショッピングやらと遊んでばかり。
そのくせ意外なことに学業成績は良好で、なんなら一ヶ月後の入試で雄英合格を目指す俺と同じか、それ以上かもしれない。

そんな何でもできる彼女はある種のスクールカーストというものの中では紛うことなきトップ。そんな彼女が日々ちょっかいを掛けてくる俺は、さしずめカースト圏外といったところ。

二年前、誘拐犯から助けてやったことは覚えていないようだ。去年同じクラスになった時にはあの調子だった。別にわざわざ嫌な記憶を引っ張り出すつもりもないので、甘んじて受け入れている。
実害はないのだ。さっきの千円札だって、やっていることはカツアゲ未遂だが、彼女が本当に俺から物を奪うなんてことは俺だって思ってもない。

傍から見ればいじめっ子といじめられっ子。俺の意識も大概同じだが、いわゆるイジメにしては可愛らしいものだと思っているからあまり気にしていない。そんなことより来たる雄英高校ヒーロー科の入試対策の方がよほど重要だ。

俺はもう一度参考書を開く。クセのつくくらい繰り返したページは、簡単に元の説明文を晒した。

*  *

夢野夢子はヒーロー志望だ。
そんな噂があって、そりゃそうだろうなと俺も思う。そもそも最近の子どもは大抵、口を揃えてヒーローになりたいと将来の夢を語ることが多い。
さらに彼女にはヒーローをしている叔父がいて、時にその叔父の活躍を自分のことのように自慢する。彼女の個性は彼とは異なるが、それに似たヒーローらしいものである。

――俺とは違って。

成績優秀で人に好かれやすく、あつらえ向きの環境で育ち、期待される個性を持つ少女。
対して俺は、成績は足りてても友人と呼べる相手はほぼいないし、個性を言えば皆口々に『悪用しないでね』。

夢野夢子は雄英高校志望である。
そんな噂があって、そうかもしれないと俺も思う。そして合格するとすれば、俺より断然、彼女なのだろうと。

*  *

残念だったなぁ、と担任は頬をかいた。本気でそう思っているのか、実はまるっきり予想通りなのか、勘繰るのも億劫だったので一つ頷きだけ返した。

まあ、普通科でも倍率すごいしな、受かったのはさすがだよ。最後にそんな薄っぺらい励ましの言葉を受けて、俺は人の少ない職員室を出た。国公立高校入試の結果発表は、卒業式を終えた冬休みにもつれ込んでいた。

マフラーとコートに身を包み、校舎を出た。心なしかいつもより断然冷えて感じる空気に身震いする。吐く息も白い。
消えていく息をぼんやり見ていた視界の中に、不意に見慣れた短いスカートが入り込んだ。

「ちょっと心操。ぶつかるじゃん、避けろよ」
「……そっちが避ければいいだろ」
「はあーナマイキ」

やれやれ、とでも言うように肩をすくめる夢野。いつも通り。
互いに足を止め、相手が進行方向から退かないので顔をしかめる。夢野については、少し訝しげだ。いつもなら俺が、何も言わなくても彼女を避けて通るから。

しかし今は、そんな気分になれなかった。彼女が両手を突っ込んでいるロングコートのポケットには、きっと俺には送られなかったものが入っているに違いない。いつも通りの態度が、それを裏付けている。

「……合格したのか?」

俺が尋ねると、夢野は少し目を見開いた。それからむっとした声で答える。

「なによ、アンタ私の志望先知ってたの?」
「雄英だろ」
「……誰よ告げ口したの」

ますます不機嫌な声。告げ口もなにも、うちの学年で一番可能性があるのはお前だって、誰もがそう思っている。

「つーか、心操こそどうなのよ。ガリ勉ばっかして、まさか――」
「落ちたよ」

まさか受かったわけがないでしょ。どうせそう続くのだろう。肯定するのは嫌だったので、自分から言った。

「予想通りだろ」

そう言って、いつもの夢野のようにふんと笑ってやった。自分にも対する、嘲りだ。



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