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非合理の花束 - 03



その後なんやかんやと縁があって、ついに私達は恋人同士という関係になったのだが、消太さんは本当に多忙な人だった。そもそも無駄な空き時間を嫌がっている節さえあり、睡眠時間以外はヒーロー活動や始めたばかりだった教職の仕事に打ち込む。
食事のことさえまともに考えていないと知った時はさすがに呆れた。付き合い始めてからは私が夕飯作ってあげたり、お弁当渡してあげたりして改善されてたけど――そういえば今朝はちゃんと朝ご飯食べたかな――いやなんで私が気にしなくちゃいけないの。

そんな多忙な消太さんに気を遣って、デートとか毎日の連絡とか、そういう面倒なことは極力強要しないことにしていた。
しかし私はヒーローでもない普通の女で、別に恋人の身の回りの世話を淡々とこなすメイドではないのである。お喋りしたい他愛ないこともたくさんあるし、特に意味もなく構って欲しい。私は本当に非合理的な生き物だと、彼と出会って初めて知った。

そんなある日、仕事で外回りをしている途中、綺麗な菜の花の群生地を見つけた。
そのすぐそばを流れる細い川とのコントラストも相まって、ああ綺麗だなと思わずスマホで写真を撮った。そしてそれをなんとなく、本当になんとなく消太さんとのトークにぽいっと投げ入れた。それだけだと流石に素っ気ないかなと思ったので、『菜の花綺麗でした』と一言付け足して。仕事が終わってから確認すると、画像とコメントに既読がついて、消太さんからは一言『そうか』と素っ気ない返事がきていた。
迷惑だったかなぁと少し申し訳なく思ったけど、ちゃんと見てくれたのがそれ以上に嬉しくなって、次の日は近くの公園で花壇のパンジーを撮って送ってみた『パンジー可愛いですよ』。その日の夜は消太さんの家に行く予定だったので、実際に顔を合わせた彼は直接その意図を聞いてきた。

なんとなく、とあっさり答えると、やっぱりな、と呆れた顔をされる。それから彼は言ったのだ、『全然、合理的じゃないな』。
何度も聞いた言葉だし、その度に非難されている感じがして私はあまりその言葉が好きではない。
だけどその時だけは、彼がなんだか幸せそうにゆっくり笑ったように見えて、どうしようもなく胸が鳴った。

だから私はそれ以降、日常の中の写真をぽつぽつと彼に送ることにした。空の写真や野良猫の写真――それは消太さんが一時待ち受けにしたほど気に入ったのは意外だった――そして圧倒的に花の写真。一言コメントも忘れずに。

思えばもう三年以上続いている。最初は時々反応を返してくれた消太さんだったが、案の定次第に放置するようになって今に至る。
それでも毎日きちんと既読は付くし、以前消太さんのスマホの中身を見ていた時に――断じて浮気を疑ってとかそういうことじゃなくて、単純に暇だったからだ――画像フォルダーが私の送った写真でいっぱいになっていたのを見た時は、驚きすぎて叫んでしまった。
消太さんはしまったとばかりに顔をしかめて、ほっといたらトークから消えるだろうが、と言い訳にもならないことを言った。その顔が少し赤くなっていたのは、可愛いなって思ってしまった。

――笑ってくれたのになぁ。

私と消太さんは噛み合わない。
無駄ばかりの私に、彼はうっとうしく思うことも少なくなかっただろう。それでも確かにあの時、私の無駄な行動を、笑って受け入れてくれたのに。写真を全部ちゃんと見て、とっておいてくれたのに。

それじゃあ全然足りなかったんだ。私達は結局、うまく擦り合わせることができなかった。



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