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非合理の花束 - 02



初めて出会った彼は、得意先のオフィスに所属する若手ヒーローだった。営業スマイルでよろしくお願いしますと頭を下げた私をじとりと見て、どーも、と愛想の無い返事。感じの悪い人だな、というのが第一印象だった。

今でもそうだが、彼は身なりだとか物事の外装には全く興味を持たない人だ。見た目と中身は別であると割り切っていて、先入観を持たずに物事の本質を見極めようとする性格は生真面目とも言える。
対して私は、昔から普通の女の子で、ヒーローにもほんの少し憧れつつ、自分の身の丈にあった外堀を大切にする性格だった。身なりも人並みに気を使っていたし、身の回りに置くものはなるべく自分の好みにあった可愛いものを欲しがった。確かに中身は大事だが、外見も同じくらい重要なのだ。だってほら、見てて気持ちのいい方が、嬉しい。

普通に短大まで進学して、デザイン系の仕事につくことにした。運良く就活も順調に進み、インテリアコーディネートの大手会社に就職。巷で噂のヒーロー事務所からの依頼も受けることがあり、そのうちの一つで消太さんに出会った。
仕事の相談のためにとクライアントとの打ち合わせを重ねる間、印象の良くない若手ヒーローとは何度か顔を合わせた。
一度、消太さんの上司であるヒーローが『若者としてはなんか、希望とかない?』と雑談の種に質問を投げかけたことがあった。あの感じの悪い彼の、インテリアの好み。私も少し興味があって、希望ですか、と少し首を傾げた彼の答えを待った。

――『別に、事務所なんて机と椅子と機材さえあればいいでしょ』

つまりこういう所からして、私と消太さんは基本的に根本的に、噛み合っていないのだ。最初から最後までそうだったらしい。彼にとって私は無駄なことばかりしている理解できない存在で、私にとって彼は見ている世界が違う理解できない存在だったのだ。

*  *

とはいえ四年ですよ?あとふた月待てば五年目に入るっていうタイミングの四年目ですよ。そりゃ色々呆れられたり叱られたりは――主に消太さんから私に対して――あったけど、ちゃんと仲睦まじく恋人同士やれてたのに。終わりってこんなに呆気ないもの?

私は消太さんの住むアパートの一室を飛び出して、自分の借りているマンションに戻っていた。
実のところ、ここで寝起きしたのはそれこそ一年ぶりくらいの勢いだ。これも私の『無駄』である。ほぼ同棲みたいな形で消太さんのアパートに上がり込んでいたので、この一室も引き払って完全に同棲した方が安上がりというわけだ。
退去の手続きとか家具の処理とか引越しとか色々面倒くさがって結局放置していたのだけれど、こうして舞い戻ってきたことを考えれば、あながち無駄でもなかったのかもしれない。……なんて考えると気分が落ち込んできた、やめよう。

別れる?別れよう。その会話が成立した時点で、長々続いた恋人関係には終止符が打たれたのだろう。
私が言った『別れる?』は完全に売り言葉に買い言葉のでまかせ。だけど続く彼の『別れよう』は、きちんとその冷静な頭で考えた結果の、紛れもない本心に違いなかった。

まだ実感が全然ない。メッセージアプリの一番上には消太さんのアイコンがピン留めされたままだし、開けば昨日の朝私が送った、たんぽぽの綿毛の写真が一番に目に入ってくる。

――『全然、合理的じゃないな』
そう言って、言葉とは裏腹に少しだけ笑ってくれた消太さんの笑顔を、今でも鮮やかに覚えているのに。

また泣きそうな気分になって画面の明かりを落とした。寝転がったままのベッドに顔を押し付けてじっと堪えた。今日が休日でよかった。



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