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ガイスト・ガール - 06



爆豪は早々にバスに乗り込んで、中央列窓際の席を陣取った。他のクラスメイトがわいわいお喋りしながら席を確保していく音を聞きながら、窓の外に目を向ける。
早く出発して、早く実践に入りたい。退屈な座学の授業をこなしたばかりの生徒達は、『人命救助訓練』というヒーローらしい響きに浮き足立っていた。

ふと、組んだ足の上にあの独特の重みを感じて、視線を窓の外から離す。膝の上を見たところで、やはり何も見えない。

「あーまた、ごめんね」

そして通路にはいつも通りにへらりと笑う幽姫。いつの間にか隣の席にいた耳郎もスマホから顔をあげて幽姫を見遣った。

「あ、霊現、ここ座る?」
「いいよ〜耳郎さん座ってて。爆豪くん、ゴローちゃんのことよろしくね」
「うぜえ。自分で管理しろ」
「まあそう言わないで」

幽姫はあっさり爆豪にゴローちゃんを押し付けて、自分は耳郎の後ろの席に座ることにしたらしい。

「轟くん、隣いい?」
「ああ」

真後ろで交わされる短い会話を聞いて、爆豪はチッと舌打ちした。再度窓の外を見る。ガラスに反射して淡く映る後ろの席の様子は、椅子にもたれてゆったり目を閉じている轟と、その隣でポーチの中身を整理し始めた幽姫だ。
もう一度、誰にも聞こえないように舌打ち。さっさと訓練場に着け。バスはようやく動き出した。

*  *

「そういえば、霊現の個性も使い勝手いいよな」
「え?」

爆豪弄りから唐突に、切島が話題の先を変えた。おそらく爆豪と轟の近くにいて、目に入ったのだろう。当の幽姫は彼の言葉に首を傾げて返した。

「そうかなぁ」
「だってなんでも浮かせられんだろ?」
「軽いものだけだよ」
「十分じゃん!念動力みたいなもんだ」
「うーん……」

確かに念動力は使い勝手のいい人気の能力だが、それと幽姫の個性とはまた別のことであって……と、答えようとした時だった。

「――念動力だろ」

と、横から口を挟まれた。上鳴が少し驚いたように言う。

「なんだよ寝てたんじゃねーの?轟」
「寝てない」

出発してからずっと目を閉じていたものだから、てっきり寝ていたのかと思っていた。幽姫は目を瞬かせてから、口を開いた。

「念動力じゃないよ、轟くん」
「あっそ」
「……言いてーことあんならハッキリ言えや」

幽姫の否定に対して冷たく返した轟。それに反応したのは意外にも、彼の前に座っていた爆豪だった。
特に顔を出すわけでもなく、前を向いたまま低い声で唸るように呟く。轟も一瞬、椅子越しに爆豪を見たかのように視線を動かしたが、すぐに淡々と言葉を並べた。

「別に、どうでもいいけど。幽霊なんて信じてないって話だ」
「えー、でもいるんだろ?ゴローちゃんだっけ?」

上鳴が幽姫に確認するように言ったので、うん、と頷こうとした。が。

「それも怪しいがな。まるで存在しているように振舞って、あたかもポルターガイストのように念動力を使えば、馬鹿ならあっさり信じる」
「あれ?それ俺が馬鹿だって言ってる?」

上鳴が思わずつっこんだものの、幽姫はといえば、轟の持論を聞いてそっかぁ、と呟いただけだった。

「まあ、轟くんがそう思うなら、それでいいと思うよ」
「……怒んねーの?」
「怒られると思って言ったの?轟くん、変なの〜」

幽姫がくすくす笑うと、轟はそういうわけじゃ、と言いながら目をそらした。

――やっぱ不思議ちゃんだな、霊現は。

そんなことをひっそり思ったのは耳郎である。片耳のプラグはスマホに接続しているが、もう片方の耳ではしっかり彼らの会話を聞いていた。
と、隣の席で爆豪が何か身じろぎしたのに気づいて横目で見遣る。組んでいた足を解いて、何か探すように小さく首を振っていた。何してんだと不審には思ったが、その視線に気づいた爆豪が不機嫌そうに睨んできたので、すぐ目を逸らす。おーこわ、触らぬ神に祟りなし。

「あ、ゴローちゃん。何してるの〜、こっちおいで」

後ろの席で機嫌良さそうに幽姫が笑ったのが聞こえた。
さっき隣の人間に霊の存在を否定されたばかりだというのに、気にした風もないあたり、やはり不思議ちゃんだ。

バスに乗った時は爆豪のそばにいたらしいが、いつの間に彼女の方に行ったんだろう。一瞬そんなことを考えて、自分も轟の言う馬鹿に分類されそうだ、と耳郎は一人肩をすくめた。



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