×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -




ガイスト・ガール - Geist/Girl



激しい爆発音、ギラついた赤目、ロボットを見据えて笑う顔はヒーロー志望にしては凶悪すぎるような気さえした。ゴローちゃんは、なんであんな子に興味を示してるんだろ。
ガラクタの山を築き上げる少年は、遠目から様子を伺う私のことなど気づくはずもない。ついに一度も目を向けられることはなかった。

彼はひたむきな人。私やゴローちゃんがずっと観察していても、気にも留めずにひたすら前ばかり睨み付ける。
最初は何ら気にならなかったのに、いつからかその目に映る同じものを見たいと思うようになった。私にはない行動力や自信や情熱に、少しでも触れてみたいと感じるようになった。

彼は理想を持っている人。ゴローちゃんと私の世界に無い考えを、いとも簡単に示してくる。その理想は彼の独善なのかもしれないし、とても一般的な言葉なのかもしれない。どちらでも構わないと思う。
彼は私に新しいものをいくつも指し示してくれて、それに救われることが沢山あって、それだけで彼の理想は私の理想になり変わってしまう。

それほど、彼が見ている世界は日を経るごとに魅力的に思えてくるから、不思議。

彼はとても繊細な人。彼はとても強い人。彼はとても横暴で、なのにとても優しい人。

ああ、それだから彼の赤い瞳に憧れてしまったのだ。真正面からそこに映る自分を見たら、捕らえられて、どこにもいけなくなりそうな、そんな強い閃光に。

*  *

また週末がやってきて、幽姫は麗日とテーブルを挟んでいた。ちょうど朝食を終えたところだった幽姫は、今日は遅めに起きたらしい麗日と顔を合わせたのだ。
先日から名前で呼び合うようになって、なんだか距離感が大分縮まったような気がする。そういうわけで、慣れた手つきで簡単な朝食を作り食べ始めた麗日と他愛ない会話もするような仲になった。

向こうのテレビ前では、朝のヒーロー情報番組を見ている者も数人。『今日の若手ヒーロー』の紹介についてやたら細かい情報まで網羅した緑谷の解説は、飯田や切島には好評だった。上鳴や峰田はそんなことより画面下のワイプに映るMt.レディの方が気になるらしい。
彼らが座るソファの肘掛に浅く腰掛けてぼうっとテレビを見ている轟の足元には、コスチュームを入れたケースが置かれていた。仮免許取得のための講習は今日も行われるようだ。

――爆豪くんが遅れてるのかな。それとも轟くんが早いのかな。

幽姫がちらりと思った時、エレベーターが到着したのを知らせる小さなベルの音があって、スリッパの底を床に擦って歩く足音が続いた。
あっと思って目を向けると、いつもの如くだらしなくベルトの位置の低い制服姿。面倒臭そうな表情と気だるげな足取りで現れた爆豪は、テーブルにいる幽姫と麗日にすぐ気づいた。

「おはよ〜爆豪くん」
「あー……」

にっこり笑って挨拶をしたというのに、爆豪の方は少し眉を動かしただけでまともな返事もなかった。幽姫としては今更そんなことで目くじらを立てるものでもないが、麗日はちょっと不満げに口を尖らせる。

「おう、爆豪やっときた」「轟が十分くらい待ってたぞー」
「うっせえな、そいつが無駄に早ぇんだろが。つかなんで待ってんだ」
「どうせ目的地一緒だろ」

テレビを見ていた切島と上鳴がはやしたてると、爆豪は轟の姿を認めて顔をしかめた。そんな爆豪の態度をスルーして一緒に行こうというのだから、轟はやはり大物である。幽姫はつい笑ってしまう。

「講習会でしょう、いってらっしゃい」

そう声をかけると、爆豪は轟達に向けていた視線を外して、なぜか幽姫の方に寄ってきた。ええ何?と麗日がぎょっとしたのも気にせず、幽姫の前に立つ。

「なあに?爆豪くん」

幽姫は彼を見上げて首を傾げた。ゴローちゃんはふわりと爆豪の肩に飛び乗っている。今乗ったところで、彼はすぐに出かけるのだからあまり意味ないのにな――幽姫はぼんやり考えていたので、爆豪がニヤリと笑ったのに気づくのが一瞬遅れた。

「――彼氏が出かけんのにキスの一つもねえのかよ、幽姫」

さらりと言われた台詞を理解する前に、ふっと蛍光灯の光を遮る影が落ちた。瞬きをする一瞬、かすめるように口元に触れたやわらかい感覚。身を起こした彼の赤い目が機嫌良さそうに細まって、ちろりとのぞいた舌が唇を舐める仕草が妙に色っぽい。

固まった幽姫の反応に満足げに鼻を鳴らして、じゃあなと何事もなかったように離れていった。轟の隣を通る時に手のひらの中で小さな爆発を起こし、ボケッとしてんな、と声をかけていく。
それを受けた轟だけはピクリと肩を震わせて彼の後をついて出ていくことができたが、ソファに座っていた他の者達は、幽姫と麗日と同じく固まったままその背を見送るのみだった。

エントランスを抜けた二人が出て行き、大きな玄関扉が閉まった音が響いてようやく、その場に残されたクラスメイト達が一斉に悲鳴じみた声をあげた。

『はああ――!?!?』
「なんだ今の!なんッッだ今の!?」「リア充かよ!!フザケンナ爆発しろ爆豪ァァア!!」「か、かっちゃんが……か……きゅう」「緑谷!しっかりしろォ!」「ク、クラス内で不純異性交遊など断じて許されることでは……!!」「ちょちょちょ、うそやん!!幽姫ちゃんいつの間にー!?」

「ああ〜!も〜!」

こんな状況に一人で取り残されて、幽姫だけが針のむしろ。顔を真っ赤にして、もう外界を遮断するしかないと判断した。
テーブルに突っ伏して、手で両耳を塞ぐ。麗日達がきゃんきゃん騒いでいる声は、少しだけだが遠くになった。

しかしその代わりに、誰よりも強い感情がありありと伝わってきてしまった。目一杯に伝えてくるゴローちゃんの感情は、喜びと祝福と幸せの感情で一杯だった。


Geist/Girl



前<<>>次

[73/74]

>>Geist/Girl
>>Top