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ガイスト・ガール - 66



「――うん。好き」

その返答を聞いて、自分から聞いてきたにも関わらず麗日は瞳を大きく見開いた。

「びっ、くりしたぁ……あっさりやね」
「ふふ。でも、誰にも秘密にしてね」
「うんうん!絶対言わんよ」

二度三度と頷いて見せる麗日は信用に足る少女だと知っているので、何も心配はしていないけれど。
幽姫は少し火照り始めた頬を隠すように右手を当てた。

「やっぱそうなんかぁ。はあ〜なんかドキドキするわ〜」
「麗日さんだから言ったんだよ」
「それは嬉しいけど……良かったん?私に言っちゃって」

首を傾げる麗日に、幽姫はもちろんと頷いた。

「だって、麗日さんも似たようなものでしょう?」

断定する口調でそう言うと、麗日はポンッと音が聞こえそうなほど一瞬で顔を赤く染めた。クスクス笑うと、居心地悪そうに肩をすくめる。ちょっと意地悪だったかも、と幽姫は姿勢を正した。

「一次選考通った時、一緒にいたよね」
「うあっ……相手思い切りバレとる……」
「見てたら、すぐわかるもの」

特にここ数日、見るからに挙動が怪しくなることがあった。そわそわしたり、頬を染めたり、はたまた慌てて思考を追い出すように首を振る様も見かけた。そういう時に決まって彼女の視線の先にいる相手。
幽姫と麗日はまるで性格が違っていて、あんな態度を幽姫はとったこともないが、同じ病に振り回されている者同士、察するのは容易かった。

「ちゃうわって言わないあたり、何かあった?」

幽姫が尋ねると、麗日は動揺した態度を抑えて、あー……と視線を泳がせた。そしてしばし何か考えて、幽姫に目を戻す。

「……私な、伝えないことにしたんだ。困らせちゃうの嫌だし、今は一生懸命な背中見てるだけで十分かな、って思う」
「そうなんだ」
「霊現さんは?こないだ、言っとったやんか」

『自分のしたいことはなんとなくわかったから、それでいいかなって』。一週間ほど前の話だ。麗日の問いかけに、幽姫は一つ息をついた。

「そもそも、麗日さんと私じゃ全然状況違うじゃない?」
「そう?」
「うん……私、実は麗日さんにちょっと嫉妬してたもの」
「へっ!?なんで!」

私爆豪くんとかなんとも思っとらんよ!?と裏返った声で慌てるので、幽姫はまた笑ってしまった。小動物のように騒ぐ麗日を見ているのは新鮮で、そろそろ楽しくなってきた。

「だって麗日さん、爆豪くんに名前呼んでもらってるでしょう」

そう言うと、麗日は目をまん丸くした。

「……って、霊現さんも名前くらい呼ばれてるでしょ?」
「ふふ、実は一度も呼んでもらったことないんだよね〜」
「ええ!?あんな仲良しなのに!」

本気で意外だったらしく、麗日はまた裏返った声をあげた。

「幽霊女とか、電波とか、鈍間とか、そんな感じだよいつも」
「ちょ、それ……霊現さん、やっぱり爆豪くんやめといた方がよくない……?」
「それでやめれたら苦労ないんだよね〜」

これに関しては幽姫もさすがに苦笑せざるをえない。そもそも爆豪が名前を覚えているか確信も持てないのだ。改めて聞けば酷い罵詈雑言を浴びせられている気もするのだが、それを自覚しても嫌悪感が一切ないあたり、どうやら戻れない域にまで来てしまったらしい。
となれば、あとは進むのみ。結局、幽姫の結論はそこでやっと落ち着いたのだ。

「私はね――爆豪くんと、ちゃんと目が合うようになりたいの」

背中を追うのでもなく、横顔を見上げるのでもなく。あの綺麗な赤と同じ目線で、彼の前に立って、逸らすことなく見返せる自分になりたい。ヒーローとしてクラスメイトとして彼を尊敬している念も当然あるし、追いつかなければという意識は、“ヒーロー”としての幽姫の原動力。目標も、実力も、自信も、まだまだ彼より足りていないのは確かだけれど。

「だって私、爆豪くんのこと支えてあげたいもの」
――守ってあげたいもの。

幽姫はまだまだ半人前でも、爆豪だって別に完璧じゃない。彼の欠けた部分を補えるような人間に、彼の糧になれるような人間になりたいと思った。
爆豪は幽姫に多くのことを教えてくれて、ここまで引き上げてくれた――だから、彼のために死ぬのだって構わないと思えた。

「……すごいね、まさか霊現さんがそんなこと言うとは思っとらんかったよ」

麗日は一人頷いて、そっかぁ、と呟き笑った。

「なんか、こう言うのが合っとるかわからないけど……お互い、がんばろ!幽姫ちゃん!」

最後に付けられた名に、幽姫は思わず目を瞬いた。麗日は照れたように頬をかく。その様がなんだか可愛らしく、幽姫はまたくすりと笑ってしまった。

「……ふふ、そうだね。がんばろ、お茶子ちゃん」

そうして、お互いの秘密を抱えた二人の少女は、しばらくクスクス笑い合っていた。



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