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ガイスト・ガール - 05



学級委員長。トップヒーローに不可欠なリーダーシップを養うことのできる役職だと、クラスメイトがこぞって挙手しているのを幽姫は一番後ろの席から眺めていた。21人クラス、四×五の机の並びの中で、一つだけ後ろに飛び出た配置にあるその席からは、クラスメイトの動きがよく見える。

「みんな物好きだね〜」

幽姫の机の上に寝ているゴローちゃんに小声で言うと、ゴローちゃんは興味なさげに尻尾で天板を叩くだけだった。

*  *

学級委員長は飯田が提案した投票形式で選出することになり、結果、三票を集めた緑谷が委員長、二票の八百万が副委員長と決定した。

「デクに入れたんじゃねーだろうな」
「爆豪くん、言いがかりだよ〜」

またも十分休憩を利用して、幽姫が爆豪の席にやって来た。そんな彼女を睨め上げ問うたが、相手は笑って否定する。
投票結果にて、幽姫の票がゼロだったことは確認済みである。自らに入れなかったその一票が、ではどこに行ったというのか。

「私、飯田くんに入れたよ。一番それっぽいもの。他に思いつかなかったし」
「はあ?俺に入れろやそこは」
「ふふ、爆豪くんったら〜。それだけはないと思うよ」
「どういう意味だコラ!」

そういうとこだろ、と様子を見ていた数人が心の中で呟いたのも当然である。

しかし低い声で怒鳴った爆豪は、それ以上なにか喚くでもなく舌打ちを一つしただけ。幽姫はその様子を眺めながら、なんだか大人しくなったなぁ、と気がついた。最初なんかは女子に対しても容赦なしに手を上げそうな勢いだったのに、今や怒鳴りはしても手や足が出て威嚇するような行為は少なくなった。

ゴローちゃんの付き添いなので、爆豪の機嫌が良かろうが悪かろうが、幽姫を嫌おうが何だろうが、別にどうでもいいこと。しかしまあ、近くにいるのであれば良好な関係を築けるに越したことはない。せめて少し仲良いクラスメイト、くらいの関係は維持しておきたいところだ。

幽姫はつらつらと一人で思考を巡らせ、自分で自分の考えにウンウンと小さく頷いた。そんな幽姫の様子を、爆豪がまたこいつ変なことしてる、と冷めた目で見ているのには気がつかなかった。

*  *

放課後、前を歩くゴローちゃんについて廊下を進む。
今日はゴローちゃんも、さっさと教室を出て行った爆豪にのこのこついていくようなことはなかったので、安心して帰り支度を済ませることができた。

昨日は慌てて学校を出たせいで無駄に学校に戻らなければならなかったし、戻ったら戻ったで廊下を走ったことを飯田にやたら説教された。
もとより度がつく真面目の飯田は、結局幽姫が感じた通り、一番学級委員長に適任だったのだろう。昼休み、マスコミがセキュリティを強行突破したせいで起きた警報騒動を鎮めたこともあって、学級委員長は飯田に変更となっていた。

明日から、気合い入れてそうだなあ、飯田くん――幽姫がそんなことをぼんやり考えながら、昇降口で靴を履き替えていたその時だった。

「……っ!」

キーン、と耳鳴りがして、幽姫は思わず眉をひそめた。頭痛のする頭を右手でそっと抑えながら、耳鳴りが止むのをひたすら待つ。

――うわ、これは、いつになく……。

閉じてしまいそうになる目に力を入れて、靴箱に左手をかけて、倒れ込みそうになるのを気力で支えた。次々と流れてくる耳鳴りと、暗い暗い記憶――これは、幽霊の『感情』に他ならない。
時間にして一分程度だろうか。やっと耳鳴りが収まり、記憶の流入が止んだ。気づけば足元に座ったゴローちゃんは、幽姫の顔をじっと見上げていた。

「……大丈夫だよ〜」

小声でそう言ってみせると、ゴローちゃんはゆらりと尻尾を揺らした。

一つ深呼吸をして、あたりを見回した。すると校舎の窓の向こうで、白い靄の塊が二、三体ウロウロしているのを見つけた。きっと彼らの感情だ。表情もなく、形も曖昧なところからして、あまり力の強そうな霊ではない。
しかし今見えた感情は、ここ最近なかなか当たらなかった程に暗く強かった。

――あんなの、誰が連れて来たんだろう。

最高峰のヒーロー科を有する雄英高校の中で、自然発生的にあんな幽霊が現れるわけがない。誰かが――あの暗い感情を向けられるような者が、連れて来たのではないか。

「いやそれこそ、まさか、だね……」

幽姫は自分の考えに肩をすくめた。そんな“誰か”が、雄英の中にいるはずもない。この学校は自由で活発な空気に覆われていて、あんな憎悪を向けられるのにふさわしくない。

「帰ろっか、ゴローちゃん」

まだ耳に新しい、セキュリティ突破の警報音。幽姫は愛猫の幽霊に笑いかけた。ゴローちゃんは一つ首を振って、幽姫の前でひらりと身を翻した。



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