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ガイスト・ガール - 64



ガラスの割れた二階の窓から白い靄が降りて来た。

「見つけたって!」
「どこだ」

幽姫はゴローちゃんが伝える情報を受け取りながら爆豪の方を振り返った。爆豪は先ほどから思ったように動けないのが歯がゆいようで、不機嫌を隠しもせず端的に受け答える。

山道のエリアでの救助を終えて、幽姫達は隣の工場群での救助に移っていた。工場群は比較的崩壊が少ないものの、重機や薬品などの危険物が多くあることが想定され、安易に屋内に入って救助することが困難になる。
離れた場所からの探索に有利な個性を持った者が中心となって、内部の逃げ遅れの要救助者を探しては有利な個性を持つ実働者に指示を出すような状況が続いていた。

切島も先ほど、他校生からの指示を受けて中に入って行ったところである。それに対して爆豪は、協調性の感じられないしかめっ面が信用されていないようで、他校生と協力ということがなかなか上手くできていない。
結局、ゴローちゃんに探索してもらう幽姫の指示のみに従っている状態だった。

今新しく見つけた要救助者は、三階に二人。出入り口になる扉が歪んだ上、一人が足を怪我して動けない状態らしい。
建物自体がいつ崩壊してもおかしくないほどのダメージがあると、近くで様子を見ていた他校の受験者から情報提供があった。

「ゴローちゃんに二階まで上げてもらうから、そこから三階に。あまり衝撃を与えないよう――」

と、幽姫が爆豪に指示を出そうとしたその時。

『――敵が姿を現し追撃を開始!現場のヒーロー候補生は敵を制圧しつつ、救助を続行してください』

離れたところからの爆発音、続いてアナウンスがあった。内容から、試験のシナリオがもう一段階進んだことがわかる。

「敵!?」「救護所の方だ!」

遠目に、救護所のすぐ近くの壁が壊れてぞろぞろと敵らしい姿が現れたのが見えた。
とはいえ、この工場群は救護所から最も遠い現場の一つで、ここから向かっても加勢するには時間がかかる。待機していた受験者が数人駆け出したのを見て、幽姫は咄嗟に彼の腕を掴んだ。

「テメッ……離せコラ!!」
「離したらあっち行くでしょ、爆豪くん」
「ったりめーだろうが!」

案の定、爆豪はその場を飛び出して行こうとしていたようだ。
幽姫は眉を寄せて、やめといた方がいいよ、とその行動を諌める。

「あっちはもっと相性の良い人が行くだろうから」
「どういう意味だ、俺じゃ役に立たねえってか!?」
「そ、んなこと言ってないでしょ?」

心底苛立たしげに睨んでくるので、幽姫でさえ一瞬怯んだ。さっきから思い通りにならずに待機していたのが、そんなにストレスだったのか。いや。

さきほど緑谷と何か言葉を交わした時もあった、どこか冷静さを欠いた空気を感じる。なにが彼の気にかかっているのか、幽姫にはよくわからなかった。
ただ、この状態ではなおさら、対敵の現場に向かわせるのは得策ではない。そもそも一対一の戦闘なら爆豪の領分だが、多くの救助者を守りつつ周囲と協力して制圧するというのは、また勝手の違う話だ。

「複数人の敵を抑えるなら、もっと大味な技を使う人の方が適役だってこと。轟くんとか」
「あァ!?半分野郎はよくて俺は駄目ってどういう了見だ!」
「そんな怒らないでよ!」

轟の名前を出したのは、明らかなミスだったと少し後悔。尚更煽ってしまったようで、幽姫は慌ててもう一方の手でも爆豪の腕を掴んだ。そうでもないと話し途中で行ってしまいそうな勢いだった。

「爆豪くんに出来ることがここにあるのに、どうしてすぐ目移りするの!?」
「ここに何があるってんだよ!」

爆豪は続けて叫ぶように怒鳴った。


「俺は、もう負けねえって証明してやる――!」


その言葉の真意がわからず、幽姫は一瞬目をみはった。もう負けないとは、一体何に対して――何を思い出して口をついたのだろう。
爆豪自身が、自分の叫んだ言葉に驚いたように一つ瞬きしている。それを見て、幽姫は爆豪を引き止めていた手を片方外した。

「……爆豪くん、大丈夫?」
「うっせえ。なんもねえよ」

思わず問いかけてしまったが、当然素直に何かが返ってくるわけもない。チッと鋭い舌打ちがあって、ようやく爆豪も少し落ち着きを取り戻したようだった。
気にはかかったが、もう試験も終盤に差し掛かり、時間的に余裕がない。幽姫は軽くため息をついて、切り替えることにした。

「三階の要救助者を保護してきて。ただの力任せじゃ建物が崩れるかも、でも扉が塞がれているからそれは除去してもらわないといけないの。爆豪くんなら、その辺りの加減も上手にできるでしょう?」

複数の敵を一度に制圧するには、爆豪の個性は向かない。代わりになんでも器用にこなす彼は、繊細なバランスが必要とされる救助現場でも大変重宝される実力があることを、幽姫は当然知っていた。
爆豪は未だ納得できない様子で、敵の現れた方を睨む。そちらはとうに応援が駆けつけたようで、遠目からもわかるほど激しい風と炎が上がっていた。

「……ナメんな。ヨユーだクソが」

爆豪が低い声でそう返したので、幽姫はやっと彼の腕を放した。
爆豪は一、二歩と離れてすぐ、両腕から一つ爆発を起こしてひらりと目的の建物の二階に降り立った。ゴローちゃんのフォローなどは特に必要なかったらしい。姿はすぐに見えなくなったが、あの様子なら救助はすぐに終わるだろう。
幽姫はもう一度ため息をこぼした。悪いこと、しちゃったかなぁ。

――理解しているつもりでも、全然わかっていなかったかもしれない。



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