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ガイスト・ガール - 62



ビリビリと空気さえ麻痺させるような電流だった。
上鳴の狙い撃つ放電が相手を捉えたとほぼ同時に、文字通り手も足も出なかったこちらのカウンターでようやく決着がついた。

「ありがとな上鳴!」
「遅んだよアホ面!!」
「ひでえな!!やっぱディスられても仕方ねえわおまえ!!」

切島を見習って少しぐらい感謝の意を表するべきである。他の三人が肉塊にされてしまったから、上鳴一人で相手の隙を作った。それに乗じたカウンターだったというのに。

「つーか後ろ!!丸くこねられたのは、おまえらだけじゃねえぞ!」

拘束が解け立ち上がったのはその場に転がっていた十数人のライバル達も同様だった。それを振り返った爆豪はいつも通りの好戦的な笑みを浮かべ、唇を舐める。
手も足も出ない状態じゃ、鬱憤が溜まって仕方なかったところだ。

「知ってんよ」
「ね〜、わかってたよねぇ」

ところが、一番に飛び出したのは、爆豪達三人をふわりと飛び越えた彼女だった。

「あっテメ……」
「暴れてる時間ないよ、早く終わらせよ」

言いながら、幽姫はゆっくりと腕を上げて――振り下ろした。
その瞬間、立ち上がりかけていた他の受験者達が再び地に伏した。

「ぐぅ!?」
「なっ、んだこれ!」
「動けねっ……」

爆豪達も一瞬何が起きたかわからなかったが、なんだすげえ!と声を上げる切島と上鳴とは別に、爆豪には思い出されることがあった。
見えない重さ、見えない力で押さえつけられる妙な感覚――神野のバーで、プロ達が乗り込んでくるまでのほんの数秒、その場の人間を全て抑え込んだあの力か。

「なんだよー霊現!そんな強力な拘束技あんなら最初から使えよ!」

上鳴の声で振り返って細められた瞳は、あの時とは異なり、得意げに笑っていた。

「えへへ〜……“霊体加圧ガイスト・プレス”、にゃーんてにゃ」

「……にゃーんて?」
「にゃ?」
「そっ……そこは無視していいから!」

格好つくかと思ったら。切島と上鳴が不思議そうに首を傾げ、幽姫は顔を真っ赤にして声をあげた。爆豪はそんな彼らを見てチッと舌打ちをした。結局、不完全燃焼のままで終わった。

なんだかんだあったが意外とあっさり合格条件を満たした四人は、ターゲットから聞こえる声の指示に従って控え室へ向かうことになった。解放した途端の乱戦に巻き込まれては面倒なので、その場を離れるまで幽姫の個性は継続している。

「必殺技ばっちりだなあ」

切島が感心したように言ったので、幽姫は苦笑を返しながらひょいと浮かんだ。

「ばっちりじゃないよ。気を抜いたらゴローちゃんに乗っ取られちゃうし……結局不安定なまま本番迎えちゃって」
「にゃーつったもんな」
「だからそれはいいでしょもう!」

一次選考を突破して安心したらしく、上鳴の声に先ほどまでの情けない色はなくなっていた。でもさ、と続ける。

「それはそれとして、スピード上がったよな?最初ボール投げた時も、相手の反応が速かったからアレだったけど、当たったかと思ったぜ」
「え、ほんと?」
「な、爆豪!」

上鳴の同意を求める声にはふんと鼻を鳴らしただけで答えない。が、否定しない事実を都合よく受け取ることにして、幽姫はやった、と手を叩いた。

「確かにここ最近、調子いいの。ゴローちゃんとの親和性、かなり高まってきてるかも」
「そういうのあんのな」

きっかけは言わずもがな、あの夜のことである。ゴローちゃんと幽姫の間で知らず知らずに生まれていたズレが修復された。
それまで上手くゴローちゃんの力を引き出せなかったり、逆に行き過ぎてあっさり身体を乗っ取られたりを繰り返していたが、あの一件以来、格段にコントロールが上手くなったのは明らかだった。

軌道に乗るのが少々遅かったせいもあって、必殺としての拘束技を完璧にマスターすることはできなかったが、先ほどのように時間をかけて――どうせ肉塊のままじゃできることも限られていたし――ゴローちゃんを降ろしていく分には、早々乗っ取られることもなくなった。

「なんて言うか、前まではゴローちゃんの力を借りてたって感じだったけど……最近は使ってるって感じもわかるようになってきたし」
「ほー……なんかよくわかんねえけど、みんな成長してるってことだな!」

切島がざっくりとまとめたので、幽姫はそうだね〜と笑っておいた。上鳴も課題としていた指向性の問題に対する解決策を見つけたようだし、元々センスのある爆豪も当然のように新技を存分に操っていたし――と、幽姫はちらりと爆豪に視線を向けて気がついた。

「“借り物”……」
「……爆豪くん、どうかした?」

何かボソリと呟いたように聞こえたが、はっきりとはわからなかった。眉を寄せて考え込むような表情の爆豪を見て、幽姫は首を傾げる。
その返事がある前に、上鳴があらっと何かを見つけたらしかった。

「オイねぇアレ、瀬呂たちじゃん!?」

別の方角から帰ってきたらしい、瀬呂の他に麗日と緑谷もいた。あちらも上鳴達に気がついて、やったあスッゲ、オーイ!と手を振っている。この分だと、クラスメイトも順調に一次選考を突破しているのかもしれない。
やったやったと喜びを露わにする四人をクスクス笑いながら見ていると、そんな彼らとはテンションがまるで違う会話が聞こえてきた。
一方は感情を押し込めたような嫌に落ち着いた低い声で、それに対するもう一方は困惑を見せる声。そして。

「――“借り物”……自分のモンになったかよ」

爆豪が最後に投げかけた言葉に対して、緑谷の返事は聞こえなかった。振り返って見ると、爆豪は一人でさっさと控え室に向かっていて、それを緑谷は呆然と見送るばかりだった。
不思議な幼馴染関係の二人の会話を盗み聞くような趣味はないが、一体なんの話があったのだろう。爆豪の背にはいつもの激情もないわりに、意外なほどと思わせる冷静さもなかった。

彼らの歪な関係に、幽姫の出る幕などありはしない。それは元々わかっていたことで、無駄に自分の心労を重ねるつもりも、彼の感情を引っ掻き回すつもりもない。
終止符が打たれるとすれば、それは幽姫とは関係のないどこかで起こるのだろう。

「爆豪くん、待って!ここまで来て一人で行くことないよ〜」

だから、気づかないふりをして追いかけることにした。隣に並んでへらりと笑うと、爆豪は横目でちらりと幽姫を見てまた前を向く。

「テメエらが鈍間なんだよ」

少なくとも、追いかけて、隣に並ぶ程度のことは許されている。何も言わずに見上げている程度のことは。
それも一つの信頼関係であって、少しくらいこちらも見て欲しいなんて、そんなワガママを言えるほど幽姫も無知ではなくなった。



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