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ガイスト・ガール - 61



「緑谷たちの方行っときゃ良かった!!」

上鳴の情けない声が、必要以上に状況の悪さを物語っているように感じてしまう。幽姫は小さくため息をついた。

「君たちが走ってっちゃうからさァ!!さびしくてついてきちゃったらさァ!!」
「じゃァ行けやカス」
「行けるワケねーだろ!!」

爆豪も多少イラッとした様子で低く唸ったが、上鳴はやはり情けない声を継続中。

「だって切島が、あんなんなっちゃったんだぞ!?」

なっちゃっているのは切島だけではないが。
都市内の高架を模した橋の上、広い道路の上にゴロゴロと転がっている肉塊は全て、ど真ん中で悠然と仁王立ちしている男の個性の被害者達に違いなかった。

会場の入り口で見かけた――若干一名ついて行けないテンションで絡んできた――関西の強豪校、士傑高校の生徒の一人だということはすぐにわかる。
校章のついた制帽に軍服のようなコスチュームを着た彼は、手にしていた切島の塊をポイとその場に投げ捨てた。

「――これは示威である」

つらつらと、まるで高尚な演説でもしているかのような口調で言う。

「就学時より責務と矜持を涵養する我々と、粗野で徒者のまま英雄を志す諸君との水準差」

嫌いなタイプだ、と爆豪が吐き捨てた。幽姫もつい眉を寄せる。
意識が高くていらっしゃるのは結構なことだが、試験中なのだからもっと単純に点数を取りに来られた方が幾分気持ちがいいというものだ。小難しい単語を並べて、嫌味っぽく非難されるのは好きになれない。

「何つったあの人!?頭に入ってこねー!」
「上鳴くんにはちょっと難しかったかなぁ」

幽姫が呟くと何気にひでえな!?とショックを受けたような顔をする上鳴。
そんな二人を横目に、爆豪がフンと鼻を鳴らして適当な台詞で相手を煽り始めた。

「目が細すぎて相手の実力見えませんだとよ」
「私の目は見目好く長大である!!」
「オイ!コンプレックスだったっぽいじゃん!やめなよそういうの!!」

雑な煽りだ。深々とため息をついた相手は、心底残念そうな声で続けた。

「雄英高校……私は尊敬している」

言いながら、彼の背後にずるりと何かが集まって形を作る。彼の個性で作られた、大きな五本の指先。
先ほど不意打ちに現れた時は、気付けば切島がやられていた。

「御校と伍する事に、誇りすら感じていたのだ。それを諸君らは品位を貶めてばかり……」
「さっきのまた来るぞ!!キモいやつ!!」
「うるせえ」

上鳴に言われるまでもなく、爆豪はすでに戦闘態勢である。幽姫も一歩後ろから、彼らの様子をじっと見ながら警戒を強める。

「責務?矜持ィ?ペラペラペラペラ……口じゃなくって、行動で示してくださいヨ先パイ!」
「特に貴様だよ!!爆豪!!!」

五本の指が襲いかかる。それを当然に予想していた爆豪が対策に遅れることはなく。バッと突き出した両の手のひらから、小さな爆発が連続していくつも飛び出した。

「新技の乱れ撃ち……名付けて徹甲弾機関銃!」
「つーかおまえ方々から同じような理由で嫌われてんな……」

指先の形をしていた肉塊が相打ちになり、欠片となって男の元へ戻っていく。
相殺されなかった爆発でバランスを崩したのを目敏く見計らって、幽姫がボールを三つ投げた。手を離れた時点から勢いをつけ、ボールは加速しながら彼の胸元、三つ縦に並んだターゲットに一直線で向かう。一瞬細い三白眼を見開いた表情にやったか、と思ったが当然そうは簡単でなく、収束途中の肉片がボールを受け止め、そのままずるりと包み込んで無力化してしまった。

「だめだった〜……」
「ちゃんとやれやボケ」
「厳しいなぁ」

ボールは男から離れて、ブルブル身を震わせるような仕草でまとわり付く肉片を振り払った。とはいえもう一度隙をつくには遅すぎたので、三つのボールは彼の周りをふわりと漂うのみだった。相手はちらりとその様子を確かめて、ふうと息をついた。
そして直後、一度戻った腕も、もう一方の腕も。先ほどと同様の指先を、今度は二倍の量で形成する。また同じような攻撃に入るのかと身構えた。

「私が手折り、気付かせよう。帰属する場に相応しい挙止、それが品位であると」
「何なんだこの人は!!」
「うるせえ奴だブッ殺す!」

未だ余裕ぶって講釈を垂れるのは気に障ったらしい。爆豪が一層苛立たしげに声をあげ、男に向かって駆け出した。

「だー待て!試験だぞ忘れんなよ!」
「上鳴くん、私達は援護!」

幽姫は言いながら、ベルトからふわりと浮かび出た十数本のナイフやフォークを放つ。爆豪の進む軌道の周りから、逃げ場を減らすような角度で向かうそれらを、相手は指先一つと引き換えに後退して避けた。
上鳴はまだ少し納得のいかない顔をしながら、腕の装備に弾倉を一つセットする。

「こんな戦闘、不毛すぎだろ!早いとこ切り上げっぞ!」

二発、撃たれたそれも軽々と避けられた。あっくそ、と残念そうに呟く上鳴を横目に、幽姫はもう一度宙に浮かぶままのボールを男に向かわせる。

「飛び道具か……目障りだ、先に丸めてやろうか」

冷静に呟かれた言葉とほぼ同時に、幽姫は足元でぞわりとする柔らかい感覚を味わった。

「俺を無視すんな!!」
「――してないが?」

指先の一つが、爆豪の背後から。そしてもう一つ、幽姫の足元から。

「さて……先ほど切島で見たであろう。その肉は――触れたら、終わりだ」

ボールは三つとも、標的に辿り着くことなく、力を失ったようにぽとりと地面に落ちた。




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