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ガイスト・ガール - 60



すっかり着慣れたコスチュームを身に着けると、いよいよ試験の開始が迫っていることがひしひしと感じられてしまう。
幽姫はふうと息をついて、腰のベルトに提げたカトラリーを確かめる。訓練中に度々曲がったり折れたりするものだから、先日パワーローダー先生のところに行って手先の器用なサポート科生を紹介してもらい、彼女に修繕してもらったばかりだった。ついでに素材を変えたからもっと軽量かつ丈夫になっているらしい。

あの彼に大口を叩いたからには、この試験で落ちることは許されない。思いながら、両手で拳を作って握りしめる。

「頑張ろうね、ゴローちゃん」

そう言うと、白い靄は幽姫にやる気に満ちた感情をぶつけて、ふわりと浮き上がって彼女の頭の上に乗った。

*  *

広々としたホールいっぱいに、受験者が集められ説明会が始まった。全国からヒーロー科生やヒーロー志望者が集まる試験とあって、かなりの人数にのぼる。

「ずばりこの場にいる受験者1540人一斉に、勝ち抜けの演習を行ってもらいます」

千五百人を超える受験者を前に、疲労感ダダ漏れの公安委員が、壇上から気だるげに説明を続ける。ヒーロー飽和社会となった昨今、またヒーローの在り方に対して様々な論が飛び交うここ数ヶ月の状況。
これからのヒーローはより迅速に、質の高い技術が求められる。

「よって試されるはスピード――条件達成者先着100名を通過とします」
「!?」
「待て待て1540人だぞ!?五割どころじゃねえぞ!!」

例年、仮免許取得試験の合格率は五割前後と聞いていた。それを大幅に下回る狭き門。
運がアレだったと思ってアレして下さい、とのこと。受験者皆に大小あれど動揺が走る。

受験者は一人三つのターゲットを取り付け、六つのボールが配布される。ボールの当たったターゲットが三つになった時点で失格、そして二人トドメを刺す形で失格にした時点で合格となる。ルール自体は比較的シンプル。

「じゃ、展開後ターゲットとボール配るんで。全員に行き渡ってから一分後にスタートとします」

そう言うや否や。ゴゴゴ、と鈍い音を立ててホールを形作っていた四方の壁がゆっくりと広がり始めた。高い天井も開き、やがてホールは完全に展開された。無駄に大掛かりな設備の外には、山であったり森であったり、はたまたビルの並ぶ都市であったり、様々な地形が準備されていた。広大な敷地の中、自分に都合のいい場所でスタートできるらしい。

開始までに作戦を立てる者が多いようで、周りが途端にざわめきだす。幽姫達A組の中でも、率先して発言したのは緑谷であった。

「先着で合格なら、同校で潰し合いはない……むしろ手の内を知った仲でチームアップが勝ち筋……!」

もとより、今回のライバルは他校の上級生が殆どである。一年で受験に来た雄英生は経験が足りていない分、力を合わせて合格を目指すのがベストなのは確かだろう。

「みんな!あまり離れず、一かたまりで動こう!」
「フザけろ!遠足じゃねえんだよ」

――言うと思った〜。

誰に言われても同じなのだろうが、言い出したのが緑谷であることが更に確証を持たせていたのだ。
爆豪は緑谷の提案に乗り協力して動くつもりはないらしい。たったか走っていくのは予想していたので、幽姫にとっては笑って流せる程度のことだった。案の定、ゴローちゃんも彼のすぐ後ろにぴたりとついて行ってしまう。

「おい幽霊女さっさと来い!」
「はあい」
「バッカ、待て待て!」

こちらが動き出す前に爆豪の方から呼んでくれたのは、意外と信頼されているようで嬉しくはあった。元々そのつもりだったけれど。
幽姫まで素直に爆豪についていくものだから、後ろから慌てて切島の制止の声が追ってきた。

「お前らってホント……勝手だよなぁ」
「あれ、上鳴くんも来るの?」
「来ちゃ悪いかよ!」
「そんな事言ってないよ〜」

緑谷が言っていたように、だいたいの相手はチームを組んでくるのだろうから、人手は多いに越したことはない。上鳴や切島なら、普段爆豪とも気兼ねなく付き合っている相手だから下手な仲間割れとかいう事態にもならないだろうし。
幽姫はうんと一つ頷いて、にっこり笑った。

「切島くんや上鳴くんが居てくれると、心強いよ。ね、爆豪くん」
「あ?知るか。変わんねえわ」

二人ぶっ倒しゃいいんだろ、と余裕ありげに言うのは相変わらずだ。彼に関して言えば、試験に対する緊張とか不安とか、取るに足りないものなのかもしれない。むしろ、そういった枷を力にできるタイプだということは知っている。

そして、彼がそうやって前を向いているのを見ているだけで、幽姫もゴローちゃんもなんとなく嬉しくなって、不思議と気が楽になってくることにももう慣れてしまった。



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