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ガイスト・ガール - 59



仮免許取得試験まで、一週間を切った。入浴時間も終えあとは寝るだけという時間、クラスの女子がなんとなく寮の談話室で集まる習慣に幽姫はまだ慣れていなかった。
長いソファの左端に座っていると、斜向かいの芦戸と耳郎が一日の疲れを含んだ声で言う。

「フヘエエ毎日大変だァ……」
「圧縮訓練の名は伊達じゃないね」

その疲労感は当然共感できる。幽姫は苦笑し、八百万は冷静にあと一週間もないですわ、と現状を振り返る。

「ヤオモモは必殺技どう?」
「うーん。やりたいことはあるのですが」

今の所は個性を伸ばしておく方が必要だとのこと。葉隠は続いて蛙吹にも同じ質問を投げかける。こちらは順調に進んでいるようで、透ちゃんもびっくりよ、と気になる言葉をさらりと残した。

「お茶子ちゃんは?」
「……」

しかし次の相手である麗日は、パックの牛乳を吸うストローをくわえたまま、ぼーっとして反応を見せなかった。不思議に思って覗き込む周りにも気づいていないようだ。
蛙吹がもう一度、名前を呼んで肩をツンとつついてみた。

「お茶子ちゃん?」
「うひゃん!!」
「わっ」

つつかれたのには過剰に反応して大げさに身を跳ねさせる麗日に、蛙吹とは逆隣に座っていた幽姫まで驚かされた。

「お疲れの様ね」
「いやいやいや!!疲れてなんかいられへん、まだまだこっから!」

蛙吹の言葉に慌てて首を振るも、やはり何か引っかかっている様子で、麗日は眉を下げて続けた。

「……のハズなんだけど……何だろうねぇ。最近ムダに心がザワつくんが多くてね」

そんな麗日のふくふくした頬が少し赤みを帯びているのを見て、幽姫はパチリと瞬きした。

「恋だ」
「ギョ」

無遠慮な芦戸からバンと提示された単語に、麗日は明らかに真っ赤になって焦りを見せた。

「な、何!?故意!?知らん知らん!!」
「緑谷か飯田!?一緒にいること多いよねぇ!」
「チャウワチャウワ!!」

容赦ない追求にもどんどん慌てて、ついには逃げるかのようにふわりと自身を天井近くまで浮き上がらせた。以前はすぐ顔を青くしていた技だが、特訓の成果か安定してきたらしい。
麗日の手から落ちた牛乳パックを何気なく拾いつつ、幽姫も麗日を見上げていた。

「誰ー!?どっち!?誰なのー!?」
「ゲロッちまいな?自白した方が罪軽くなるんだよ!」

女子特有の連携を見せ始め、下からヤイヤイとはやし立てる声に麗日はますます慌てる。

「違うよ本当に!私そういうの本当……わからんし……」
「無理に詮索するのは良くないわ」
「ええ。それより明日も早いですし、もうオヤスミしましょう」
「ええー!!やだもっと聞きたいー!!何でもない話でも強引に恋愛に結び付けたい――!!」

比較的大人な考え方の蛙吹と八百万の助けもあって、麗日へのそれ以上の追求は許されなかった。
芦戸は残念そうに声をあげて、それなら!と今度は幽姫の方を見てくるので嫌な予感。

「霊現はどうなのかな!?その後!?」
「どの後のことを言ってるのかわからないけど、ノーコメントです」
「ええ――!!」

ぴしゃりと断ると、芦戸はあからさまに肩を落とした。前問い詰めた時は真っ赤になってて可愛かったのに、なんて余計なお世話である。

八百万がまず席を立ち、なんとなくこの場はお開きとなった。ちぇーっとつまらなさそうな芦戸もその場を離れたので、やっと麗日が降りて来た。
はあーっと深いため息をつく彼女に、幽姫はくすくす笑いながら手に持っていたパックを差し出す。

「あっごめんねぇありがとう」
「ううん。災難だったね〜」

幽姫が言うと、麗日はまだ赤い頬をかいて困ったように小さく笑った。
あながち、芦戸は強引に結び付けたというわけでもないのだろう。幽姫にはほぼ確信としてわかったが、別段深く聞く気もない。自分のされて困ってしまうことを強要することはない。

しかし皆に倣って部屋に戻ろうとした幽姫を引き止めたのは、麗日の方だった。

「あ、あの〜霊現さん」
「ん、なあに?」
「……霊現さんは、恋とかって、わかってるのかなぁ〜〜……とか……」

気まずげに目を逸らしながら、麗日は曖昧な言葉でそう問うた。
幽姫はパチリと瞬きしてから少し考えて、素直に返すことにした。

「……私もよくわかんないかなぁ」
「そ、そうなんだ」
「うん……でも、まあ、恋とかはわからないけどね」

麗日は不思議そうに幽姫に目を戻した。依然赤いままの彼女の顔は、芦戸の言う"前"の幽姫も似たようなものだったんだろう。そう思うと、なんだか、目の前の少女に妙な親近感を抱いた。

幽姫はゆっくり答えた。

「自分がしたいことは、なんとなくわかったから、それでいいかなって」

麗日は大きな丸い目を、さらに見開いて幽姫の笑顔を見た。



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