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ガイスト・ガール - 52



男子更衣室から出た爆豪は、同じタイミングで隣の女子更衣室から出てきた幽姫と鉢合わせた。
彼女は一瞬驚いたように瞬きをして、ぱっと顔を明るくした。なんとなく嬉しそうに見えて、爆豪は少し気分が好転しかけたのだけれど。

「おい――」
「あっ、もう……!爆豪くん、また明日!」
「は、待……」

しかし嬉しそうに笑った幽姫はすぐ、慌てた風に顔を背けた。どこかへ行ってしまう何かを追うように、一方的に別れを告げると人のいない廊下をパタパタとかけていく。

思わず呼び止めかけたのは無意識で、少しだけ持ち上がった右手も無意識である。

「爆豪?また霊現に避けられたのかよ」
「お前まじなんかしたんじゃね?」
「――うぅるっせえわ!!外野は黙ってろ殺すぞ!!」

一瞬上向きかけた気分も、転じて一気に悪化する。
更衣室から顔を出した切島と上鳴に右手の爆発で威嚇すると、おーこわっと腹立たしい反応でいそいそと室内に戻りやがった。

また、避けられてる。切島の言葉通り、幽姫はこのところ爆豪とほとんど接触していなかった。
あからさまなのは昼の休憩時間のことで、初日になぜかゴローちゃんによって引き離された彼女は、それ以降爆豪達と一緒になることはなかった。代わりに女子のグループの中に紛れ込んでいる。
一学期の間、ほとんど毎日彼らと食堂に行っていたのにだ。今日なんかは切島が誘いにさえ行ったというのに、困った顔で断られたらしい。
爆豪が機嫌悪くするからこっちも困るよな、というのでそんなわけねえだろ関係ねえわと爆豪は怒鳴ったが。

避けられるような何かに心当たりはない。登校日になって初日からのことなのだから、きっかけはおそらく――思い出したくもないが、神野の事件に関する何かだろう。

――というか、避けているのは幽姫なのだろうか?

先ほどの嬉しそうな顔からしても、やはり爆豪は思い直す。
初日のことだって、教室に現れて久しぶりに視線の合った幽姫はいつも通りの笑顔を浮かべてみせた。昼休みだって、ゴローちゃんが行動に出なければそのまま、いつも通り。

つまり、この問題の所在は――幽姫ではない。

*  *

「――そこまでだA組!!」

運動場γの扉がバァン!と開き、ぞろぞろとB組の面々が入ってきた。

「今日は午後から我々がTDLを使わせてもらう予定だ!イレイザーさっさと退くがいい」
「まだ十分弱ある」

ブラドキング先生も結構ライバル視してくるよな――と、A組の生徒数人は心の中で呟いた。B組にも厄介な奴がいるが、担任に似たのだろうか。

「ねえ知ってる!?仮免試験って半数が落ちるんだって!A組全員落ちてよ!!」

やっぱり元々の性格か。ストレートな物言いが相変わらずの物間である。

ただし、仮免試験の受験会場は各地にあるので、A組とB組の受験場所は別となっているらしく直接やりあうことはないようだ。
半数が落ちる試験に、同校の生徒を投入してわざわざ潰し合わせる意味はない。仮免試験でのライバルは、つまりB組や他の雄英生ではなく、自分達よりも経験を積んでいると思われる他校の生徒達だ。改めて、カリキュラムを前倒しにした試験の過酷さというのを再認識させられてしまう。

なんて話をしていれば結局残りの十分弱は過ぎ去った。早く早くと急かしてくるB組勢のおかげで、A組は訓練を中断してTDLを出ざるを得なくなったわけだ。

「あっ、霊現!」
「……ああ」

声を上げたのはB組の拳藤だった。セメントスによって高く造られた位置のフィールドから、個性を使ってふわりと降り立った幽姫を見て、ぱっと笑顔を見せる。
そんな拳藤に、幽姫はしばし黙ってから反応を返した。

「久しぶり!めっちゃ心配してたよー、まあ訓練に出てるのはちょこちょこ見かけたんだけどさ」
「うん。そう?」

親しげに話しかけてくる拳藤に、幽姫は首を傾げながらそっけない言葉で答えた。表情もほとんど無表情である。

あれ?と拳藤も首を傾げる。前に会った時は、合宿の時もそうだが、もう少し親しい感じだった気がするけども。

「えーっと、元気そう……元気だよね?」
「うん」
「……なに、君なんか今日変?」

怪訝な顔をした物間がつい横から口を出す。その物間に相変わらず変わらない顔を向けて、あっさり答える。

「物間くんよりは、マシ」
「はあ!?」
「変なかっこ」

どっかの売れないマジシャンみたいな、若干メルヘンチックな燕尾服型のコスチュームをジロリと見て、一言失礼すぎる感想である。
物間はさらにイラッと眉をひそめる。

「なんっだよ!相変わらず変な奴だね!もういいよ拳藤、通常運転みたいだ!」
「えっ?イヤイヤ……」
「霊現早くー!昼ご飯作りに行こー!」
「あ」
「ちょっ、霊現〜?」

物間は完全にキレたらしいが、やはり気のいい奴である拳藤はどうも放っておけない気がした。だってやっぱり、幽姫は単純な良い子ではなくても悪い子でもないはずなのだ。
しかしそんな拳藤の心配も余所に、幽姫はといえば、扉のところで手を振って待っているA組の女子達の声にピクリと反応して、挨拶もなしにひょいと目の前の拳藤を飛び越えて行ってしまった。一応名前を呼んでみたが、振り返りもしないで運動場を出て行った。

「やっぱ様子おかしかったって……」
「考えすぎでしょ。ほら、A組の他の女子は気にしてない風だったじゃん」
「イヤイヤ……あっ、ちょっと爆豪」

眉を寄せて考え込む拳藤の隣を、ちょうど切島と共にすれ違おうとした爆豪を呼び止めてみた。
彼自身はムッと顔をしかめただけで無視しようとしたらしい。しかし隣にいた良い奴切島が立ち止まって、どうした?と答える姿勢を見せたので不本意そうに足を止めた。

「霊現、なんかあった?様子がおかし――」
「あァ!?知るかよンなこと!」

しかし幽姫の名を出した途端に思いっきり不機嫌に目を釣り上げ、おお……と若干引き気味の拳藤と切島を置いて苛立たしげな足取りで去って行ってしまった。全くもってコミュニケーション能力の欠けた男である。

「荒れてんな……」
「いや〜スマン……最近、爆豪の前で霊現の話題出すといっつもああでさ」
「ん?そうなの」
「避けられてんだよな。霊現の様子おかしいとか、普通に知らないんじゃね?」

情緒不安定な爆ギレ男かと一瞬思ったが、それはそれでちょっとした事情があるようだ。
ちゃんとフォローして、ごめんなぁと悪くもないのに謝罪して、切島も爆豪の後を追って出て行った。

「あいつは良い奴だな」
「拳藤……A組の奴らなんかほっとけば良いのに」
「物間はその性格直した方がいいぞー。っていうか、霊現、避けてるってなんでだろう……」

大事な人だと飛び出して行った背中を思い出しながら、うーんと首を捻る拳藤も相当な良い奴である。



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