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ガイスト・ガール - 50



※校内の配置等について、適当に描写しています。原作と矛盾がありましたら申し訳ございません。

夏休みの終わりに、ヒーロー仮免許の取得試験が行われる。
合格率五割を切るその試験に向けて、ヒーロー科一年は集中的に特訓を行うという。

「そこで今日から、君らには一人最低でも二つ――必殺技を作ってもらう!」
『学校っぽくてそれでいてヒーローっぽいのキタァア!!』

生徒達は目を輝かせた。

*  *

運動場γ、通称『トレーニングの台所ランド』。略してTDLはかなり危険なネーミングである。
コンクリートを変幻自在に形作るセメントスの個性によって、各自に合った地形で戦闘技術の向上に努める。

午後零時を過ぎた頃、休憩だと訓練は中断された。
なかなか必殺技のアイデアが出ない者もいれば、既に方向性を固めて午後から早速技の完成に向けて特訓に入る者もいるようだった。
爆豪はもちろん後者である。対戦相手としてそれぞれに配置されるエクトプラズムも既に二体吹っ飛ばしていた。

食堂は夏季休業中。体育館の裏手は広い木陰ができていて、生徒達はコンビニで買ってきた昼食や寮の台所で作ってきた弁当を持って散らばっていた。
相澤に催促されるまで訓練を続行していた爆豪も、やっとガサガサ鳴るコンビニの袋を持って外に出た。辺りを少し見渡すと目的の相手は既に、切島や瀬呂達と向かい合って芝生の上に座り込んでいた。

爆豪に気づいたのは切島が早く、爆豪おせーぞ!と手を振ってきた。どうも爆豪が来るまで弁当には手をつけていないらしい。

「爆豪すげー調子いいな、今日!」
「俺はいつでも調子いいわ」
「すごい爆発だったね〜」

幽姫が爆豪を見上げてへらりと笑った。そんなこと見ている暇があるなら自分の特訓に専念しろ、と爆豪はちらりと思った。
ふん、と鼻を鳴らして幽姫の隣に胡座をかいて座る。幽姫はそんな爆豪にくすりと笑い、膝の上に置いていた弁当箱のフタを開けようとして――あっと声を上げた。

「ちょっとゴローちゃん、どこ行くの?」

言いながら立ち上がり、弁当箱を地面においてぱたぱたとその場を離れていった。いつも通りだなぁと切島が笑う。
爆豪はコンビニ弁当に付属する割り箸をぱきりと割りながら、幽姫がどんどん離れていくのを見ていた。

しばらくゴローちゃん――がいるのだろう地面――を見下ろして話していた幽姫だが、やがて困ったような顔をして爆豪達のところに戻ってきた。

「ごめん、私向こうで食べるね」
「えっなんで」

瀬呂が目を瞬いて問いかけたが、幽姫は苦笑して見せるだけで答えなかった。弁当箱を拾い、芝生の端の方に座り込んで、一人でそれを食べ始めた。
怪訝そうにしながら、まあ不思議ちゃんだしな、と切島も瀬呂もあまり気にしなかったらしい。
爆豪はといえば、時々隣を見て困った顔をする、幽姫をじとりと見つめた。

ゴローちゃんと話でもしているのだろうか、気に入らねえな――こっちはまだ、何も言えちゃいないっていうのに。

*  *

二日目の訓練を終え、爆豪は寮に戻っていた。監督の教員達はこれから会議だそうで、昨日より幾分早めに切り上げられた。
夕飯の前に、荷物を部屋に置いてランニングにでも行こうか――雄英の敷地は広いので、外出許可を得なくても自由にトレーニングに出られる。神野の一件で、爆豪と幽姫は特に厳重に一人での外出が制限されている。

ふと廊下の窓に目をやる。気にしたことはなかったが、確かここから――やはり、勝手口が少し離れた場所に見える。
門の前で幽姫が一人立っていた。スマホを片手に、どこか所在なさげにしている。親の迎えを待っているのだ。昨日より早くに終わってしまったから、遅れているんだろう。

爆豪はしばし足を止めてから、ジャージのポケットに突っ込んでいたスマホを取り出した。
メッセージアプリを開いて打ち込みながら、窓際に歩み寄る。

『左見ろ』
返事はすぐに返ってきた。
『なに?急に』

勝手口のところで、片手に持っていたスマホを見てから幽姫が辺りをきょろきょろしているのがわかる。

『左、建物あんだろ』
『校舎?』

幽姫が一瞬こちらを見上げた。爆豪の言う建物はきちんとわかっているらしい。しかしすぐに視線を外してまたスマホに目をやった。

『俺らの寮』
『あ、そうなの』
『窓んとこにいんだけど』

少し迷って、そう送ってみた。すると幽姫はもう一度寮の方を見上げてくる。少しして、スマホが震えた。
彼女が口元に手を当てている仕草が、遠目に辛うじて見えた。

『珍しいね。そんなことで連絡してくるの』

文面は大したことがないが、どうやら見えない表情は笑っているらしい。腹立つ。爆豪はむっと眉を寄せた。
もう一度、幽姫からメッセージが送られてくる。

『何階?』
『4階』

すると幽姫がゆっくり寮を見上げた。ご丁寧に、人差し指で階数を数えて。

『見えたかも。爆豪くん目いいね』
『普通だアホ』

かも、と言うあたり人影は見えても誰かは判別出来ていないようだ。メガネでもかけろと思ったが、それだと飯田と被るのでやっぱりいらないな。

『迎えまだ来ねえの』
『もうすぐ来るはず』
『あっそ』
『聞いてきたくせに、興味なさげだね』

続いて、怒ったようなマークを飛ばすクマみたいなウサギみたいなキャラクターのスタンプが来た。そんなに怒ってないらしい。遠目に見る仕草は依然笑ったままだ。

『寮どんな感じなの?楽しい?』
『フツー』
『そっかあ』

爆豪は少し迷った。相手も特に話題が思いつかないようで、トークが進まないまま時計の数字が二つほど進む。窓の外の幽姫を見ると、スマホはまだ仕舞っていない。

なんで俺が気ィ遣わなきゃいけねーんだよ。結局そう結論づけて、爆豪はメッセージを打ち込んだ。

『寮入んねーの、お前』

またしばらくトークが止まる。
外を見ていれば、幽姫が両手でスマホを持って画面を見ているのがわかる。しかし返事は来ない。

と、勝手口の門の側に一台の乗用車が止まった。幽姫がスマホを下ろして駆け寄っていく。助手席に乗り込み、ドアが閉まる。そのまま車は滑るように雄英高校を後にした。

『お迎え来た。お疲れ様、また明日ね』

無視かよ、もう話すことはないとばかりだ、腹立つ――爆豪は思ったが、ふんと鼻を鳴らしてスマホをポケットに突っ込んだ。
別にどんな答えを期待したわけでもない。幽姫の生活サイクルなど、別に爆豪には関係ない話だ。

ただ、確実に、今の状況が非効率的だっていうことは、幽姫自身もわかっているだろう。これが続けば他のクラスメイトに遅れを取ることも。
もっと頑張るね、と、以前確かに言っていたくせに。



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