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ガイスト・ガール - 03



「……おかしい」
「何が?核兵器はこの先の部屋なんだろ?」

ピタリと足を止めた耳郎を不思議そうに見ながら、上鳴電気は首を傾げた。
最初に壁から振動して聞こえる声と何かの作業音がした場所は、確かにこの階の一室だったはず。途中何度か確かめて進んできたが、やはり何かおかしい。

「……核兵器があるはずの部屋から、物音がしない」
「あれじゃね?バレるのを警戒してるとか」
「それだけじゃないよ……今、足音が三つ、別の場所に集まってる」
「なに?」

壁からプラグを抜いて、するすると収納しながら耳郎が言った言葉。それからすると、この先の一室には核兵器はなく、訓練終了時間に近づいた今、本当の隠し場所に三人の敵チームが集合したということか。

「じゃあ、この先の部屋は罠か?」
「かもしれないね……私達が音を聞いて隠し場所を特定しようとすること、読んでいたんだ」

相手チームには、あの鋭い分析力を持つ八百万がいる。耳郎の個性を利用して罠を仕掛けた部屋に誘導させることを、訓練開始からすでに計画していたのではないか。ここにきて、やっと気づくとは。

「まんまと嵌められるところだったな、あぶねえ……よし、早く本当の隠し場所に向かおうぜ!もう残り時間も少ない」
「そうだね。もう一階下の奥だった、急ご」

足早に廊下を進み、階段を降りて奥に向かった。三対二では分は悪いが、上鳴の持つ電気系の個性は強力だ。それに耳郎の個性ならリーチが取れる。こちらが罠にかかっていると高を括って油断していれば、もっと勝率は高くなるだろう――などと計算していた耳郎は、時間に追われて初歩的なミスに気づかなかった。

「上鳴、そこ曲がった先!」
「よっしゃ!――って、おい行き止まりだぞ」

ついに胸熱のバトル展開に――と高揚していた気分がさっと冷めた。上鳴と耳郎が曲がった先は、非常用の小窓があるだけの、廊下の行き止まりだったのだ。

――しまった、見取り図には、こんな場所に部屋なんてなかった!

二人がやっとミスに気づいた時、コツコツ、と軽快な足音がした。三つ分。これこそ、耳郎が敵チームの三人だと勘違いした元凶。

行き止まりの小窓の下に並んで、こちらにつま先を向ける三つのブーツ。持ち主のいないそれらがバラバラに、踊るように飛び跳ねる光景は、薄暗い廊下という場所と相まって不気味さを感じる。

「――かかりましたわね!」

喜色がかった声が後ろで上がったと同時に、ガシャアンッと金属のぶつかる音がして、耳郎と上鳴は振り向いた。
廊下の天井から地面まで、高い鉄格子を展開させたのは紛れもなく得意げに笑う八百万の個性だ。その隣でニコニコとご機嫌に笑っているもう一人こそ、あの不気味なブーツの集団を操る主。

「――ふふ、みんなブーツを履くのが久々で楽しいって言ってるよ」

みんなって、つまり。
上鳴と耳郎はゾッとして、思わずゆっくり首を振り向かせた。小窓の下で飛び跳ねるブーツは確かに楽しそうだ。さながら、新しい靴を買ってもらった子どもが喜んで跳ね回っているように。

コツッ、コツッ、コツッ……コツコツコツコツコツ!
『なんかこっち来たんだけど!』
「楽しいから遊びたいみたい」
『ちょ、待って!こっから出して――!』

――タイムアップ!敵チーム、ウィン!

軽快に駆け寄って来たブーツを履いた幽霊集団に、上鳴と耳郎が悲鳴じみた声をあげたと同時だった。



『霊界にでも連れて行かれるかと思った……』
「やだ〜、そんな力持った幽霊なんていないよ」

どうだか――上鳴と耳郎の二人は、へらへら笑う幽姫をじとりと見やる。

初めての戦闘訓練を終えた1-Aの面々は、未だ冷めやらぬ実践演習の昂りをもって、教室であーだこーだと訓練の反省会を行なっていた。ラストで幽姫に悲鳴を上げさせられた二人はその時のことを思い出して、表情を曇らせた。

「八百万さんがブーツ作れてよかった〜。色々と道具もらったけど、あんまり使えなかったの」
「ああ、あれ……なんかじゃらじゃらしてるよね、あんたのコスチューム」

耳郎が思い出して呟く。被服控除のシステムで、各自オーダーメイドのコスチュームが与えられた。
幽姫のものは個性に似合った真っ黒な衣装だが、腰にかかった二本のベルトと二つのポーチには所狭しと細々した道具を提げている。今回は一つも活躍させなかった代わりに、八百万の創造した三足のブーツを利用した。

「幽霊が操れるような軽い小道具がたくさんあったら、それだけ応用効くもの。靴も用意できたら使えそうだなって今日思ったよ。でもポーチに入らないしねぇ」
「つーか、フォークとナイフばっかりあんなぶら下げる必要なくね?」

上鳴は初見から気になっていた点についてぼやいた。一本のベルトにずらっと並んだシルバーは、違和感と物々しさであまり女の子らしさを感じない――しかし幽姫はにこにこ笑ったまま当然のように答えた。

「だってポルターガイストって言ったら、フォークとナイフでしょ?」
「……あんた、不思議ちゃんって言われない?」
「ん〜、言われたことあるかも〜」

耳郎の言葉に呑気に返した幽姫だったが、その時がたっと椅子を引く音を聞いて目を向けた。

「あれ、爆豪帰んのか?」
「緑谷戻って来てねーよ?反省会しねーの」

切島や瀬呂が引き止めるように声をかけたが、まるで無視を決め込んで、爆豪は無言で教室を出て行ってしまった。

「ありゃ、負けたの気にしてんな」
「負けず嫌いっぽいもんね。いーの?ほっといて」
「なんで?」

耳郎の疑問に対して、幽姫はきょとんと首を傾げた。

「いや、だって朝からずっと爆豪にひっついてたじゃん」
「そーだそーだ、リア充め」
「私じゃないよ〜、ゴローちゃんが爆豪くんを気に入ってるの。八百万さんにも同じこと言われちゃったけど」

本日二度目の答えを返すと、耳郎は何それ、と呆れたように呟き、上鳴はといえばパッと表情を明るくさせた。

「じゃあ霊現ってフリー?今度どっか遊びにいこーぜ!」
「えー、行かないよ、やだなぁ」
「やだなぁって……」

柔らかい笑顔でハッキリと断られ、上鳴には心の軋む音が聞こえた。
傷心した上鳴はそのまま麗日の手伝いで教室を出て行った。彼のことだから、戻ってくる頃には麗日にデートの誘いをしているくらいには回復するだろう。

「じゃあそのゴローちゃん?は、どうなん?爆豪のとこ行ってないの」
「うん、ここにいるよ」
「あ、そう」

幽姫が相変わらず何もない場所を指すので、耳郎は気にしないことにした。見えないものは見えないのだから、霊界には連れて行かないと言うし、放っておくのが互いに最善だ。

「ゴローちゃんは空気の読める賢い子だからね〜」
「ふーん?まあ、話しかけづらい感じあるよね、普通に」

午前中のやりとりも中々ハードルの高い感じだったけど……その点何も臆さず声をかけていたあたりからして、耳郎としてはやはりまだ幽姫がよく理解できない。



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