×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -




ガイスト・ガール - 43



一番に気づいたのは拳藤だった。

「ちょっとさ……さっきから、微妙にこげ臭くない?」

彼女の隣で座り込んでいた幽姫も言われてすんと鼻を鳴らすと、確かに何かが燃えているようなにおいが鼻についた。
視界が白い煙で霞んで見えるのもそのせいだろうか。山火事?

「あー?そういえば……急に煙っぽいのが……」
「でも……これは……」

ものが燃えて上がるような煙とは違うような――そう考えた時、霞む視界と意識がぐらりと揺らいだように感じた。

「――骨抜!?」

拳藤があげた声ですぐに意識は回復した。幽姫がハッとして立ち上がると同時に、拳藤もこの煙が自然のものでないとわかったようだった。

「唯、霊現!吸っちゃダメ!!」
「ん!?」「わっ」

ガバッと大きな掌が幽姫と小大をまとめて覆った。そうして周囲の人間を少しでも、白い煙から逃がそうと。

「この煙――有毒!!」

*  *

『――皆!!敵二名襲来!!他にも複数いる可能性アリ!動ける者は直ちに施設へ!会敵しても決して交戦せず、撤退を!!』

マンダレイのテレパシーからして、出発地点にも敵が現れたということだろう。
敵の一団の襲撃、まるでUSJの時を彷彿とさせる。拳藤の掌の中でじっと目を閉じていると、あの時と同じような暗い感情と記憶が時々流れてきた。頭痛を起こすほどではないけれど、それは個性を使い続ける訓練を行った成果ではないかと思える。

その見知らぬ霊体達の恨み言は、USJを襲ってきたチンピラどもが連れていたものと比べるべくもなく、恨み怨む殺意の塊――今ここに現れた敵が、あの時よりよっぽど恐ろしい存在らしいことが伝わってくるような。

そんな中で、いつもの慣れた気配がやっと現れた。
目を開けても視界は拳藤に遮られたままだが、その向こうに索敵を頼んだゴローちゃんが戻ってきたはずだ。

「拳藤!!」
「鉄哲、茨!!」

ちょうどそのタイミングで、幽姫達を運んでいた拳藤が足を止めた。
別の場所に待機していた鉄哲が、八百万の創造った毒ガス対策のマスクを持ってきてくれたらしい。やっと視界が開ける。
拳藤の手の中から飛び降りて、幽姫もガスマスクを装着した。

「早く施設へ戻ろう。敵がどこにいるかもわからないし、危ない――」
「いや!」

拳藤の正当な提案を、鉄哲は即座に拒否した。

「俺は戦う。塩崎や小大の保護、頼む」
「は!?交戦はダメだって……!」
「お前はいつも物間を窘めるが……心のどこかで、感じてなかったか!?A組との差」

鉄哲は言いながら、ちらりと幽姫のことを見やった。少し驚きながらもそれをじっと見返すと、鉄哲はその三白眼をきゅっと細めた。

「俺ァ感じてたよ!同じ試験で雄英入って、同じカリキュラム……何が違う?明白だ!」

抱えていた塩崎をそっと地面に横たえて、鉄哲は立ち上がった。

「奴らにあって俺達になかったもの……ピンチだ!!奴らはそいつをチャンスに変えていったんだ、当然だ!人に仇なす連中に、ヒーローがどうして背を向けられる!?」

立ち込める白い毒ガスを睨みつけ、鉄哲は他の者達を背にして、銀色の拳を握りしめた。

「止めるな拳藤!一年B組ヒーロー科、ここで立たねばいつ立てる!?」

見つけ出して、俺が必ずぶっ叩く!!――そう言い切った彼は、迷いなく毒ガスに向かって駆け出した。

「……!鉄哲!」
「拳藤さん、私も行くね」
「霊現!?あんたまで……!」

ガスマスクがあれば、しばらくは大丈夫だろう。
こちらも個性的なB組の委員長、責任感の強い拳藤のことだ。ガスに巻かれて意識のない塩崎と骨抜を、置いて行くことはできない。しかし、おそらく無策で飛び出した鉄哲を無視することも。

「私、敵の位置わかるの」
「え!?」
「さっき拳藤さんに運んでもらっている間に、ゴローちゃんに索敵頼んでた。鉄哲くんを誘導することも、逆に敵と鉢合わせるのを避けることもできると思う。無策でこの中歩き回るよりは確実でしょ」

そう言うと、拳藤は見開いていた瞳に力を込めた。ぐっと眉を寄せて、ぱっと小大を振り向いた。

「唯!茨と骨抜のこと、頼んだ!」
「えっ、拳藤さん?」

幽姫は予想していたのと真逆の彼女の行動に、思わず声をあげた。対して小大は一瞬驚いた様子を見せたが、すぐに大きく頷いて拳藤の意を汲んだ。

「よし!行こう、霊現!――ほっとけないよ、私だって!」
「……そう」

一人で飛び出していった鉄哲のことか、それともクラスメイトを襲ったまだ見ぬ敵のことか……あるいはB組のプライドのことか。
しかし拳藤の強い瞳を見て、幽姫はこくりと頷き、鉄哲を追って二人揃って毒ガスの海に飛び込んだ。



前<<>>次

[45/74]

>>Geist/Girl
>>Top