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ガイスト・ガール - 42



合宿三日目も、朝から個性強化の訓練に明け暮れていればあっという間に過ぎてしまうというもので。
すっかりあたりも暗くなったその夜。雄英高校ヒーロー科一年の面々は、プッシーキャッツ所有の森の中でお楽しみイベントと相成った。


どうやらくじ運がなかったらしい爆豪は、結局二番手で轟と共に森に足を踏み入れることになった。全くもって不愉快である、なんでこんな舐めプ野郎とペアなんだよ。

しばらく進んだところで、ひゅうっと細い音の風が足元をくすぐった。夏の蒸し暑い夜にも関わらず、やたらに冷たい温度に違和感を感じる。隣を歩く轟も不思議そうに足元を見下ろしていた。

「B組の誰かの個性か?」

知るかんなこと――会話するのも気に入らないので、爆豪は黙ったままでいた。

冷気を放つ個性か、風を吹かせる個性か、そんなところだろう。この超常社会、不思議なことの大体は個性で説明がつくのだから、『肝試し』なんて意味があるとは思えない。
そりゃあ、幽霊っつー存在がある、ということ自体は、爆豪も一応認めてはいるが。

冷たい風はひゅうひゅう吹き続けていて、その正体を気にする轟と爆豪の視線はつい下に落ちていた。
だから、さらさらと何か軽いものが擦れ合う音を聞いてやっと、二人は視線を上げて周りを囲んでふわふわ舞い踊る緑の葉に気づいた。

「おお……?」

轟が小さく声を漏らしたのが引き金か、浮遊する葉の動きが速度を上げ始めた。すぐにその勢いは小さな竜巻ほどにもなって、さらに二人をあざ笑うように数枚がひらひら顔の前を通り過ぎたりもした。
ぱちぱちとオッドアイを瞬かせる轟の隣で、爆豪は顔をしかめてそんな葉の動きを目で追う。

また一枚、爆豪の前にゆらゆら寄ってきたので、彼はポケットに突っ込んでいた両手の片方を抜き出した。近づくなという意味で一枚の葉に向けて小さく爆発を起こしてやる。
爆発の火が燃え移るでもなく、葉は器用にその炎を避けて見せた。くるくると爆豪の手のひらの周りを回って見せるのが、残念でした、と言っているかのよう。それでやっぱりと確信する。

「やっぱテメエか、幽霊女」

低い声できっぱり言い切ると、竜巻を起こしていた葉の動きが全て同時にピタリと止み――轟はそれにも驚いたように小さく肩を震わせた――少しの間を置いてから、バラバラと地面に落ちていった。
正体がバレては驚かないとわかってのことだろう。

「なんだ、霊現の個性か……」
「ハッ。んなこともわかんねえのか?ビビりくんよぉ」

轟がポツリと呟いた言葉にそう絡めば、轟は爆豪を振り返った。地面に落ちる葉を踏みながら歩き出した二人の間に、やっと会話が成り立つ。会話というにはイマイチ互いの態度が噛み合っていなかった。

「むしろ、なんでわかんだ爆豪は」
「あんな腹立つ避け方すんのアイツに決まってんだろ、見てわかるわアホかよ」
「へえ」

轟は適当に相槌を打ちながら、爆豪に目をやって何でもない風に言う。

「つーか、爆豪がよく見てるだけだな。霊現のこと」
「ああ!?見てねえよ適当なこと抜かしてんじゃねえぞ!」
「そうか?結構探してんだと思ってた」

昨日だって、霊現がカレー食ってないの気づいたのお前だけ――なんて言い出すから、爆豪はさらに額に青筋を浮かべる。

「ちッッげえよテメエらの目が腐ってんだろがコラ!!」
「腐ってはない」
「うっせえ!!つか隣歩くなムカつくんだよ!!」
「……わかったよ」

何気に小さく『めんどくせ……』と付け加えたのはバッチリ聞こえていた。突っかかってやろうかと思ったが、轟がむしろ足を早めて前に出てきたのでそっちの方が腹立たしい。というかもう相手のやることなすことムカつく。

適当なことばっか言いやがって、誰があの幽霊女を目で追ってるなんて。

「俺の前歩いてんじゃねえよ!」
「隣歩くなっつーから……」

腹立たしい、前方の襟首でもひっつかんで後ろにやってしまいたい――そんな二人の前の地面が急に揺らいだかと思えば、ズズッと地面の中から黒髪の人影が突然伸び上がった。

「お」「あ!?」

不意打ちである。揃ってビクッと肩を震わせて足を止めた。完全にビビったやつの反応だ。
そうしている間に、突然現れた人影はもう一度地面にずるずる戻っていった。何だったんだ、今の……。

*  *

「カッカッカ!なんだあの驚き方!」
「『お』って!」

轟・爆豪ペアの姿が見えなくなったのを確認して、骨抜と拳藤はおかしくて笑った。
普段から食えない奴らだと思っていたが、小大のドッキリに簡単に引っかかるあたり、意外と素直なのかもしれない。

そんな彼らのすぐ隣にしゃがむ彼女はそれどころではない。口元に手をやってむすっとした表情でぶつぶつ小声で呟き続ける。

「もしかして不意打ちに弱い……?ホラー感煽るためにじわじわやったのがダメだったのかな……突然岩とか飛ばしたら驚いたのかも!」
「それはホラーじゃなくてスプラッタじゃね?」
「ん」

そして結論が少しずれたところに落ち着いたので、骨抜がツッコミを入れると小大もコクリと頷いて同意した。
そっかぁ、と首を傾げる幽姫は、案外あっさりB組の面々に溶け込んでいた。

彼女の配置はもっと入り口に近い場所だったのだが、彼女曰く、相棒のゴローちゃんという幽霊が爆豪に驚かれなかったと拗ねるので、ここまで付いてきたらしい。
そして小大と骨抜の『地中から現れる黒髪の女』の完成度の高さに楽しそうに笑った。その目はどうも羨みに輝いているようにも思えて、変わった子だなぁと拳藤に思わせた。

「すごいね〜、小大さんと骨抜くんの合わせ技」
「お、まじ?褒められっとなんか嬉しいな!」
「ん」
「別にヒーローには関係ないけどね、そのスキル」

乾いた笑いを浮かべた拳藤は、そのままふと幽姫に疑問を投げかけた。

「っていうか、霊現はほんとに私らと一緒にいてよかったの?」
「なんで?私がクラスメイト脅かしてみたかったんだもの、拳藤さんが気にすることじゃないよ」

へらりと笑う幽姫に、拳藤はうーんと首をひねる。まさかこの肝試しというイベントにおいて、よりによって彼女がこちらのチームに入るとは。さっきの様子からして、本気で気にしていないようだけれど。

「だってさ、爆豪とペアになれたかもじゃん?」
「え」

すると幽姫が丸くした目をパチリと瞬いた。

「肝試しなんて、夏祭りに次ぐ男女のイベントだし、逃すなんて勿体ないよ」
「カッカッカ、拳藤もそういう女子っぽいこと気にすんのな」
「どういう意味だよ骨抜」

じとりと目をやると骨抜はひょいと視線を逸らした。調子のいいやつめ。

「でも霊現の場合、肝試しで『キャーコワーイ』なんて言っても白々しいだろー」
「そっか、っていうか爆豪もそんな女の子を世話するタイプでもなさそうだしなぁ」
「ん……」
「え、なんで私と爆豪くんが男女のイベントなんか……なんで小大さんは気の毒そうな顔を?」

そんな小大に肩をポンポンと叩かれながら、幽姫は困惑した風に問いかけた。
骨抜が不思議そうな顔で答える。

「お前ら付き合ってんだろ?」
「あ、それ違うらしいよ。一応まだなんだって」
「まだとは……!?」

拳藤のフォローも、幽姫の顔を暗がりでもわかるほど赤くして凍りつかせるに十分だった。
そんな彼女の反応は変わった子でもなんでもなく、普通の多感な思春期の女の子。拳藤は微笑ましいなあと笑ってしまう。

「大丈夫!B組は霊現の味方だぞ!」
「んっ」
「物間が言ってた時はビビったけど、まあお似合いだぜ!」
「なっ……物間くんって本当に馬鹿なのかな!?」

今頃補習に勤しんでいるだろう物間は勝手に悪者にされ、違うの違うのと言い訳を重ねる幽姫はB組の三人に軽くいなされた。ほら、もう三組目がくるよ、女子の二人組。
しかし幽姫が元の配置に戻るのは、もう少し後になりそうだ。



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