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ガイスト・ガール - 39



各自荷物を部屋に運び、食堂でようやく食事にありつくことができた。昼食を抜いた上で早々に過酷な行進を余儀なくされた生徒達にとっては、ようやく手に入れた恵みにも感じられる。
長机に並び、皆揃って騒ぎながら食べる夕飯に、一部テンションを妙にハイにする者もいた。せっせと世話を焼いてくれるマンダレイとピクシーボブに感謝。

そんな中に混じってある程度空腹を満たし終えた幽姫は、また洸太の様子をちらちらと確かめていた。相変わらず憮然とした表情で、マンダレイに言われた通りに手伝いをしている。
取り立てて反抗的なわけでもないし、思い悩んでいる風でもない。ただこの場の誰にも近づきたくないと、無言のうちで主張するかのように、目元にはキャップの影が落ちているだけ。

「洸太、そのお野菜運んどいて」
「……フン」

またマンダレイに言われた通りに、洸太は野菜の詰まったダンボールに寄って抱え上げようとしゃがみこんだ。
幽姫は一瞬迷ってから、席を立った。ゴローちゃんは、と思ったら相変わらず爆豪の頭の上だ。そりゃあ、“魔獣の森”においても、土の人形をなぎ倒す爆豪にゴローちゃんはぴょんぴょん喜んでいたくらいだから。

「手伝おうか?」
「は……?」

そばに歩み寄って声をかけると、洸太はつり目を細めて幽姫を見上げた。
幽姫自身、本来他人の手助けを進んで行うタイプでもなく――ヒーロー志望としてどうなのか、というのは置いといて――それ以上にどう言葉を続ければいいのかわからなかった。ええと、と言い淀む幽姫をさらに不審げに見ると、両手で抱えたダンボールを持ち上げて、ぷいと顔を背けてしまった。

「お前なんかの助けはいらねえ」
「あ……そう」

はっきり断られてしまっては立つ瀬がなく、結局幽姫はあっさり引き下がってしまった。子どもの扱いなんて、全然できる気がしない。
内心少し落ち込みながら、すごすごと席に戻る途中、珍しいことに緑谷と目が合った。あちらも一瞬驚いたように瞬きして、ご飯粒がついたままの顔にぎこちなく苦笑じみた表情を浮かべる。
彼なんか、もう少し上手くやれそうなタイプだなぁ――幽姫は頭の片隅でちらりと思い浮かべながら、へらりと同じく苦笑を返した。

*  *

夕食の後にはやっと入浴時間。特に女子陣は土まみれの身体を早く洗ってしまいたい、と言い合って浴場に向かった。
ただの合宿場には珍しく温泉がついていると聞いて、これは疲れを癒すのに最適だと楽しみにもしていた。

「気持ちいいねえ」
「温泉あるなんてサイコーだわ」

やっと汚れも落とせたし、広い温泉は露天風呂だし。山奥であるがゆえの満天の星空を見上げて、ゆるい疲労感を感じていると眠気すら誘われる。目を閉じてほうと息をついた幽姫と同じように、クラスメイトの女子達がそれぞれのんびり羽を伸ばしていたところで。

「峰田くんやめたまえ!!君のしている事は、己も女性陣も貶める恥ずべき行為だ!!」

――また峰田か。
デジャヴの感じる飯田の注意する声と、その内容。折角、気分良く温泉を楽しんでいたというのに。

「壁とは超えるためにある!!“Plus Ultra”!!!」
「速っ!!」
「校訓を穢すんじゃないよ!!」

ああ、今回ばかりはどうしてやろうか。八百万に火炎放射器でも創造してもらって焼きぶどうに――なんて物騒なヒーロー志望女子達だったが、その必要はなかった。

男女の浴場を隔てる間の壁に、ひょこっと顔を出した洸太のおかげで。

「ヒーロー以前にヒトのあれこれから学び直せ」

幼い少年にもっともな説教で突き落とされた峰田の情けないこと。くそガキィイイ!?と驚愕の声が地に落ちていくのがわかって、女子はパッと表情を明るくした。

「やっぱり峰田ちゃん、サイテーね」
「ありがと洸太くーん!」

芦戸が親指を立てて声をあげる。それについ振り返った洸太がぎくっと身を凍らせ、その拍子にぐらりとバランスを崩した。

「あっ!」

と思った時には洸太は真っ逆さまに男湯の方に転落してしまった。思わず声を上げた幽姫は立ち上がって、慌てて仕切りの壁に寄った。

「洸太くん大丈夫!?」
「霊現っ?あ、ああ、今緑谷がマンダレイのとこに連れてったけど」

急に女湯から話しかけられたのに少し動揺した風だったが、すぐに切島が答えてくれた。ありがとう、と返した幽姫はそのまま温泉には戻らずに脱衣所に向かうことにした。

「霊現さんもうあがるの?」
「湯冷めしないようにねー」

その場の女子達も少し不思議そうにしたが、葉隠と麗日の声かけにへらりと笑って頷き返せば、それ以上は何も言われなかった。



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