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ガイスト・ガール - 38



結局、十二時半など夢のまた夢。A組の全員が合宿所に到着したのは午後五時半。すでに夕飯時に突入しようかという頃だった。

「テメェ……最後まで俺を盾にしたな」
「爆豪くんが飛び出していくから、便乗しただけだよ」

幽姫がしれっと答えると、爆豪は苛立たしげに顔をしかめた。
チッと大きく舌打ちした彼が自身の手のひらをさするので、さすがに個性を使いすぎたのかな、と幽姫は目を細めた。爆破しすぎると手のひらが痛むと、以前どこかで聞いた記憶がある。

「大丈夫?」
「ああ!?なめんな問題ねえに決まってんだろ!」

しかし尋ねると速攻で不機嫌な答えが返ってきた。彼の性格上、素直に弱みを見せるとは思っていない。
そっか〜、と少し笑うと、爆豪はむすっと口を引き結ぶ。

「ありがとう、爆豪くん。おかげで助かったよ」

そんな彼に素直なお礼を返すと、爆豪はしばし目を瞬いて、ふんと鼻を鳴らした。

「何が『三時間』ですか……」
「悪いね。私たちならって意味、アレ」

瀬呂が代表した文句に答えたマンダレイと、独特な笑い声を立てるピクシーボブの二人は、ボロボロの高校生達に対していい性格をしている。

「でも正直もっとかかると思ってた……私の土魔獣が、思ったより簡単に攻略されちゃった」

“魔獣の森”で幾度となく襲いかかってきた土くれの怪物は、ピクシーボブの個性によって作られたものだったらしい。合宿開始の合図と共に生徒達を突き落としたのも彼女。

「いいよ君ら……特に、そこ四人」

そして彼女が指した四人。緑谷と飯田、轟、爆豪の四人。
瞬間的な判断と動き出しが早い彼らは、結局クラスメイトを差し置いてすぐ土人形を破壊してしまった。幽姫はそんな爆豪の後について行き――爆豪からしてみれば、盾にして――意外と難なく森を抜けることができたのである。

「三年後が楽しみ!ツバつけとこー!」
「彼女焦ってるの。適齢期的なアレで」

本当の意味でツバをつけるピクシーボブ、マンダレイ曰く適齢期らしい。さりげなく爆豪から距離を置いた幽姫に気づいて、爆豪が横目で睨んできた。

「適齢期といえば――」

そこで口を挟んだのは緑谷で、ピクシーボブに結構な勢いで肉球を押し付けられつつ、視線をあの男の子に向けた。マンダレイの後ろでじっと様子を伺う少年。

「――その子はどなたかのお子さんですか?」
「ああ違う、この子は私の従甥だよ。洸太!」

マンダレイの呼びかけには素直に応じた。トコトコ前に進み出た洸太というらしい少年に、緑谷は右手を差し出してよろしくね、と告げる。
無言でそんな緑谷の股間を攻撃するあたり、やっぱり扱いづらそうな子どもだった。

「緑谷くん!おのれ従甥、なぜ緑谷くんの陰嚢を!!」
「ヒーローになりたいなんて連中とつるむ気はねえよ」
「つるむ!?いくつだ君!!」

心配して飛んできた飯田にも子どもとは思えないガンを飛ばして答えた洸太は、そのまま宿舎の中に入ってしまった。

「マセガキ」
「お前に似てねえか?」
「あ!?似てねえよ!つーかてめェ喋ってんじゃねえぞ舐めプ野郎!!」
「悪い」
「でも似てるよ、目つきとか」
「黙れや幽霊女!!」

わかったような顔をして鼻で笑うが、爆豪だっていつもあんな感じでトゲトゲしているくせに。今だって無駄にガン飛ばしてる。

幽姫は洸太の消えた方を見た。すっかり姿は去ってしまって、彼の後ろについていた二つの靄もいない。
悪い感じはしなかったけれど、あんな小さな子どもに霊が憑くのは――彼のあの態度も、何か関係があるのかもしれない。

「――おいコラぼーっとしてんな鈍間!!」
「えっ?あ、私の荷物」

大きな声と共に押し付けられたバッグを反射的に受け取る。
気づけばクラスメイトはそれぞれの荷物を手に、ぞろぞろ宿舎に向かっていた。荷物運んだら食堂だって、と通りすがりに芦戸が声をかけてくれた。どうやら相澤の指示を聞きそびれたらしい。で、代わりに爆豪が幽姫の荷物を受け取ってくれたと。

「ご、ごめんね爆豪くん。手痛いのに」
「痛くねえつってんだろ舐めんな!」

慌てて謝罪しても却って逆効果だった。不機嫌に眉を吊り上げた爆豪がさっさと歩き出したので、ハッとして幽姫もバッグを抱え直して後を追う。
あ、そういえば。

「ちょっと待って、爆豪くん」
「あ?――ん、だよ!なんの真似だ!」
「土とか、汚れてるから」

呼びかけに振り返った顔に、すかさずバッグから取り出したハンドタオルを押し付けると、案の定怒られた。
気づかないふりでゴシゴシ拭き続ければ、ついにブチッと切れる音がして思いっきりタオルを奪い取られた。

「どうせ風呂入んだから一緒だろが!」
「一緒じゃないよ」
「うっぜえ!」

悪態づきながら自分で一通り顔を拭って、汚れたタオルを突き返してきた。素直に受け取ると大きな舌打ちをし、爆豪はのしのし宿舎に入っていった。

まあいいか、ツバは取れたよね。幽姫は内心で呟いて、汚れた面を内側にタオルを折りたたんだ。



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