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ガイスト・ガール - 37



荷物を詰め込んだ旅行バッグを肩にかける。着替えやらなんやらと重いのは確かだが、一週間の合宿は少し楽しみなのでその程度の重さは我慢できる。そういうものだ。

「いってきまーす――」
「幽姫」

万全に準備を整えて、やっと家を出ようとしたら声をかけられた。振り向くと予想通り、心配そうな顔の父親の姿。

「行き先変更になったんだろう?大丈夫か?霊園とか近くない?」
「いや、知らないよ……」
「お父さんったら心配しすぎよぉ」

呆れたように言いながら、母親もリビングから出てきた。女二人に否定されながらも、父親はだって、と眉を下げる。

「幽姫は母さんの個性も持ってるんだぞ?危ないじゃないか」
「幽姫は私と違って、個性の調節上手だものねぇ」

母親の個性は『降霊』といって、昔は日常的に幽霊に乗っ取られて色々大変だったらしい。今では幽霊と対話できる『霊感』の個性を持つ父親のおかげで、暴発することこそ無くなった。
逆に心配性になってしまったのは父親の方で、未だに何かと母親、そして彼女の個性を受け継ぐ幽姫のことでやや過保護だ。思春期の娘としては、少々うざったい。

「お父さん、早く準備した方がいいんじゃないの?今日、朝一で患者さん来るんでしょ」

幽姫がぴしゃりと言うと、反抗期か……なんてすぐ落ち込む。そういうところも、実は結構面倒臭い。
カウンセラーとして心理学の勉強をしたなら、思春期の子どもに対してもう少し上手く立ち回れないものだろうか。

「いってらっしゃい、幽姫。無茶はしないようにね」
「そうだぞ。霊園とか墓地には近づかないようにしろよ、乗っ取られるかもしれないから」
「乗っ取られないよ〜、お父さん私のことなめすぎ」

じゃあいってきます、と幽姫は今度こそ家を出た。

「たくましくなったな、幽姫……!」
「そんなこと言ってる暇があるなら、早く朝ご飯食べてねぇ」
「……母さんもたくましくなったよな」

玄関の向こうでは、再度女の成長というものを感じて複雑な感情に狩られる父親のみが残った。

*  *

クラス別でバスに乗り込み、ワイワイガヤガヤうるさくしながら一時間。
A組を乗せたバスが停車し、一旦休憩かとのこのこ降車した彼らの前には、広い森とその向こうに見える山々。

「――煌めく眼でロックオン!」
「――キュートにキャットにスティンガー!」
『――ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!!』

「今回お世話になる、プロヒーロー『プッシーキャッツ』の皆さんだ」

何だろう、この年齢的にも世代的にもギリギリな感じの女性二人組は――数人の心情はこんな感じだったが、ヒーローオタクの緑谷によれば彼女達も実力のあるヒーローらしい。

幽姫は彼女達の隣にいる小さな男の子に気がついた。
年齢にしてはきつい目をして、黒いキャップを目深に被った男の子。その後ろに、満足に形もとれていない白い靄が二つ。

「ここら一帯は私らの所有地なんだけどね……あんたらの宿泊施設はあの山の麓ね」
『遠っ!!』

赤いコスチュームの一人が指したのははるか森の向こう。それならば出迎えには早すぎる。
こんな位置でバスを止め、生徒を降ろしたのはどうしてか。予想がつき始めた生徒達はざわつき始めた。

「今はAM9:30……早ければ、十二時前後かしらん」
「ダメだ……おい……」
「戻ろう!」

一週間の楽しい林間合宿。そう、“楽しい”林間合宿に、そんなイベントがあるなどまさかまさか。
バスに戻ろうとした生徒達だったが、やすやすと許されるはずもなく。

「十二時半までに辿り着けなかったキティはお昼抜きね」

悪魔の宣告があり、突如足元から溢れるように盛り上がった地面が、A組生徒達を崖から乱雑に突き落とした。

「わるいね諸君――合宿はもう、始まってる」



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