×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -




ガイスト・ガール - 02



一通り講評を述べたところで、推薦入学の優等生、八百万百は口を閉じた。担当教員としてのオールマイトはしどろもどろにそれをまとめ――まとめるべきところもほぼない完璧な回答だったが――第二戦目を始めることを伝え、白と黒の箱から二度目のくじ引きを始めた。

その結果に興味津々のクラスメイトを後方から眺めていた幽姫は、ついと俯く彼に目を向けた。
先ほどまでモニター越しに見ていた激昂は、訓練のタイムアップから――もとい、緑谷出久が訓練の勝利をもぎ取って倒れ込んだ時点から、すっかりなりを潜めたようだ。今は、なにか、あまり精神的に前向きとは言い難い雰囲気を感じるものの、誰もそれに触れずにいた。

「ゴローちゃん、いいの?」

幽姫が小声で呟くと、彼女の視界の中だけに存在する白い靄の塊のようなそれが、ちらりと幽姫を見上げる仕草をした。しかしそれはすぐに顔を背けて、幽姫の前で細い尻尾をゆらりと揺らすのみ。

休み時間の度に、というか授業中にだって誰も見えないのをいいことに、爆豪の近くをウロウロしていたゴローちゃんだが、訓練が終わってからは爆豪に近寄る様子がない。今の爆豪に寄っていくほど、ゴローちゃんも空気が読めないわけではないらしい。むしろゴローちゃんは頭のいい子だと言うことは、幽姫が一番よく知っている。



第四戦目、くじ引きの結果、唯一の三人組チームの一員として敵チームとなった幽姫は、八百万と共に演習用ビルの中を歩いていた。
訓練開始から約五分が経過している。先ほどまで核兵器を設置した部屋の入り口に、八百万の個性で作り出したバリケードを張っていた。それからもう一人のチームメイトである峰田実をその部屋に残し、ヒーローチームを迎え撃つために二人が尖兵として赴くことになった。

「相手は上鳴さんと耳郎さんでしたわね……おそらく、私達の居場所の見当は付いておられるでしょう」
「ね〜」

まだクラスメイトの個性を詳しく知っているわけではないが、ヒーローチームの二人は雷を操る個性と耳のプラグを使う個性を持っていたと記憶している。耳郎響香の個性でもって、こちらの活動音が把握されている可能性は高い。

「でも、私と八百万さんの個性は相性いいと思うよ。きっと大丈夫だね」
「そうなのですか?」

うん、と幽姫は頷いた。
簡単な作戦に則って細工を済ませた後、そういえば、と八百万が思い出したように言った。

「霊現さん、訓練が終わってからは爆豪さんに声をかけておられませんでしたが」
「えー、だってあんな爆豪くんに声かけるの、怖そう」
「午前も十分にややこしそうだった気がするのですが……」

二度の十分休憩と昼食を摂り終えた昼休み、幽姫がめげずに爆豪に寄っていく姿は、すでに1-A内での周知である。最初は声を荒げていた爆豪が滅入った様子で無視を決め込むようになってもなお、幽姫はにこにこと機嫌良さそうに笑い続けていた。

「それに、ゴローちゃんが行かなくていいって言うなら、別に私が行く理由もないもの」

幽姫があっさりと言うので、どうも彼女自身の感情として爆豪に肩入れする何かはないらしい。八百万は少し意外に感じながら――あんな相手に臆せず向かうなんてよほどのことに思っていたので――そういうものなのですか、と呟いた。

「霊現さんは、爆豪さんとどのようなご関係でいらっしゃいますの?」
「何にもないよ〜。ゴローちゃんが爆豪くんのこと気に入っちゃったから、その付き添いしてるだけなの」
「ゴローちゃん……それが、あなたの使役している霊なのですか?」

霊現幽姫の個性“霊媒”は、幽霊とコミュニケーションをとって使役する個性であると認識している。そのため八百万はそのような表現をしたのだが、幽姫はパチリと目を瞬かせて、ううん、と首を振った。

「違うよ、ゴローちゃんは――それに他のみんなも――使役しているんじゃなくて、私のお手伝いしてくれてるだけだよ」
「何か違うのですか?」
「全然違うよ〜。だって、その子がやりたくなかったら、私がいくら頼んでも手伝ってなんてくれないもの。幽霊って、生身の人間よりよっぽどわがままで気まぐれなの。だから時々困っちゃう」

その点、と幽姫は続けた。

「今日ここにいる子達は、いい人ばっかりだよ……ほら、そろそろ来るみたい」

試験時間は残り約五分。八百万は幽姫の言葉を聞いて、すっと表情を引き締めた。



前<<>>次

[3/74]

>>Geist/Girl
>>Top