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ガイスト・ガール - 36



※34〜36期末試験編
 公式設定(アニメ・コミック)と異なります。
 公式設定重視の方はスルーでも構いません。



「飯田くん、右からきてる!」

幽姫の声に反応した飯田はその場から後方に飛び退いた。
その隙にとゲートに向けて駆け出した尾白にすぐ反応したようで、パワーローダーを追尾して走るゴローちゃんの気配が、猛スピードで飯田から遠ざかる。

「飯田くん行けるよ!尾白くん後ろ気をつけて!」

彼らは幽姫の指示を信用しきっている。気をつけて、と言えば確認もせずに安全そうな地面を探して飛び退くし、行けると言えばすぐにゲート方向へ向かっていく。
男の子っていいなあ、迷いがなくて。ショベルカーの上に常駐して二人に移動指示を出し続ける幽姫は、内心呟く。

幽姫の位置から随分離れ、飯田と尾白はやっとゲートのすぐ近くまでたどり着こうとしている。
パワーローダーとしては司令塔の幽姫を抑えたいはずだが、今となっては幽姫の場所まで戻っている間に、二人のうちどちらかは確実にゲートをくぐるだろう。

ここまで来れば、こちらの勝ち筋が見えてきた。

幽姫がそう確信した時、パワーローダーは尾白に向かっていた方向を突然変えた。認識した途端、ゲートのすぐ前で爆発じみた轟音と共に、土埃を上げて大穴が空いた。

ゲートの前を半円形に、堀のように現れたその穴の目的は明らか。

「くそっこれでは……」

悔しさの滲む声で呟いたのは飯田だ。水平方向の機動力は最高レベルの飯田だが、代わりに彼は地面の続かない場所には移動できない。つまり。

「尾白くん!」

幽姫が声をかけるまでもなく、彼も狙われたのはわかっていた。慌ててその場を離れていく。
せっかくゲートのすぐ前まで来れたのに――だからこそ、大穴でも跳躍で飛び越えられる尾白にのみターゲットを絞ることができるようになった、パワーローダーは飯田に見向きもせず尾白の後を追い続ける。

「尾白くん右注意!あと、こっちには来ないでね!」
「わ、わかってるっての!」

あわよくば幽姫の近くまで戻り、司令塔を崩してしまいたい。パワーローダーの思考はわかっていたので幽姫の指示は正しいが、だからって来ないでは無いだろ、言い回しが地味にショックだ。

しかしこうなればどうする。飯田がゲートを通れず尾白は敵にマークされた。幽姫がその場から動くにはゴローちゃんの存在が不可欠だが、ゴローちゃんを傍に呼び寄せるとパワーローダーの動きが把握出来なくなる。
さすが、やっぱり簡単には終わらせて貰えないか――と、思った時、幽姫が飯田に指示を出した。

「飯田くん!あれやろう、非常口!」
「は!?」
「じゃなくて、浮いてエンジンかけるやつ!ゴローちゃんそっちにやるから!」

非常口――随分懐かしい話だ。群衆を大穴に、麗日の個性をゴローちゃんのポルターガイストに置き換える。

――しかし、それを口に出して指示するのは愚策!

もちろんパワーローダーもその顛末は聞いたことがあったし、今の幽姫の言葉で彼らがやろうとしたことは完全に敵にバレた。
飯田も尾白も気づいた、こうなれば一瞬の時間勝負だと。尾白の後を追うパワーローダーの地響きはなくなった。

「飯田くん走って!」
「うおおお――!!」

こうなればやるしかない!飯田はぽっかりと口を開く大穴に向かって駆け出した。穴に飛び込む前にゴローちゃんが追いつくか、それともパワーローダーが先着するか。それによって、飯田が大穴に引きずり込まれればその後は――考えるな!もう目の前に、大穴が広がっている。

目に見えない猫がすぐそこにいると信じて、飯田は叫ぶ。

「いくぞ!ゴローちゃ――んんん!?!?」

大穴の淵で、飯田の身体が浮き上がる――こともなく、三速に入った猛スピードのまま、飯田は大穴に飛び込んだ。同時に追いついたらしいパワーローダーが穴の壁から顔を出して、あれっ?と声を漏らした。
むしろこっちの台詞だ!なぜだ。ゴローちゃんは追いつけなかったのか――と思った時、アナウンスが流れた。

『――飯田チーム、条件達成!』

「なぜ!?」
「ご、ごめん飯田……」

おずおずと、反対の淵から申し訳なさそうに顔を覗かせたのは尾白だった。

「尾白くん!?向こうにいたはずでは……!」
「いや、うん、霊現が補助してくれた」

……またまたなぜ?ゴローちゃんは飯田のところに来たはずでは。

「すっかり騙されたよ……くけけ……」

ひょいと穴から這い出したパワーローダーに一瞬身構えたが、アナウンスの通り、チームの一人がゲートをくぐった時点で試験は終了したらしい。
尾白に引き上げられた飯田はまだ現状が飲み込めない。それもこれも、ショベルカーから降りてこちらへ戻ってくる司令塔のせい。

「霊現くん!一体どういうことだ……!?」
「単純な駆け引きでしょう?」

飯田が問い詰めるのに対し、幽姫は一つ瞬きしてあっさり答えた。

「あれで先生が飯田くんのところに行けば尾白くんを、嘘だとタカを括ったようだったら飯田くんを補助したよ。それだけ」
「なにぃ……本気で走ったというのに……」
「うん。本気で走ってくれると思ったからできたことだよ」

にっこり笑って言う彼女は、全く悪びれる風もない。
まあ冷静に考えれば、あんな大声で叫んだ作戦がちゃんと機能するわけもないしね――冷静に考える余裕のなかった飯田は、上手く使われたのだ。飯田はぐうっと黙り込んだ。

効率的な作戦だとは思うし、一応は納得できるが、しかし……飯田はなんとも言えない気分になった。
その彼の心情をすぐに代弁したのが、今回の対戦相手でもあったパワーローダーだった。

「足場の悪い中、よくやったよ……しかし霊現、最後の駆け引きは少し乱暴すぎた」
「そうですか?」
「私が本当の敵だったら。君達、全体的に少し想像力が足りなかったな……その点は減点させてもらうぞ」

講評はそれだけだった。
パワーローダーはくけけ、と笑い、まァ赤点ではないだろうから安心しな!と演習試験を締めくくった。



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