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ガイスト・ガール - 35



※34〜36期末試験編
 公式設定(アニメ・コミック)と異なります。
 公式設定重視の方はスルーでも構いません。



最初は、姿が見えないことが問題なのだと思った。
掘削ヒーロー――只今は敵役なので掘削ヴィラン――は、常に地中を移動する。背が低く重厚なコスチュームを身につける彼は、普段素早いイメージはなかったのに、岩石でできたあつらえ向きのフィールドの中を猛スピードで駆け抜けていた。

しかし試験時間が半分を過ぎたあたりから、自分達に与えられた課題はそこではないのだと理解した。その時点で、もう遅過ぎたような気さえするが。

「――うわっ!」
「尾白くん!そこは危険地帯だぞ!」
「今となってはどこも危険だと思うな〜」

地盤の緩んだ場所に足を取られた尾白は一瞬バランスを崩したものの、すぐに尻尾で地面を叩いて脱出した。
脱出できたはいいものの――また大穴が一つ増えた。パワーローダーが掘り進めた地面はすでに、少し衝撃を与えれば連鎖的に崩れ落ち、ぽっかりと深い穴に変わってしまうほど脆くなった。しかし動かないでいれば恰好の餌食である。

脆い地面と大小多数の穴の中、動き回ってパワーローダーの不意打ちを避けることは必須。そして、また穴が増える悪循環。
――せめて相談しあう余裕があれば、と思った時、幽姫はようやくある避難場所に目をつけた。

「――二人とも!ここ!」

幽姫はゴローちゃんの力を借りその場に飛び乗って声を上げた。
ゲートの方向とパワーローダーの動きにばかり気を取られていた二人もはっとそこに目を向けて、一旦休戦の意を汲んだらしく同時にこちらへ駆けてくる。
跳躍力の足りていない飯田はゴローちゃんに浮かせてもらって、なんとか三人はその避難場所――点在するショベルカーのうち一つの屋根の上に集まった。その周りだけは、あまりパワーローダーの掘削を受けていない。

パワーローダーは気づいたはずだが、地中から顔も出さずに避難場所の周りをぐるりと回ってどこかへ行ってしまったようだ。

「なんだろ、さすがにショベルカーは重量オーバーなのかな」
「かもしれないね」

尾白と幽姫の予想に飯田は苦い顔をしたが、何も言わずに霊現くん、と幽姫の名を呼んだ。

「体勢を立て直すつもりか?」
「少なくとも、このままじゃあタイムオーバーを待つだけな気がするの」
「だな……ほんと、動きづらいよこのフィールドは」
「尾白くんはもっと複雑な地形の方が動きやすいだろうしな」

そう言う飯田はむしろ、速度が出る分平坦で距離のある場所が最適。ただし、この場は既にただの平坦な更地ではなくなってしまった。

――どうやら、この会場における課題は、足場の悪い場所で機動性に重きを置く三人がどのように対処するのか、という話のようだ。

飯田はエンジンによる加速、尾白は強靭な尻尾での瞬発的な動き、幽姫はポルターガイストによる浮遊を交えた跳躍。
三者三様の形ではあるが、個性のまず基本的な使い方を『移動のため』に向けていることは共通していた。

よって今この課題を前にした彼らは、パワーローダーを振り切る機動性の高さでゲートを抜けるか、またはそれ以外の個性の活用法を見出すしか手はない。前者については、先ほどからゲートを目指してはパワーローダーに妨害を受けてばかりなので、諦めるしかなさそうだ。

幽姫は眉を下げて、口を開いた。

「誰か先生の動きを把握できないの?」
「なに?それを言うなら君だろう、霊現くん」

当然のように返された言葉に、幽姫は目を瞬いた。

「え、私?」
「そうだよ。この場で一番汎用性の高い個性は、霊現の『霊媒』じゃないか」

尾白も飯田と同じ認識だったらしい。気づかなかったのは本人ばかりというやつだ。
とはいえ、汎用性は高かったとしても、今幽姫ができるのは尾白の下位互換程度の跳躍力くらいで――と思った時、飯田が言った。

「『霊媒』は、情報収集の個性でもあるのだろう?職場体験で、なんの情報も持っていない凶悪敵を逮捕してしまえるほどの!」

素晴らしい個性だ!と飯田は右手を握りしめた。

「よく知ってるね」

幽姫は思わず呟いた。あの時幽姫などより余程大きな事件に関わった飯田が、そんな小さな記事を認識していたとは――しかし飯田は当然だろ、と心外そうに答えた。

「委員長だぞ!クラスメイトの活躍はきちんと把握している」
「……ふふ、変なの〜」

幽姫はくすくす笑った。なぜ笑う!とまた心外そうな飯田。尾白はそんな二人に慌てて声をかけた。

「ちょっと、話脱線してるって!……実際どう、霊現さん。先生の動き、把握できる?」
「ううーん」

そう言われても、幽霊に情報を貰えるだけの個性だ。幽霊が見れない情報は、幽姫にもわかりようがない。

「幽霊って物理障害無効なんだろ?地面の中とか入れないの?」
「――その発想はなかった!」

幽姫が声を上げると、目の前の二人は揃って驚いて目を丸くした。

「幽霊も元は生き物だから、地面の中に入るとか考えたことなかったけど……そうだよね、可能性あるかも!」

ゴローちゃん――と声をかけるまでもなく。隣から姿を消していたゴローちゃんは、ショベルカー下の地面に身体を半分埋めて待っていた。新発想にはすぐのっかる、好奇心と挑戦心旺盛な性格はこういう時扱いやすい。

「パワーローダー先生見つけたら合図してね!」

そんなゴローちゃんに声をかければ、承知したというように一つ頷いて白い靄は地面に消えた。



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