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ガイスト・ガール - 32



訓練終わりの女子更衣室にて。

「霊現の個性ってやっぱ羨ましいわ」
「あーわかる!私の超秘をノーリスクで使えるようなもんやし!」

耳郎と麗日がそれぞれ言った言葉に、幽姫はへらりと笑った。
二組目のレースで、幽姫はなんとか一位を取っていた。対戦相手が機動性に欠ける個性のクラスメイトだったこともあるが、勝ちは勝ちだ。

「ありがと〜。でも、私の個性じゃ、どう頑張っても三トンは持ち上がらないもの」
「それって訓練すれば上限上がるの?」

耳郎の質問に、考えたこともなかったなぁと目を瞬いた。言われてみれば、個性は訓練するほど強力なものにできるという話もあるし、頑張ればゴローちゃんもトン単位で物を浮かせたりできるのかも。

ヒーロー基礎学の後は昼休み。あまり急ぐ必要もないと、女子七人はだらだらと雑談を交わしながら、コスチュームから制服へと着替えていたわけだが。

『……!』

にわかに隣の部屋から騒がしい声が聞こえた気がした。男子更衣室の方、と認識して七人が顔を見合わせたタイミングで。

『隣はそうさ!わかるだろう!?女子更衣室!!』
――また峰田か。

女子の間にそんな空気が流れた。あの色欲魔神、今度は何に目ざとく気づいたというのか。
その疑問に答えたのは、普段から不必要に声を張る――今回についてはグッジョブだが――飯田の、峰田に対する注意だった。

『峰田くんやめたまえ!!ノゾキは立派なハンザイ行為だ!』
『オイラのリトルミネタはもう立派なバンザイ行為なんだよォォ!!』

――最低である。
今度女子の間に流れたのは一気に冷え切った空気だった。そうとも知らない峰田は、安易に行動に出る。

『八百万のヤオヨロッパイ!!芦戸の腰つき!!葉隠の浮かぶ下着!!麗日のうららかボディに霊現の真っ白柔肌!!娃吹の意外おっぱァアア――ああああ!!』

小さい穴にひっついて目を覗かせるものだから、耳郎のイヤホンジャックがぶっ刺さるのも簡単なことだ。眼球から直接心音を流されるとは、どういう感覚なのだろう。

「ありがと響香ちゃん」
「何て卑劣……!すぐに塞いでしまいましょう!!」

八百万の創造があれば、このくらいの修補はお手の物だ。幽姫も一旦安心して笑ったその時、隣の男子更衣室からまた騒々しい音――聞き慣れた爆発音が立て続けに起こった。

『ぎゃあああ』
『おおお爆豪追い討ち!?』
『男らしいぜ!』

と、賞賛する声がいくつかして、部屋から荒々しく扉をあけて出ていく音。それを聞いていた麗日が意外そうに呟く。

「爆豪くんって意外と紳士的なとこあるんだね」
「そうなの?」

対して芦戸は疑わしげにして、幽姫に目を向ける。なんでこっちを見るの、と幽姫は一瞬思ったが、さあ、と首を傾げて返した。

「まあ、爆豪くんも色々良いところあるよ、一応優しいとこも……」
――あれ、ちょっと待って?

今の今まで、爆豪が男子更衣室に残っていたってことは。さっきの騒ぎも見ていたということになるし、峰田の発言も聞いていたということになるし。あの――『霊現の真っ白柔肌!!』――まで。

「――どしたのー?霊現ちゃん顔真っ赤だよ!」

真っ先に指摘してきたのは、奇しくも透明で色どころじゃない葉隠だった。

「えっ、なんでもない!なんでもないの!」
「んんー?あっやしい!」
「もしかして……!」

芦戸がハッと何かに気づいたように声をあげた。楽しげな声の葉隠も、透明な表情はきっとにやにや顔に違いない。

「えー!もしかするの?しちゃうの!?」
「まさかあの爆豪なの!?」

――ああ、これは完全に何かしらに勘付かれてる!

幽姫は確信したが、断じて肯定するわけにはいかない。というか、実際、違うもの!絶対違う!

「もしかなんてしない!もう!早く着替えなよ〜!」

熱い顔のまま声を上げると、二人は――というよりその場にいた全員が――楽しそうに目を輝かせながら、『今回は勘弁してやるよ』といった口調でハーイ、と軽く笑ってそれ以上追及してくることはなかった。

必要以上に慌ててしまった、あれでは噂されるのも仕方の無いことだ。気をつけなければ、本当にそんなつもりは――ないはず、なのだから。



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