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ガイスト・ガール - 31



職場体験が終わり、一週間ぶりの学校への登校だった。クラスメイトが集まって口々に一週間の体験を語り合う中、幽姫は入り口近くの席に集まっていた女子の中に混ざっていた。

「敵退治までやったんだ!うらやましいなあ!」
「避難誘導とか後方支援で、実際交戦はしなかったけどね」

それでもすごいよー!と目を輝かせる芦戸に、耳のプラグをいじりながら満更でもない様子の耳郎だったが、それを言うなら、と幽姫の方を見た。

「霊現でしょ。逃走中の敵を逮捕したって聞いたよ」
「それ!新聞見たよ、場合によっては一面記事だったんじゃない?」
「それは言い過ぎかな〜」

とはいえ、『職場体験中の雄英生が凶悪犯逮捕!』なんて見出し、一面記事にはならないにしても、何らかの情報誌で無駄に大きく取り沙汰されるくらいの話題性はありそうだ。
まあ、今はそんな無駄な記事でページを埋める必要もない、社会大注目の事件があるので、そんな面倒事にはならなかったが。

「――アッハッハッハ!!マジか!!マジか爆豪!!」

と、いつもより遅めの時間になって教室に入ってきた爆豪を見て、真っ先に最大級の爆笑で迎えたのは瀬呂と切島の二人だった。
笑うなぶっ殺すぞ!と声を荒げる爆豪だったが、似合わない八対二に固められた髪型では凄みも何もあったものじゃない。むしろ二人のツボにはまったようで、腹を抱えて笑い転げている。

「結局駄目だったんだね〜それ」

そんな爆豪の元へと飛んで行ったゴローちゃんを追って、女子の輪から抜けた幽姫も彼らの側に寄って行った。
ベストジーニストの誇りにかけて、プライドガチガチの爆豪もなんとか髪型だけは見事矯正されてしまったわけだ。初日には本気でひくほど似合わなかったが、今となってはなんとなく見慣れてしまった。

まるで他人事のように言う幽姫を振り返って、爆豪はさらに顔をしかめる。

「誰のせいだクソが……!」
「え、なに?霊現なんか言ったの?」

切島が笑いながらも不思議そうに尋ねたので、幽姫は首を傾げて答えた。

「ううん。ただ、最終日に『爆豪くんはそのままでいいと思いますよ〜』って進言したら、『周りがそうやって甘やかすから、こんな毛根プライド男が出来上がってしまったのだ……』とか言って本気出させちゃっただけ」
『毛根プライド男――!!』
「殺す!!」

また二人のツボにはまったらしい。ゲラゲラ笑い続ける彼らに、ついに怒りが限界突破した爆豪が両手に爆発を起こして唸った。ついでに髪も爆発して元に戻った。結果オーライだ。

「――ま、一番変化というか大変だったのは、お前ら三人だな!」

はたと聞こえた言葉で、幽姫はついと視線を向けた。
上鳴が指摘した三人――緑谷、轟、飯田はここ数日メディアを騒がせ続けている『ヒーロー殺し・ステイン逮捕』の一面に立ち会ったと聞く。

「そうそう、ヒーロー殺し!」
「命あって何よりだぜ、マジでさ」

爆豪に押さえつけられながら、瀬呂と切島も反応をみせる。

もちろん幽姫もそのニュースはジーニスト・オフィスのテレビでも、帰宅してからの新聞でもきちんと目を通している。敵連合の騒動に紛れて動いていたらしいステインを、No.2ヒーロー・エンデヴァーが見事逮捕したのだとか。

逮捕劇に触発されて人々がステインという敵に注目する中、ネットで公開された彼の動画が急速に広まっている。『英雄回帰』という彼の主張が、揺るがぬ執念の信念がそれと共に周知され、あまつさえ支持者を持ち始めた。
この数日で、ヒーローにまつわる情勢が動きを見せ始めたのだ。

*  *

とはいえ、幽姫達のような一介の学生にそんな世間の機微などはあまり関係がないことで。

「ハイ、私が来た。ってな感じでやってくわけだけどもね。ハイ、ヒーロー基礎学ね。久しぶりだ少年少女!元気か!?」
「ぬるっと入ったな」「パターンが尽きたのかしら」

オールマイトのマンネリ気味な挨拶に始まり、本日のヒーロー基礎学は救助訓練レースらしい。密集工業地帯を模した運動場γにて、救難信号を出したオールマイトの救出競争だ。

一組目は瀬呂や飯田といった機動力のある生徒が揃った。口々にトップを予想するクラスメイトが見上げる画面の中、スタートの合図で飛び出した五人。
各々の個性で標的に向かっていく中で、その場の全員の目を奪ったのが。

「――おおお緑谷!?」
「なんだあの動き……!」

一週間前では想像もしていなかった、跳ねるように足場から足場へ飛んでいくような動き。
彼の個性は強い反動のある超怪力だったはずだが、この数日で一体どういう変化だろう。

なんだか、爆豪くんみたいな動きだなぁ――幽姫も目を丸くして画面に見入っていたが、不意に視界にふわりと現れた白い靄に邪魔をされた。
相変わらず爆豪の隣にいたはずなのに。思いながら、ちらりと振り返った彼は射殺すような視線で画面を睨みつけていた。

――爆豪くんは、どうして緑谷くんのことをあんなに意識するんだろう。

数分後、瀬呂が妥当な一位をとり、一組目は終了。ちなみに急成長を見せつけた緑谷は、空中移動に慣れないせいで落下、最終的な成績は振るわなかった。
オールマイトが二組目の参加者を読み上げて、その中に幽姫の名前が入っていた。爆豪はまだ先の組らしい。チッと舌打ちしているのを聞きながら、幽姫は振り返って彼に笑ってみせた。

「爆豪くん、ちゃんと見ててね」
「あ?」
「有言実行してるってとこ、見せられるように頑張るから」

そこまで言って数日前の夜の会話を思い出したらしく、爆豪は面倒臭そうに顔をしかめた。そんな顔しなくて良いのに、失礼だなあ。
幽姫はそれには気づかなかったかのように、笑顔で軽く手を振るとスタート位置に向かった。

――私のことも、少しくらい、ねえ。



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