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ガイスト・ガール - 28



職業体験五日目。
幽姫と爆豪はそれぞれ別れて動くことが多くなっていた。というか、“矯正”が順調に進まないのにしびれを切らしたベストジーニストが、このところ熱心に爆豪を連れ歩いているので、その間幽姫は他のスタッフに指導を受けているという形だ。

No.4ヒーローに直接教えを乞えないのは残念だが、色んな個性の優秀なサイドキック達から指導されるのもそれはそれでありがたいことだ。そもそもこの事務所から指名が来たのは爆豪のおこぼれなのだし。

「――へえ、霊現さんのヒーロー名って、幽霊の名前なんだ!」

この日同行したサイドキックの青年は、雑談の流れで聞き出した事実を楽しげに笑った。

「初めて聞いたよ、そんな由来!」
「ですよね〜」

そもそも幽霊なんて突飛な存在だ。幽姫はへらりと笑って受け流す。青年はなおクスクス笑っていて、彼は笑い上戸なのだろうかと思われた。

「『霊媒』なんて個性、聞いたこともないからねえ。幽霊ってそんなにたくさんいるものなの?」
「えっと……まあ、今もその辺に」

いくらか、と答えておいた。実際目に見える範囲にも人間の霊が一人、動物の霊が一つ。ちょうど今、少し向こうからこちらに向かってくる男性の後ろにも一人憑いている。
幽姫の頭に乗ってぐうたらしているゴローちゃんを入れれば、四体。普段より頻度が高いように思えるが、これが大都会東京ということだろうか。
青年はふうん、とまた笑う。

「やだなあ怖い!」
「怖くはないですよ。見えない人からすれば、何もないのと同じなんですから――」

幽姫が苦笑したその時、霊に憑かれた男性が彼らの隣を足早にすれ違った。
それと同時に、見知らぬ男性に憑いている見知らぬ霊の“記憶”が流れてきた。つい幽姫の足が止まる。

サイドキックの彼は不思議そうに幽姫を振り返った。

「霊現さんどうした?」
「……あの、さっきの人」

幽姫は言いながら振り返って、霊を背負うように猫背で歩く男を見た。何かから逃げているように見えてしまう。

「……人を殺したみたいです」
「は?」

怪訝な声で返されたので、幽姫は慌てて続けた。

「霊に憑かれた男性がいました。恨まれているようです」
「なあに、それ」
「私、幽霊の“記憶”も見れるんです。その、殺された情景が……」

と、そこで幽姫は気がついた。青年がまたクスクス笑っていること。

それが、どこか嘲笑じみていること。

「そういう冗談はあまり趣味が良くないね」
「えっと、冗談ではないんですが」
「だってそんなことすれ違いざまにわかるなら、警察なんていらないだろ?」

彼の言葉を聞いて、ああそうだ、と思い出す。

「さ、パトロールの続きだよ」
「待ってくださいっ」

踵を返して行こうとした青年の腕を掴む。彼は不思議そうに振り返った。
その表情にはもう嘲るような色もない。元々、馬鹿にしたつもりはなかったのだろう。ベストジーニストの下で働くサイドキックだ、根拠なく他人を見下すような人間性では務まらない。

彼が今、幽姫の言葉を笑ったのは、ただ『常識的に考えて』というだけの理由。

「……騙されたと思って、あの男性に声をかけてみませんか。プロのヒーローでないと、本当のところはわからないでしょう」

そこまで言って、やっと青年は幽姫の言葉に多少の信憑性を感じてくれたらしかった。

――『常識的に考えて』、変なものを見る目で見られるのは慣れていたはずなのになぁ。



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