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ガイスト・ガール - 01



雄英高校に入学して初めての授業を一時間終えて、爆豪はフンとつまらなさそうに息をついた。
天下の雄英高校ヒーロー科といえど、高校生であることに変わりはない。午前の授業は普通の高校生らしい科目の授業を受ける。担当する教員の多くが名のあるプロヒーローであることを除けば、至って平凡な内容だ。退屈だ。

重要なのは午後からの授業である。本日は早々にヒーロー基礎学という科目が配置されているし、さっさと午前の授業が終わればいいのに。

十分の休憩時間に入ってにわかに騒がしくなる教室。すとん、と。目の前の席に座った相手を見て、爆豪はつい顔をしかめた。その席は透明な女子生徒の席であるはずだが、そこにいたのはにこにことご機嫌に笑う別の女子生徒。

「テメエ、昨日の」
「おはよう爆豪くん。ちなみに私、霊現幽姫って名前なの」
「知るか、ンなこと」
「うん、知らないと思ったから教えたんだよ」

お前の名前など毛ほどの興味もない、という意味だったのだが、残念ながら目の前の女子生徒の笑顔は崩れなかった。

チッと舌打ちして顔を背ける。近くにいたらしいクラスメイトが数人、それに気づいてあからさまに視線を外したのがわかった。どうやら少々注目を集めてしまったらしい、まあ入学早々男女二人で向かい合っていればそうもなるか。結局さらに腹立たしく感じ、爆豪はもう一度彼女に目を戻した。

「つーか何なんだお前、邪魔だ」
「気にしないで〜、私はゴローちゃんの付き添いでいるだけだから」

ねー、と幽姫が笑いかけた先は、爆豪の机の上である。
またわけわかんねーことを、とイライラ。机の上なんて、爆豪の薄っぺらいペンケースが載っているだけではないか。

「爆豪くん羨ましいなぁ、ゴローちゃんに気に入られて――」
「黙れ」

バキィッと衝撃音。無関係な生徒達もぎくっと肩を震わせて何事かと目を向けた。

幽姫の鼻先すれすれで上履きの足が、爆豪の机を割るような勢いで落とされた。
机上に載っていたペンケースが跳ねて、バラバラと音を立てながら中身が地面にばらまかれた。大きな目をパチリと瞬かせる幽姫は、爆豪に気圧されたか途中で言葉を止める。その表情に優越を感じながら、爆豪は鼻を鳴らしてニヤニヤ笑った。

「はっ、こんなんでビビんのかよ。これに懲りたらもう――」
「……ふふ、爆豪くんったら〜」
「――あ?」

幽姫は可笑しそうに、口元に手を当ててクスクス笑い出した。ちょっと脅して追い払ってやるつもりだった爆豪は、予想外の反応に思わず目を丸くした。

「ゴローちゃんには触れないんだから、そんなことしても一緒に遊べないよ。お茶目さんだね〜」
「……ハァァ!?」

へらへらとそれこそ意味のわからないことを言う幽姫。爆豪はいよいよ声を荒げた。

「マジふざけんなよクソ電波女ァ!!」
「爆豪くん!やめたまえ!」

と、そこに割って入ったのは真面目が服を着たような男子生徒、飯田天哉である。爆豪と幽姫のやりとりを見ていたらしい彼が、つかつかと爆豪の席までやってきた。

「昨日も言ったが、机の上に足を乗せるな!それから、女子に向かってそう乱暴な態度を取るのは感心しないぞ!」
「テメエは関係ねェだろがすっこんでろメガネ!!」
「なっ、君はまたそういうことを……!」

そんな二人を見ていたのかいないのか。幽姫は教室に備え付けの掛け時計を見てから立ち上がった。

「ゴローちゃん、爆豪くんは機嫌が悪いみたいだからそろそろ戻ろっか〜」
「待てや逃げんな!」
「違うよ〜、爆豪くん。ほら、もうすぐ予鈴鳴っちゃうし、次の授業の準備しなきゃあ」
「なにっ本当だ。爆豪くん!君も霊現くんを見習って、早くペンケースを片付けて授業の準備をしたまえ」
「ハア!?なんっ、お前ら何様のつもりだ!!オイ!!」

爆豪の怒声をものともしない幽姫も、キリッと爆豪に言いつけた飯田も、揃って爆豪の席を離れた。爆発した感情を発散させようとした丁度その時で、爆豪だけは不完全燃焼もいいところである。
苛立ちのピークもやり場がなく、ぐるんっと振り返って一番後ろの席に戻った幽姫を睨みつけると――真後ろにいた緑谷が顔を真っ青にしたのも目に入らなかった――当の幽姫は爆豪の目に気づき、にこっと笑って返した。

「ゴローちゃんが片付けてくれたよ、よかったね〜」

また意味のわからない発言――と思ったが、ハッと振り返って机の上を見ると、床に散らばっていたはずの文房具が綺麗にケースに収まってそこに鎮座していた。



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