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ガイスト・ガール - 27



幽姫の場合は爆豪のおこぼれではあるが、折角トップクラスのプロヒーロー事務所に世話になる機会だ。さぞ有意義な一週間になるに違いない――という、いたいけな学生二人の期待には、早々にヒビが入った。

「うっわ」
「テメッ……本気で引いた顔してんじゃねえよぶっ殺すぞ!!」
「ガタガタ動くな。口の悪さも正さなければならないな」

呆れたため息が聞こえて、爆豪はさらに顔を歪める。今にも周囲を爆破して怒鳴り散らしそうな気迫はあるが、さすがに学生の身分で実力者のベストジーニストに楯突くことはなかった。
ただし、七三に分けられようとしていた前髪は一瞬で元の通りに戻っている。

職業体験二日目の朝。幽姫は数人の女性スタッフに勝手を教わりながら、ロッカーでコスチュームとジーンズ――ベストジーニストの下ではなぜかジーンズ着用が義務付けられているらしい――に着替えてトレーニングルームにやってきた。
ファッションリーダー的人気もあるベストジーニストの事務所らしく、綺麗に磨かれたガラス張りのそこには、既に集合していた爆豪達がいて。

「爆豪くんって、恐ろしいほど七三分け似合わないね。びっくりした〜」
「似合ってたまるかァッ!!」
「そこ!ミーティングを始めるから静かに」

誰のせいだと叫びたいのをどうにか抑え込んで、爆豪は口を閉じた。
なんて自分勝手なことばかり言う奴らだ、なんて幼い頃から絵に描いたようなガキ大将だった爆豪に思わせるという意味では、幽姫もベストジーニストも同類だ。

*  *

期待にヒビは入ったものの、ジーニアス・オフィスはちょっとばかり個性的な決まり事やスタッフが目立つだけの、いたって普通のヒーロー事務所である。むしろトレーニングの質も高いし、パトロールに同行するだけでも初の経験は勉強になる。
難点は、ベストジーニストが爆豪の“矯正”に精を出しすぎて爆豪の機嫌が露骨に悪くなっていくことくらいだ。

職業体験三日目。基礎トレーニングはジーニアス・オフィスに所属するヒーローのタスクの一つらしい。爆豪にしてみれば本当に基礎レベルに思えるが、幽姫の方は毎度なんとか乗り切っている、といった感じだ。
合間の休憩に入った今も、床にぺたりと座り込んでスポーツドリンクを流し込んでいる。

「お前、体力無さすぎんだろ」
「ね〜、改めて自覚しちゃう」

そういえば、彼女がこうして運動で疲弊している姿を見たのは初めてな気がする。思い返せば、元々活発な方でもないのだから、普段からトレーニングの量は少ないのだろう。怠慢だ。もっと鍛えろ。

呆れた声で言う爆豪は、まだまだ余裕ありげの表情。幽姫からすれば、そもそもタフな爆豪と同列に並べて評価されても困るという気もする。
ただ、平然と汗を軽く拭う爆豪と、トレーニング途中で既に座り込んでいる幽姫の差は明白だ。やっぱりもっと鍛えなければ、と幽姫自身が改めて自覚したその時。

べちんっ。

「――あいたっ!」
「何やってんだアホ」
「私じゃないの……なあに、ゴローちゃん。メール?」

やたら勢いよく顔面に叩きつけられたのは、幽姫のスマホである。もちろん犯人は念動力的力のあるゴローちゃんに決まっていた。
顔からスマホを取ると、ゴローちゃんが幽姫の前に座ってじっとこちらを見上げていた。

「後で見るから、戻しといてね」

まだトレーニング中である、メール確認などするのははばかられた。軽くゴローちゃんを宥めて、スマホをもう一度床の上に置く。
すかさず、二度目のべちんっ。

「いたいってば……!」
「見ときゃいいだろ、めんどくせえ」

爆豪が呆れた声で言う。さっと見るくらいなら失礼でもないだろう、と幽姫もゴローちゃんに折れた。スマホの画面を開くと、新着のメッセージがすぐ目に入る。

「……緑谷くんから?」

差出人に珍しい名前があって、幽姫はつい声に出した。と、同時に上から伸ばされた手に無理やりスマホを奪われる。なんだか不機嫌そうな声が続いた。

「なんでデクからテメエに連絡くんだよ」
「別に私にってわけじゃないよ」

画面を確認すると爆豪にもその言葉が正しいのはわかった。クラスメイト全員に向けてのメッセージ、よく知らない場所――最近名前を聞いた気のする地域ではあったが――の位置情報だ。一応爆豪も登録しているから、おそらく同じメッセージは彼のスマホからも確認できる。

ふんと鼻を鳴らして、ぱっと幽姫のスマホを手放した。すとんと真下に落ちて、再度幽姫の手の内に戻る。

「どういう意味だろうね」
「知るか」

勘違いしたのがどうもバツの悪い気分になった。爆豪が変わらず不機嫌な声のままなので、幽姫もそれ以上爆豪に声をかけるのは諦めた。代わりに近くにいたスタッフに声をかけて、メッセージの住所を見せてみた。

「あの、この住所わかりますか?」
「ん?あれ、保須市だね。この間ヒーロー殺しが出たってニュースになってたでしょ、あそこ。ここからだと、電車で数十分ってとこかな」

――ヒーロー殺し。
爆豪にも幽姫にも、ちらりと思い当たるクラスメイトの顔があったが、電車で数十分と聞いてそのままスマホの画面を消した。どうかした?と尋ねられたが、大丈夫です、と返しておく。

ちょうどその場所で、これから数日間世間の話題をかっさらう事件が起きたことを幽姫達が知ったのは、その数時間後のこととなった。



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