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ガイスト・ガール - 26



駅の中ですれ違った社会人風の二人組は、興味深そうに爆豪のことを見た。
そそくさと彼から離れた後に、顔を見合わせて何か言い合っている。特に悪口というわけでもないらしい、単純に爆豪の地雷を踏みかねない可能性を無くすために離れただけなのだろう。何せ、表彰台の上で物々しい拘束具を施されている爆豪の姿は、残念ながら全国ネットで配信されたのである。

一週間の職場体験が今日から始まる。新幹線のチケットは学校が用意したものを配られたので、コスチュームのケースと最低限の荷物を引きずって、爆豪はさっさとホームに向かっていた。
クラスメイトそれぞれの行き先などは知りもしないが、全国のプロヒーローから指名なり受け入れ許可なりで適当に散らばっていくのだろう。幽姫の行き先も聞いていない。三千件以上の指名事務所のリストに面倒臭そうに目を通す爆豪を見て、さすがだねぇと笑っていただけだった。自分のリストに目を通していた様子もなかったが、即決するほど良い行き先が見つかっていたのだろうか。

――別に、幽姫がどこに行ったところで、爆豪には関係ないけれど。

指定席の番号を確認して席に着いた。隣の席は未だ空席らしい。このまま埋まらなきゃいいのに、と思いながらコスチュームのケースを棚に上げていると、あれっと耳慣れた声。

「爆豪くん、その席?」
「お前……なんでいんだよ」
「隣の席だね〜」

嬉しそうに笑ってそこにいたのは幽姫だった。学校が用意したチケットなのだから、座席は固められていて当然なのか。
まさかこいつと行き先が被るとは思っていなかった。

「ゴローちゃんも嬉しいって」
「知るかよ……おい、それ貸せ」

相変わらずの幽姫に少し眉を寄せながら、爆豪は右手を出した。意図がわからなかった幽姫は首を傾げる。

「なに?」
「コスチュームに決まってんだろーが。持って座る気か邪魔だアホ」
「え、ああこれ……」

無駄な罵倒があったように思えたが、幽姫は少し戸惑いながらコスチュームの入ったケースを爆豪に向けて差し出した。それをぐいと引ったくるようにして受け取ると、爆豪は何も言わずにそれを自分のと並べて棚に置いた。

「あ、ありがと」
「フン」

自分のを片付けるからついでだっての。内心そう呟いて、爆豪は席にどかりと座って足を組んだ。いつもの重さがすかさず乗ってきたので、ゴローちゃんも本当に飽きないものだ。

「爆豪くんも東京の事務所なの?」
「ん……つーか、テメエはどこなんだよ」
「あ〜……」

これまで結局聞いていなかったが、ここにきて話に出さないのも不自然だろう。
別に気にしているわけじゃない、と思いながら、幽姫の言葉を待つ。しかし相手はなんだか言いづらそうに視線を彷徨わせて、結局苦笑しただけだった。

「実は、なんでか一つだけ指名もらって。それも、ちょっと有名なとこ」
「あ?決勝にも出てねえくせに」
「ね。私も不思議なの」

決勝に出た芦戸や青山、緑谷でも指名は来ていなかったのに。どうして一つも見せ場のなかった幽姫が。しかし疑問なのは当の本人も同じらしく、本当に困ったような顔で笑って見せている。

「せっかく指名もらったし、とりあえず希望はしたんだけど……理由がはっきりしない限りは、あんまり言いたくないの。ほら、手違いとかだったら、相手方も広められると困るでしょ?」
「自業自得だろが」
「そうとも言うけど」

爆豪はバッサリ切り捨てたが、幽姫はやはりあまり言いたくないようだ。むしろ手違いで彼女を振り回したのだとしたら、風評被害でもなんでも起こしてやってバチは当たらない気がする――そんな無駄骨は折らないが。

*  *

結論から言えば、幽姫の指名は手違いでもなんでもなかった。
というか、言い渋っていた行き先も、爆豪の前であっさり判明したのだ。

「君のように凶暴な人間を“矯正”するのが、私のヒーロー活動。仲がいいのだろう?彼女にも手伝ってもらおうと思って呼んだのさ」

No.4ヒーロー、ベストジーニスト。確かに風評被害には弱そうな、有名な事務所だ。
爆豪が人気順で選別して志望してくると踏んだベストジーニストが、事前に幽姫にも二票目の指名を入れていたらしい。理由は、上記の通り。体育祭時の爆豪の凶暴性が、ベストジーニストにとっては許せなかったのだと。

「敵もヒーローも表裏一体……そのギラついた目に見せてやるよ。何が人をヒーローたらしめるのか」

――どうもややこしい人達に巻き込まれてしまった。

幽姫はひっそり気がついてしまった。



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