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ガイスト・ガール - 23



『中学からちょっとした有名人!!堅気の顔じゃねえ!ヒーロー科、爆豪勝己!!対、俺こっち応援したい!!ヒーロー科、麗日お茶子!!』

プレゼント・マイクの紹介を受けて、一回戦最終試合の二人がフィールドに並んだ。

爆豪と麗日、一見してヒーローらしからぬ男子と目の大きな可愛い女子。普通に考えて、どちらが有利か、はたまたどちらが同情を誘うか、やはり明らかだ。

スタートの合図と同時に飛び出したのは麗日の方だった。実力差を埋めるための速攻だ。間合いを詰めて触れさえすれば、動きを大きく制限できる麗日に勝機も見えてくる。しかしその間合いを詰めるということ自体が、相当難関である。
正面から向かってくる麗日に、大きく右腕を振って爆発させた。

「うわあモロ……!」
「女の子相手にマジか……」

客席からはどよめきが起きた。確かに、対戦相手が女の子かどうかなど、爆豪は一切気にしていないが。
――当たり前のことだと、思うけどなぁ。
幽姫は内心どこか納得のいかない気分で思いながら、試合から目を離さない。果敢に爆豪に挑む麗日と、それに圧倒的な反応速度と攻撃力で対抗する爆豪。

「見てから動いてる……!?」
「あの反応速度なら、煙幕はもう関係ねぇな」

瀬呂と上鳴が口々に言った言葉も、その通りだった。視界を狭めても、神経をとがらせる爆豪には即座に気づかれる。

一度目の上着を使ったフェイントが敗れたことで、麗日が焦って飛びかかっているようにも見えたが――爆煙の隙間から気づいたのは、しばらく経ってからだった。

「おい!!それでもヒーロー志望かよ!そんだけ実力差あるなら、早く場外にでも放り出せよ!!」

客席からブーイングが上がった。確かに麗日の能力が爆豪に及んでいないのは見ていてわかる。しかし彼らは重要なことに気づかなかった。
これが真剣勝負であること、真剣勝負だからこそ単純な能力差で結果が出ないこと、フィールドの二人はどちらもそれをよくわかっていること、そして麗日の策。

「――勝あああつ!!!」

客席にいても伝わるほどの、麗日の気迫も。

『流星群――!!』

プレゼント・マイクの実況が驚愕の色をありありと示す。
何度も爆破を受けたフィールドの地面は細かい欠片となり、麗日の個性によって爆豪に向け降り注いだ。普段の優しい彼女から想像できないほどの大規模な攻撃。爆豪だって、予想もつかなかっただろう。爆発の中で彼女の武器を作らされていたことにも、気づいていなかった。

だからこそ――その流星群を全て、一撃で爆破し消し去ってしまえたのはただ、爆豪と麗日の戦闘能力の歴然とした差だったのだろう。

『麗日さん、行動不能……二回戦進出、爆豪くん――!』

特大の秘策はなすすべなく、しかしなお爆豪に向かって一歩踏み込んだ麗日は、そのまま力を使い切って倒れ込んだ。ミッドナイトの采配は、爆豪の勝利で試合終了を告げた。

*  *

すぐ客席に戻ってきた爆豪は、担架で運ばれた麗日と対照的な無傷だった。口々に爆豪に声をかけるクラスメイトの口ぶりは、いかに爆豪対麗日戦が見ていて恐いぐらいの悪役対か弱い少女だったか、といったもので。
フンと不機嫌に席に着いた爆豪は呟いた。

「どこがか弱ェんだよ……」

――不完全燃焼っぽいなぁ。

幽姫はその声色でなんとなく気づいた。実力差のある麗日が一矢報いたこと、それなのに試合の最後はキャパオーバー。釈然としないのだろうなぁ。

――なんだか羨ましいな。不謹慎だけど。

『霊現って、爆豪のこと好きなん?』
唐突に尋ねられたその言葉は、幽姫には今答えることができない。今後答えることもなく終わるかもしれない。
ゴローちゃんがね、と誤魔化した。ゴローちゃんが、爆豪くんのことを好きなんだよ、と。

幽姫はただ、爆豪を友達として応援しているだけ。隣でチアリーダーの真似事をしてにっこり笑って見せただけ。彼の求めるものが、彼の手に届けばいいと思っているだけ。麗日を始めとしたライバル達をじっと観察する横顔を、ただ見ているだけ。

そこに映る彼らが、なんとなく羨ましいだけ。自分がそれほどの価値もないことには、ほんの少し、残念だったなと思っているだけ。



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