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ガイスト・ガール - 22



レクリエーションが終わっていよいよ決勝トーナメントが始まった。
会場に戻ってきた爆豪はもう完全に臨戦モードに入っていて、邪魔をするのもよくないかと幽姫は特に声もかけなかった。応援してるとは伝えたし、体操服に着替えた彼女はもうチアリーダーでもない。彼に言えることは無いだろう。爆豪に限って言えば、彼の力を一番よく理解しているのは、彼自身なのだから。

一戦目の緑谷対心操から、順当に二回戦進出者が決まっていく。爆豪が特に意識しているらしい轟と緑谷は二回戦で早々に当たっているので、少なくともどちらか一人とは爆豪は戦えないわけだ。
残念だなあ、と思う。きっとあの二人を両方倒して、彼は一番になりたいのだろうに。

一回戦が半分ほど終わったところで、爆豪の対戦相手である麗日が控え室に向かったのを見た。顔が強ばっているのも当然だろう。友人としての幽姫でも、爆豪とサシでやりあえと言われたらそりゃ恐ろしい。

その後常闇対八百万が終わった後、切島対鉄哲の硬化対決が平行線に入る気配になったあたりで、ようやく爆豪は席を立った。
彼の隣に座っていた上鳴が控え室に行くのかと目をやって、何気なく声をかけた。

「おい爆豪。女子相手にひでーことすんなよ?」
「あ?」

それに対してすっと目を細めて爆豪は返した。

「知るかボケ」

あっさり、手加減などするつもりはないと明示してみせた。えーっと声を上げる上鳴を無視して、爆豪はそのまま客席を後にした。爆豪を挟んで向かいに座っていた幽姫と目が合って、上鳴は眉をひそめる。

「ありゃマジで容赦しねえな……」
「ふふ、まあ爆豪くんだもの」

幽姫はわかっていたというように頷いた。上鳴などはそれこそヒーローらしからぬ話ではと思うのだが、幽姫はそれが当然といった風である。シビアな奴らだな、なんて上鳴は肩をすくめる。

「麗日さんも、ヒーロー志望なら手加減なんて期待してないんじゃない?」
「霊現もそうなん?」
「私?」

幽姫は意外な質問を受けたとしばし首を傾げていたが、存外あっさり頷いた。

「爆豪くんに手加減されたらショックだなぁ。下に見られてるってことでしょう」
「いや、アイツはもともと自分以外は全部モブとか思ってそうじゃん」
「それはそうだけど」
「認めるのね……」

上鳴が苦笑すると、事実だもの、と幽姫はクスクス笑う。

「でも安易に見下す人じゃない――っていうと違うかな、見下しはするかも……軽く見ないっていうか、そういう人だから」
「うーん?そうかぁ?」
「ふふ、上鳴くん、まだ頭ショートしてるの?」
「……霊現って結構きついこと言うよな」

一瞬ぐさっときたぞ、と上鳴は恨みがましく顔をしかめた。ごめんね、と幽姫は軽く謝ってから続ける。

「だって爆豪くん、切島くん達の試合までずっと真剣に見てたよ。どこかで当たるかもしれないライバルのこと、ちゃんと見てた」
「あー?」

言われてそういえばと気づいたのは、爆豪がついさっきまで、この場にいたという事実だ。麗日はもっと早くに客席を出て行ったのに、爆豪はそれこそ、直前の試合までじっとしかめっ面で上鳴と幽姫の隣にいた。

「それこそ、麗日を見くびってるんじゃねえの?次の試合の心配するなんてのは」
「うーん……そこはまた違うと思うの」

幽姫は、今度は少し自信なさげにしながら、また上鳴の発言を否定してみせる。

「麗日さんが控え室に向かったの、反応してたよ。気にしてはいるんじゃないかな」
「そんなのよく気づくな、お前」

上鳴は本気で驚いた。反応したと言っても、おそらく少し目を向けた程度のことだろう。
それに目ざとく気づくなんて、むしろ気にしていたのは、それこそ……。

「――霊現って、爆豪のこと好きなん?」

上鳴がそう尋ねると、幽姫はパチリと瞬きをした。やわらかい印象の強いたれ気味の瞳が、この時はまん丸く見開かれていた。その反応に、おやこれは?と気が急いて、上鳴は無意識に輝いた目で返ってくる言葉を待つ。

しかし幽姫はいつも通り、へらりと笑って答えるだけだった。

「……ゴローちゃんがね」

と、一言。



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