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ガイスト・ガール - 21



ついに雄英体育祭決勝戦トーナメント。今年は一対一のガチバトル。
直前になって棄権を申し出た尾白、B組の庄田の二人に変わって、B組の鉄哲と塩崎が繰り上げで進出し、総勢十六名の組み分けが発表された。

「……麗日?」
「爆豪くん、まだクラスメイトの名前覚えてないの?」
「うっせえ」

心当たりがない、というような声で一回戦の対戦相手の名前を読み上げている。クスクス笑って軽口を叩けば、爆豪はピクリと眉を動かして悪態づいた。

「無重力の子だよ〜」
「……ああ、丸顔の」
「丸顔」

爆豪の記憶している情報が少なすぎる、と幽姫は苦笑してしまった。
同時にプレゼント・マイクのテンション高いアナウンスが響き渡る。

『よーしそれじゃあ、トーナメントはひとまず置いといて、イッツ束の間!楽しく遊ぶぞレクリエーション!!』
「あ、準備しなきゃ」

ぱんっといくつか小さな花火が打ちあがって、ここまで真剣勝負に張り詰めていた緊張が少し緩まった気がする。とはいえ、幽姫は騎馬戦で敗退なので、もう参加種目はこのレクリエーションのみだ。
爆豪は眉をひそめて幽姫をジロリと見ながら、低い声で呟いた。

「……つーかお前らはなんのつもりだ、それ」
「なんのって、チアリーダーだよ」

見てわかるでしょ、と黄色いポンポンをバサバサ振って見せた。当然、そういう意味じゃねえわアホが、と即座に言い返される。

「八百万さんが騙されちゃったんだから、仕方ないの〜。まあ、可愛くていいんじゃない?」

昼食時――結局幽姫はあのまま爆豪と一緒に食堂にいたのだが――メッセージアプリでクラスの女子に緊急招集がかかった。内容は、女子はレクリエーションで応援合戦をするので衣装に着替えて欲しい、とのこと。
八百万が担任からの指示を忘れるなんてと疑問には思ったものの、全員でチアガールの格好をし、まんまと峰田・上鳴を喜ばせてしまったところだ。

このままレクリエーションやるんだって、と言うと、爆豪はさらに顔をしかめた。どういう意味の不機嫌だろうと思ったが、フンと鼻を鳴らした爆豪が続けた言葉が理由らしい。

「さっさと着替えろ。見てらんねえわ、ンなもん」
「えー、手厳しい」
「事実だ。何回他人に乗せられりゃ気が済むんだ、テメエは」
「うん?物間くんのこと?」

幽姫は首を傾げた。爆豪はつい先ほども同じような言葉を言っていた。曰く物間達B組に手を貸したのは、口車に乗せられたからだということらしい。そんなつもりはなかったのだけれど、散々煽られた爆豪からすれば幽姫が加担していたのは気にくわないのだろう。
それはともかく、今回に至っては爆豪に迷惑もかけていないし、口車に乗せられたのは八百万なのだけれど――と思いながら、幽姫は何の気なしに続けた。

「まだ引きずってるの、らしくないね?」

すると爆豪はそれが無自覚だったようで、一瞬目を丸くして幽姫を見た。そしてすぐに表情を変える、それこそ爆豪らしい、不機嫌丸出しの怒り顔。

「引きずってねえよふざけんな電波ァ!」
「そう?だったらいいけど」

突然怒鳴られてしまった幽姫はパチリと瞬きすると、あっさりいなした。爆豪の怒鳴り声を聞き流すのは慣れたものだ。

そんな彼女にチッと大きな舌打ちをして、爆豪は足を会場の外に向けた。決勝進出の場合、レクリエーションへの参加は自由である。爆豪のことだから、レクリエーションなど無視してコンディションを整えたいのだろう。予想できていた幽姫は、苛立たしげに去ろうとする爆豪に声をかけた。

「ねえ爆豪くん」
「なんだよ」
「決勝頑張ってね。応援してるよ」

ちらりと振り返った爆豪に、にっこり笑ってポンポンを振った。一応、チアリーディングのつもりだ。
爆豪はしばしバサバサと鳴るそれを見て、それから。

「――ったりめーだ。俺が一位とんの、きっちり見とけ」

と、口元を緩ませた。その声色がなんだか聞き覚えもなく、幽姫は去って行く爆豪の背をぼうっと見つめてしまった。
笑った。あの暴君が、勝ち誇った笑みでも馬鹿にする笑みでもなく、ただ笑った。

――そんな表情、できるんだ。

しびれを切らした芦戸が集合と声をかけに来るまでのほんの数秒、幽姫は呆然と立ち尽くしてしまっていた。



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